現在のところ全人類の最大の敵、エボラウイルスの姿です。

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国連がエボラ出血熱に対して「いままでのところは我々の完敗だ」「あと60日間で対処できなければ感染は止まらない」「そうなったら人類は未曾有の危機に直面する」とコメントし、その悲観的な内容が話題になった。

どうすれば勝てるのか? 感染者の70%を療養施設に収容し、死亡者の70%を二次感染無しに埋葬することが必要で、そのためには感染拡大の現場で複雑な対策が必要となり、「そのうち一つでも失敗したら我々は敗北する」と語った。なんだかとっても厳しそうである。

しかし、やたらと恐ろしさが喧伝されているエボラ出血熱感染症。要するに感染できないように隔離してしまえば勝てるはずだ。どう隔離するか。三つのレベルがある。細胞、人、地域だ。

・細胞
たとえエボラウイルスを吸い込んだとしても、ウイルスを細胞から隔離しておければ増殖できずに人体が勝つ。ウイルスが細胞にとりつくのをジャマするのがワクチンや血清だ(仕組みはこの記事の「Are there drugs to treat or prevent Ebola? 」にある模式図がわかりやすい)。

乱暴にいえば完璧なワクチンが全員分あれば、人間様の完全勝利である。しかし現在ではエボラに対して効果が保証されたワクチンも血清も無い。8月に感染したアメリカ人男女に使用されて、患者が快方に向かったZMappなど有望な薬もあるものの、今はまだ臨床試験中で間に合わない。だから、ウイルスの侵入を許さない装備が必要になる。

・人
ニュース映像でよくみるゴーグルとマスクと雨合羽みたいなもので全身を覆った防護服。あれを着れば、ウイルスを完全に遮断できる。でも絶対安全なわけではない。付けるにも外すにも訓練が必要で、たとえば、ゆるんで隙間があいたらダメだし、マスクを外した後に手袋が顔を触れてもダメだ。

それにこんな重装備を全員に配るわけにはいかないし、着たまま日常生活はできない。だから感染した人や感染したかもしれない人をどこかに隔離して、そこで訓練を積んだ人が防護服を着て看護や治療をすることになる。

・地域
感染した人を全員どこかに閉じ込めてしまえば、それ以上感染は広がらない。今回も感染拡大の中心地リベリアでは首都の一部を封鎖、シエラリオネも軍隊を出動させて感染が多い地域を力ずくで隔離した。

しかしこれはうまくいかない。力ずくで追いやられたら逆らいたくなるのが人の性。抵抗があって死人が出ているし、前から嫌いだった人を「あの人感染してるかも」と密告したり、感染しても隠す人が出てくるかもしれない。ゾンビ映画でも軍隊が出動して住民の出入りを禁止するシーンをよく見かけるが、100%破られる。

だから環境を整えて名乗りやすくして「危ないかも」と思ったらなるべく自発的に、必要ならお願いして、病院や施設に来てもらう。検査して感染していたら隔離する。これが一番だ。「国境なき医師団」は感染拡大の初期から、西アフリカに治療施設をつくって、やってきた人を受け入れて治療に当たっている。

ただしこのやり方でも西アフリカでの感染拡大を抑え込めていない。一つは施設が足りないからだ。今でも外には順番待ちの行列ができていて、入れないのに待ち続けても衰弱してしまうから、あきらめて家に帰るように説得している。

人手も足りていない。もともと30℃を超える気温の中で完全機密の服を着て、検査したり看護したり看取ったりする肉体的にも精神的にも過酷な仕事だ。人が足りなければ疲れはたまり、ミスにつながって感染してしまう。感染したらもちろん仕事はできないから、さらに人手が減る。

正しく情報が伝わっていなかったり、防護服が配られなかったりして、リベリアで医療従事者がストライキを起こしたこともある。

ただしどれも解決できる問題だ。人手や物資や情報が足りないだけだからだ。

防護服がいきわたって十分なトレーニングを受けられれば、医療従事者への感染が減る。人手が増えれば体力的にも精神的にも余裕ができて、ミスで感染する人も減る。施設がたくさんできれば入りきらなくて家に帰される人がいなくなって隔離がはかどる。

実際、適切な対処ができたセネガル、ナイジェリアでは既に拡大終了宣言を出している。だから西アフリカでそれができないのは、エボラ出血熱が凄いのではない。人類が本気を出していないだけだ。

これまでに悲観的なコメントを出したのは国連だけではない。国境なき医師団が「このままではおさえきれない」、CDCが「このまま手を打たないと感染者は140万人に達する」、WHOが「最悪だと12月には週あたり1万人感染者が出る」とコメントした。それでも支援が十分増えない。だからついに国連が出てきて、期限まで切って脅かさざるを得なくなったのだ。

それを受けて、ようやく国際社会が本腰を入れ始めている。国内で二次感染者を出したアメリカのオバマ大統領は特にやる気で、国連の会議で各国に協力を要請した。日本も専門家を派遣している。

人類の一員として何かしたくなっても、専門知識がない個人ができることはあまりない。「国境なき医師団」に寄付するとか、もし自分が感染したら隔離される覚悟を決めるくらいだろうか。

ただ日本では感染者が出た場合、病院や検疫所でどうするかは連絡されているが、感染した人の家族や近所の人がどう隔離されるかは法律はあるものの具体的にはよく分からない。

あぶない人は有給使わずに会社を休めるとか国が具体的な方針を出してくれないと、いざエボラが入ってきたときに個人で隔離、つまり感染してそうな人(エボラの初期症状は発熱、筋肉痛などインフルエンザと似ているそうだ)を避けたり「こっちに来ないでください」と言わなければならない。これはつらい。それに日本から派遣された専門家に「お仕事頑張ってきてください! でも感染したら帰ってこないでね!」などと心ないことを思いたくない。だから国には早めにきちんと方針を説明してほしい。(tk_zombie)