■ポゼッション向上が結果に繋がらない仙台

ACLとJ1リーグを並行して戦っている仙台。ACLはグループステージも大詰め。4月24日にタイで行われたブリーラム・ユナイテッド戦は、試合終了間際FW中原貴之のゴールで同点に追いつき、最終戦のホーム江蘇舜天戦に望みをつないだ。一方のJ1リーグの方だが、2勝3分け3敗と負けが先行し、順位も12位と苦しんでいる。

今シーズンの仙台はポゼッションにより相手を崩してゴールを目指す得点スタイルを強化してきたが、負傷者の影響や連戦の疲労もあり、新しいスタイルが浸透しているとは言い難い。むしろポゼッションを高めると、横パスをカットされてカウンター攻撃を受けて失点してしまうケースが多く、ポゼッションの向上が結果に繋がっていない。

■ポゼッションにこだわりミスからの失点を招いた川崎戦

J1第7節川崎戦はその典型のような試合だった。積極的にパスを繋いでゴールを目指していたが、パスミスを相手にさらわれ、川崎攻撃陣のカウンター攻撃を受け続け、前半だけで3失点。後半仙台はシンプルにサイドを使ったり、ロングボールを入れたりと大きな展開を使ったところ、2得点を挙げることができたが、2-4で敗れてしまった。

試合後手倉森監督は「繋ぎ通して勝てるサッカーはバルセロナしかいない」とこの日の前半の戦いを反省した。

「大事にサッカーをすることと大胆にサッカーをすることは違う。ハーフタイムで言ったのは『ここは敵地だ』ということ。『自分達がボールを握って握り通して点を取れるような甘い場所ではない』という話をした。自分達がピッチに立った時のシチュエーションというものを、もう少し考えてやらなければならない」とアウェイで相手のプレッシャーが強かった状況で、大事に行きすぎたゆえの横パスが奪われて失点に繋がったことを悔いていた。

■連戦の間は割り切ったプレーも必要か

現状の仙台はまだポゼッションをチームで有効に活用できていない。チャンスは作れるが、シュートまで行かないことが多く、大事に行こうとし過ぎるあまり足下への横パスが増え、それが奪われてピンチを招いている。連戦でパス精度が下がることも考えると、5月下旬のリーグ中断期間までは、シンプルにサイドを使ってクロスを入れたり、ロングボールを使ったりといった割り切ったプレーも織り交ぜていくのが現実的だろう。

幸い今シーズンは6月が中断期間となっており、チームの立て直しが効く。層の薄いポジションへの選手補強もできるし、ポゼッション戦術を一度整理して、実効性をより高めたものにできる時間はある。今シーズン目指しているポゼッションの向上は、一朝一夕にはうまくいかない。1年をかけて徐々に高めていき、試合の中での使いどころを身につけていくことが必要だろう。

■新加入の左サイドバック和田が今後のキーマン

もう一つ言えるのはポゼッションの得意な新加入選手がチームにフィットすることが必要だ。東京Vから新加入の左サイドバック和田拓也もその一人。和田は東京Vでは昨シーズンボランチとしてプレーしていたこともあり、左サイドバックの位置からゲームをつくれる選手だ。FWへのくさびのパスを攻撃のアクセントとして入れたり、同サイドの選手、特に梁勇基とコンビネーションをつくったりして相手を崩せる。ホームで行われたACLFCソウル戦や、第6節FC東京戦などではそうしたプレーが随所に見られた。

しかし課題は守備。特にプレッシャーの厳しい相手との相性が悪い。第1節甲府戦は対面の柏好文の突破を何度も許し、第7節川崎戦も小林、大久保らの対処に苦しみ、ミスから3失点に絡み、前半で交代となってしまった。

悔しい思いをした川崎戦後であったが、和田は「大久保選手がうまい位置に落ちてきて流れてくるところもあって、自分が前に食いついて裏を取られた。そこでボランチに任せるとかできれば良かった」と的確に自身のプレーを分析した。

和田の良さは結果を受けて過剰に落ち込むことなく、冷静に自分を客観視して、反省を次に繋げようとする姿勢であろう。ミスで落ち込み冷静さを失う選手であれば、個性派集団東京Vで這い上がることはできなかったはずだ。ハートの強さと冷静な分析力を持っているのは彼の絶対的な強みだ。

和田がチームにフィットすれば、左サイドでの梁とのパスワークから繰り出される攻撃がさらに脅威となり、仙台のポゼッションは実効性あるものになる。和田は今後の仙台を占うキーマンと言えるだろう。

■著者プロフィール
小林健志
1976年静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。ベガルタ仙台オフィシャルサイト・出版物や河北新報などでベガルタ仙台についての情報発信をする他、育成年代の取材も精力的に行っている。