三菱自動車フットボールクラブ・橋本社長の挨拶が始まると、地鳴りのようなブーイングが埼玉スタジアムを包む。嫌悪感と敵意むき出しの大ブーイングは、社長がピッチから去るまで鳴り止むことはなかった。

異様な雰囲気ではあったが、ペトロビッチ監督が就任するという報道を聞いた時に、この結末を想像した人は少なくないだろう。もちろん、期待感がなかったとは言わない。オランダ式が浦和に向いていないとは思わなかったし、通訳がオランダでライセンスを取得した林氏というバックアップ体制も胸を膨らませる要因になった。しかし、試合を重ねるにつれ、ピッチには改善されない問題が浮かび上がる。浦和フロントが下した監督解任という決断を、大半の人間が支持しているはずだ。

では、なぜ、ここまでサポーターの反感を買ってしまったのか? それは経営側のビジョンの欠如、そして責任感のなさが要因ではないだろうか。

降格争いに加わるようなことにならない限り、フィンケ氏には3年間を任せる決断をしたのだと思っていた。なぜならば、2年目で契約を更新しないのであれば、前年に闘莉王を放出した意味が薄れてしまう。ところが、2年目で退任。その後に就任したペトロビッチ監督も1年で解任。こんな場当たり的なチョイスばかりでは、解任には賛成でもフロントそのものには賛成できない。ビジョンがあるとは思えないからだ。

それでもフロントというクラブの中枢のポジションに居座り続けるから、愛するクラブの人間なのに、サポーターとしては“食いもの”にされているように映り、同志とは程遠い感情を持ってしまう。

とはいえ、こういったフロントの体質は浦和だけではない。

たとえば、千葉もそうだ。パスサッカーを志向した江尻監督から、スタイルの違うドワイト監督に路線を変更。しかし、終盤戦でまさかの失速をすると、1年も経たずに解任に踏み切る。ここでフロントが行ったのは『代打、オレ』的な、GMの監督就任である。

甲府も同様だ。佐久間GMは自身で招聘した三浦監督を更迭し、自身が監督に就任するという人事を行う。結末はというと、J2降格である。最終戦後にハーフナー・マイクがクラブの方針に不満を述べたらしいが、気持ちは十二分に理解できる。

同様にビジョンが欠如しているチームは他にもある。浦和ほどのサポーターがいないから、大々的に報道されず、表面化していないだけである。他クラブのフロントたちも、デモのような浦和サポーターからの大ブーイングを、自分たちへのブーイングと厳粛に受け取るべきではないだろうか。

◇著者プロフィール:石井紘人 Hayato Ishii
サッカー批評、週刊サッカーダイジェストをはじめ、サッカー専門誌以外にも寄稿するジャーナリスト。中学サッカー小僧で連載を行い、Football Referee Journal(fbrj.jp)を運営している。著作にDVD『レフェリング』。各情報はツイッター: @FBRJ_JP。