W杯予選に入り、ザッケローニ監督のスタンスに多少変化が見られた。「あくまで目標は2014年。結果より成長していくことが大切で、だから若いメンバーを連れてきた」と繰り返していたアジアカップでは、GK権田と森脇を除き全選手を使った。だが確実な結果が求められるW杯予選に入ると一転してメンバーを固定し、むしろ阿部、中村憲、前田ら経験豊かな選手たちの復帰が目立った。

ただしメンバーの選択には慎重を期しているようで、その組み合わせや戦術の選択は大胆だった。3次予選で最初のアウェイ戦だったウズベキスタンとの試合では、就任以来初めて阿部のアンカーに長谷部のトップ下という組み合わせを試し、先制を許した平壌での北朝鮮戦では、後半途中から今まで機能したとは言い難い3−4−3に踏み切った。そして結論から言えば、おそらくどちらも前向きなデータ収集には繋がっていない。

明白になったのは、ボランチとCBを中心としたバックアップ、アウェイ経験(強豪との対戦)、さらには3−4−3の準備が、それぞれ不足していることである。特にボランチは遠藤の代役もさることながら、主将で核となる長谷部が所属クラブで十分な出番を確保できず、このポジションでプレーすることが少ないのも気になる。またザッケローニ体制移行後は、まだアジア以外でのアウェイ戦が行われていないので、最低限今年中にいくつかのマッチメイクを実現することが日本協会の使命となるだろう。

そして難しいのが、ザッケローニ監督が拘る3−4−3への時間の割き方だ。現在の日本代表は欧州組が中心で、しかもどの試合でもほぼ全員の所属クラブが異なる。それだけ個の力が伸びたという見方も出来るが、逆にコンビネーション作りは難しく、それがバックアップ不足にも繋がっている。限られた活動時間で、大半の選手が所属クラブで未経験の戦術導入を図るのと、4−2−3−1を成熟させていくのでは、どちらが効率的なのか、という問題が横たわる。

本来なら4−2−3−1から3−4−3へは、選手交代を行わずにシフトしたいところで、そのためにはCBとサイドMFの資質を兼備した選手が必要になる。現在ザッケローニ監督が伊野波を積極的に使っている理由だが、そこに重きを置くならむしろ早いタイミングで酒井宏を五輪からフル代表に昇格させておく必要があるのではないか。

しかし無敗という成績ばかりが強調されて、順風満帆に映ったザッケローニ体制だけに、ここでいくつかの課題がクローズアップされたことは、むしろ収穫と考えていいかもしれない。