「完全予想:アップルが発表する「新しいサーヴィス」について、いま判明しているすべてのこと」の写真・リンク付きの記事はこちら

アップルが3月25日(米国時間)のイヴェントの最後に発表する「One more thing(最後にもうひとつ)」があるとすれば、それはあなたが近い将来に「読む」ものか「観る」ものになるだろう。そのためのハードウェアではない。

3月25日のイヴェントは“メディア”に焦点が当てられ、雑誌を発行する主要な出版社やエンターテインメント業界の幹部たちが顔を揃えることになる。こうした大物たちは、少なくとも表面上は、アップルによるコンテンツのアグリゲーションと配信に関する最近の取り組みを応援するはずだ。

今回の発表は「サーヴィス」事業に関するもので、アップルの将来にとって重要になりつつある要素だ。高級なハードウェアのメーカーである同社は、消費者に大量のガジェットを販売し、ソフトウェアのプラットフォームとアプリにつなぎとめておくことだけが、今後もアップル製品を確実に購入してもらうために極めて重要であることを理解している。

イヴェントの開催は、昔の映画に出てくるようなカウントダウンの時計とともに、オンラインの招待状として個別に知らされた。会場はカリフォルニア州クパチーノのアップル本社内にある「スティーブ・ジョブズ・シアター」で、3月25日午前10時(米国時間、日本時間の26日午前2時)から始まる。『WIRED』US版のスタッフも参加してその模様を伝えるが、まずは発表が予想されている内容を紹介しよう。

“読み放題アプリ”を買収していたアップル

いまアップルで起きていることを理解するには、ニュースサブスクリプションアプリ「Texture」について振り返っておく必要がある。このアプリは、『WIRED』を発行するコンデナスト・パブリケーションズのほか、ハースト・コーポレーション傘下のHearst Magazines、メレディス・コーポレーションなどが2012年に「Next Issue Media」という名のコンソーシアムを組み、提供していたものである。

Textureは、月額利用料を支払えば雑誌やニュースのコンテンツが読み放題になるサーヴィスだった。その発想は、既存のジャーナリズムから広告費を吸い上げているフェイスブックやグーグルなどの巨大テック企業に太刀打ちできないなら、少なくとも有料で購読する価値のあるデジタルニュース体験を消費者に提供しよう──というものだ。

Textureに参加していたパブリッシャーや、出資したプライヴェート・エクイティ・ファンドは、事業を2018年にアップルに売却している。アップルは今回のイヴェントで、このTextureを基にした新しいニュースのサブスクリプションサーヴィスを発表する可能性が高い。その骨格はTextureを継承しているが、いかにもキラキラした感じのアップルらしいアプリになりそうだ。

月額利用料は10ドル?

アップルのサーヴィスには、Textureに当初から参加していたパブリッシャーも加わる見通しだ。ただし、収益配分を巡ってアップルとは揉めていたと、一部で報じられている。

この動きに対する大手新聞各社の反応は、まちまちだ。『ニューヨーク・タイムズ』の報道によると、『ウォール・ストリート・ジャーナル』はアップルの新ニュースアプリに参加する契約を結んだ(なお、ウォール・ストリート・ジャーナルの親会社であるニューズ・コーポレーションは、Next Issue Mediaに参加していた)。『ワシントン・ポスト』と『ニューヨーク・タイムズ』は、アップルの取引条件を受け入れなかったという。

不明な点は依然として多いままである。新サーヴィスの月額利用料は月10ドルと噂されているが、ほかにオプションやセット料金などがあるのかはわからない。

新サーヴィスがアップルのデヴァイスのユーザー限定になるのか、ローカルニュースのコンテンツをどう提供するのかも明らかになっていない。また、サーヴィスは単体のアプリではなく、既存の「Apple News」アプリの一部になるとみられる。

アップルはアプリのデヴェロッパーに対して厳格なルールを設けているが、ニュースのパブリッシャーに対しても同じであるかはわからない。アプリのデヴェロッパーの場合、そのアプリの外側にあるサーヴィスを販促したり、リンクを張ったりすることも許されていないのだ。

これまでにアップルは、「信頼できる情報源からの高品質なジャーナリズム」を届ける取り組みを行うと繰り返し公言してきた。そして、アップルがもつリソースとキャッシュフローによって、既存のジャーナリズムが大きく飛躍しうることもである。

ネットフリックスやアマゾンとは共存路線?

アップルは、ネットフリックスやアマゾンといった企業に挑もうとしている。ただし、今回のイヴェントではないだろう。

25日のイヴェントでは、動画ストリーミングサーヴィスが話題の中心になると多くの人はみている。問題は、アップルが焦点を当てるのが独自製作の番組なのか、それとも外部のコンテンツを集めたサーヴィスなのかだ。恐らく、その両方があり得る。

アマゾンとネットフリックスは近年、オリジナルの番組や映画の製作に多額の資金を投じてきた。両社とも賞の獲得というかたちで成果を出しているが、コストがかさみ、いくぶんリスクの大きい戦略と言える。

アカデミー賞の受賞は権威づけにはなるものの、アマゾンとネットフリックスの取り組みが目指すのは賞の獲得だけではない。最終的に目指しているのは、ユーザーが自社のサーヴィスから離れられなくなるような体験を提供することにある。そして、アップルも同じことを目指している。

Netflixやアマゾンから手数料をとるモデル?

オリジナル番組に関するアップルの初期の取り組みは、奇妙なものだった。「Planet of the Apps-アプリケーションの世界」は酷評を受け、Dr. Dreが脚本を手がけた番組の制作は打ち切られた。

ところがアップルは、それ以降はテレビ界の大物を採用し、新番組の製作に向けてトップクラスのタレントと契約している。例えば、オプラ・ウィンフリー、スティーヴン・スピルバーグ、リース・ウィザースプーン、ジェニファー・アニストン、スティーヴ・カレル、ブリー・ラーソン、J・J・エイブラムス、クメイル・ナンジアニ、エミリー・V・ゴードンといった顔ぶれだ。

ただし「Recode」の記事によると、アップルがいま注力しているのは、顧客を既存の動画サーヴィスに呼び寄せる「新しい店構え」をつくるような取り組みである。アップルは、そこから手数料をとろうというわけだ。

アップルのオリジナル番組は、ある意味で“おまけ”のようなものになるかもしれない。実際にネットフリックスは、アップルによる新しい映像製作の取り組みの一環ではないと明言していた。つまり、アップルとネットフリックス(とアマゾン)は、いまもオリジナル番組の市場で現在進行形で競合しているが、25日のイヴェントではそうした姿勢は見せないかもしれない。

ハードウェアの発表はお預け?

ここ数年のアップルは、「iPhone」以外の最新デヴァイスを春のイヴェントで発表してきた。ところが今年に関しては、ハードウェアの刷新をプレスリリースやティム・クックのツイートで明らかにしている。つまり、すでに新型の「iPad」や「iMac」「AirPods」は発表済みということなので、25日のイヴェントで関心を呼ぶことはないだろう。

もしかすると近い将来、別のハードウェアに関する発表があるのかもしれない。例えば、2017年に発表されたまま出荷されていないワイヤレス充電マット「AirPower」は今週、アップルのオーストラリアのウェブサイトで一瞬だけ情報が公開された。

だが今回は、アップルが自社のサーヴィスを大きく変化させる日になることが予想される。たとえ、それがいくらか奇妙な変化に終わったとしても。