ネイマール(左)とメッシ(右)というサッカー界屈指のクラックの共演で大きな話題をさらった2012年のアルゼンチン対ブラジル。しかし、それから6年、とりまく状況は大きく変わってしまった。 (C) Getty Images

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 10月17日(現地時間)、サウジアラビアのジッダで開催されたアルゼンチン対ブラジルの“南米版クラシコ”。会場となった6万人収容の壮大なキング・アブドゥラー・スポーツシティ・スタジアムには、両国のユニホームを着たサウジアラビアの地元の人々が集まり、ゴールに向う積極的な攻撃が始まる度に場内は歓声に包まれた。

 だが、そんな現地の盛り上がりとは、無縁なほどに冷めていたのがアルゼンチン国内の反応だ。今回のクラシコは、注目度も低ければ、話題性にも乏しく、「軽視されていた」と言ってもまったく大袈裟ではない。

 国際サッカー連盟(FIFA)が定めた国際Aマッチデーによって、国内のリーグ戦とカップ戦が中断され、サッカーの話題が不足していたこともあり、スポーツ専門メディアはサウジアラビアに特派員を送り込んで、代表チームの話題を頻繁に伝えてはいたものの、ファンを含むサッカー関係者の耳目を集めることはできず、どこか空回りしている感が否めなかった。

 では一体、なぜこのような現象が起きてしまったのだろうか。その疑問を解くために、過去のクラシコの例と代表チームを取り巻く現状を考えると、明確な原因がいくつか浮かび上がってくる。

 アルゼンチン・サッカー界にとって、宿敵ブラジルとのクラシコといえば、初めて試合が行なわれた1914年以来、100年以上の歴史を持つ「伝統」であり、たとえ親善試合であろうとも両国民の関心を集め、真剣勝負になるのが通例とされてきた。

 確かに「中立国が会場になると盛り上がらない」と指摘され、今回のように事前に話題にならなかったこともあったが、2012年6月にアメリカはニュージャージーで開催されたクラシコの熱狂が記憶に新しい方も多いことだろう。

 あの時は、アルゼンチンがリオネル・メッシ、ブラジルがネイマールを擁した当時のベスト布陣で挑み、攻め合いの連続から追いつ追われつの大接戦となり、最終的にはアルゼンチンがメッシの豪快な一撃で4-3の勝利を決めるという、非常にエンターテイメント性の高い、スペクタクルな一戦となった。

 アルゼンチン国内では試合が進むにつれて中継の視聴率がどんどん上がり、南米を代表する2大スターの活躍、そしてメッシはハットトリック達成と見応えたっぷりな内容から、ライブ中継を見逃した人たちのために、試合後数日間は、録画放送が繰り返されたほどだ。

 そんな6年前のクラシコを戦ったアルゼンチンは、国内で支持率を高めていた矢先だった。

 自国開催のコパ・アメリカでは準々決勝で敗退し、その後、始まったワールドカップ予選では第2節でベネズエラ相手に歴史的敗北を喫した上、第3節ではホームのボリビア戦でドローに甘んじて非難が殺到。しかし、第4節のコロンビア戦で過酷なアウェーの環境のもと逆転勝利を収め、キャプテンのメッシが強い態度で国民に「目標達成のための団結」を呼びかけて状況が変化しつつあった時だった。

 それだけに親善試合とはいえ、ブラジル相手に自らのハットトリックで母国に見事な逆転勝利をもたらしたメッシは、あの時からアルゼンチンの人々の心を完全に掴んだのである。

 今回のサウジアラビアでのクラシコが不人気だった要因は、言うまでもなくメッシの不在が影響している。アルゼンチンでは誰もが、代表ユニホーム姿のメッシに、そして、彼ほどの選手が自分たちを代表してくれることに誇りを感じている。

 ただでさえ、サッカー文化がクラブ人気によって支えられているこの国で、不満の残る結果に終わった先のロシア・ワールドカップ以後、アイコンと言うべきメッシが離れている代表チームの親善試合に興味を持ってもらおうと努めることこそ無謀なのだ。