メモリアルな1年となった今年のイチロー

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イチローの2016年

 メジャーリーグの2016年シーズンを振り返るうえで欠かせない名シーンといえば、やはりカブスの108年ぶり世界一の瞬間が思い浮かぶ。しかし、日本のファンにとっては、イチローの3000安打達成がその上をいくのではないだろうか。

 イチローが最後に規定打席に到達したのは2013年のこと。200安打と打率3割は、ともに2010年までさかのぼる。安打数は2010年の214本から184、178、136、102、91と下降線をたどっていたが、今季は95安打をマークして僅かながら前年から数字を上げた。

◆ 取り戻した粘り

 限界説まで囁かれていた2015年からの復調には、幾つかの要因がある。一つは追い込まれてからの粘りだ。

 今シーズンの『2ストライク時の打率』は.273(172打数47安打)。これはメジャートップのマーティン・プラド(マーリンズ)の.281やア・ナ両リーグの首位打者であるホセ・アルテューベ(アストロズ/.275)、DJ・ルメーヒュー(ロッキーズ/.276)のそれとほとんど変わらない。

 あの262安打をマークした2004年ですら.284と3割を下回っており、追い込まれてからの粘り強さという点では全盛期を彷彿とさせた。

 ただし、逆に言うと追い込まれる前、「打者有利のカウントでそれほど安打が出ていなかった」ということでもある。来季に向けてここを修正していけば、2010年以来の打率3割も見えてくるだろう。

◆ 力強い打球の増加

 今季イチローが達成した『メジャー通算3000安打』と『ピート・ローズ超え』の快挙。この2本のメモリアル安打を覚えているだろうか。

 どちらも痛烈なライナー性の打球で、前者はあわやスタンドインという三塁打。後者は二塁打だった。

 イチローが復調した2つ目の要因は、この「ライナー性」の打球が多かったことだ。一般的に安打になる確率が高いといわれるライナー性の打球。今季イチローが残した全打球のうち、ライナー性だった打球の割合は27.6%だった。

 これはなんとデータ入手が可能な2002年以降(イチローのメジャー2年目)の自己最高。長打率が過去4年間で最も良かったことも、決して偶然ではないだろう。

 42歳にして、これまでのゴロを量産して足で安打を稼ぐスタイルからの脱却も...? 来季は「ライナー性の打球が増えるのか」という点にも注目したい。

◆ ここぞで頼りになる男

 最後に、2016年のイチローを語るうえで欠かせないのが「チームへの貢献度」だ。

 セイバーメトリクス研究家のトム・タンゴ氏が生み出した『Leverage Index(レベレージ・インデックス=影響指数)』というものがあるのでそれを見てみよう。

 この指標で特徴的なのが、試合の状況に応じてそれぞれの打席を「Low」、「Medium」、「High」の3段階に区分けしているという点。例えば9回裏二死満塁、スコアが2-1の場面であれば「High」。スコアが14-2というような試合の大勢が決している場面は「Low」といった具合だ。

 今季のイチローは、重要度の高い『High Leverage』の状況で打率.387をマーク。2011年から15年までの5年間で記録した.233と比較すると、いかに今季のイチローが重要な場面でチームに貢献していたかわかるだろう。

 イチローにとって忘れられないシーズンとなった2016年。マーリンズ残留が早くも決まり、これまでと同様に4番手の外野手として限られた出場機会の中で2017年を迎える。

 43歳のイチローもきっと、我々に進化した姿を見せてくれることだろう。

イチロー

生年月日:1973年10月22日(43歳)

身長/体重:180センチ/79キロ

投打:右投左打

ポジション:外野手

経歴:愛工大名電高-オリックス(91年D4)-マリナーズ-ヤンキース-マーリンズ

[今季成績] 143試 率.291(327-95) 本1 点22

[通算成績] 2500試合 率.313(9689-3030) 本114 点760

文=八木遊(やぎ・ゆう)