【福島良一MLBコアサイド】
■2016年シーズンのニューカマー@ナ・リーグ編

 2016年シーズンは開幕早々、とんでもない出来事が起こりました。シーズン第1週目の「週間MVP」を受賞したのは、ア・リーグはヒューストン・アストロズのタイラー・ホワイト。そしてナ・リーグは、コロラド・ロッキーズのトレバー・ストーリー。なんとふたりとも、デビューしたばかりのルーキーだったのです。開幕週の週間MVPを両リーグ揃って新人が受賞したのは、メジャー史上初の快挙。特にナ・リーグのトレバー・ストーリーのデビューには、誰もが度肝を抜かれました。

 4月4日に行なわれたアリゾナ・ダイヤモンドバックスとの今シーズン開幕戦、新人のストーリーは2番・ショートでスタメンに抜擢されました。ダイヤモンドバックスの先発は、今オフに6年総額2億650万ドル(約254億円)という超大型契約でロサンゼルス・ドジャースから移籍してきたザック・グレインキー。昨年19勝3敗・防御率1.66という驚異的な成績を残した、メジャーを代表するエースです。

 そんな現役最高右腕を相手に、なんとストーリーは2本のホームランを放ち、鮮烈なデビューを飾ったのです。続く試合でも快音を響かせ、開幕から4試合連続ホームランをマーク。史上初の「メジャーデビューから4戦連発」という快挙を成し遂げました。開幕週6試合での成績は、打率.333・7本塁打・12打点。驚異的な数字を残し、文句なしでナ・リーグの週間MVPに選ばれました。

 その後も、ストーリーは快調に飛ばします。4月は合計10本塁打を放ち、2001年にアルバート・プホルス(当時セントルイス・カージナルス/月間9本塁打)が記録した「ナ・リーグの4月ルーキー記録」を塗り替えました。その結果、ストーリーは4月の月間最優秀新人賞も受賞しています。

 現在23歳となるストーリーは、テキサス州のダラス郊外にあるアービングという街で生まれました。アービングにはかつてNFLダラス・カウボーイズの本拠地テキサス・スタジアムがあり、その土地柄の影響もあって学生時代のストーリーは、野球とアメリカンフットボールの両方でプレーしていました。野球ではピッチャー兼ショート。最速96マイル(約154キロ)のストレートを投げる豪腕です。一方のアメフトでは、花形のクォーターバックとして活躍。まさに、高校スポーツ界のエリートだったのです。

 しかし高校2年生のとき、「将来はメジャーリーガーになりたい」と決意し、野球1本に専念。メジャー関係者の間で「学生屈指のファイブ・ツール・プレーヤー」という評判が立ち、大勢のスカウトが練習を見学に来ていたと言われています。

 そして2011年、ドラフト1巡目・全体45位でロッキーズから指名を受け、野手として念願のプロ入り。ただ当時、ロッキーズのショートにはトロイ・トゥロウィツキーが君臨していました。2010年と2011年に2年連続でシルバースラッガー賞とゴールドグラブ賞をダブル受賞し、フランチャイズプレーヤーとして2020年まで長期契約していたロッキーズのスター選手です。

 ストーリーにとって、トゥロウィツキーは学生時代からの憧れの選手でした。よって本人も入団した際、「トゥロウィツキーは球界最高のショートなので、僕は他のポジションにも転向する覚悟でメジャー昇格に臨みたい」と発言しています。その言葉どおり、マイナーではチャンスを掴むために本職のショートだけでなく、セカンドやサードにも挑戦していました。

 ところが昨年7月、思わぬ事態が起こります。ロッキーズの主軸を担っていたトゥロウィツキーがトロント・ブルージェイズに電撃トレードされたのです。彼がコロラドから離れるとは誰も思っていなかっただけに、全米中のメジャーファンが衝撃を受けました。

 その代わりにブルージェイズから移籍してきたのが、同じくショートのホセ・レイエスです。2005年〜2007年に3年連続で盗塁王に輝き、2011年には首位打者も獲っているレイエスが、ロッキーズの新たな正遊撃手として加わりました。しかしこのオフ、レイエスはDV容疑で起訴され、法的問題が解決するまで活動停止処分が下されたのです。その結果、キャンプやオープン戦で好調をアピールしたストーリーが、ショートのレギュラーに抜擢されることになりました。

 5月25日現在、ストーリーは43試合に出場して打率.272・12本塁打・31打点をマークしており、ロッキーズの2番を任されています。後方に控える3番のノーラン・アレナド(2015年・本塁打王)、4番のカルロス・ゴンザレス(2010年・首位打者)といった強力打線を支えるホープとして、今後も華々しい活躍を見せてくれるのではないでしょうか。

 そしてナ・リーグでもうひとり、注目したい若手遊撃手がいます。それは、セントルイス・カージナルスのアレドミス・ディアスという25歳のキューバ出身選手です。4月の月間最優秀新人賞はストーリーが文句なしで受賞したと思われがちですが、実はディアスも遜色ない活躍を見せていたのです。

 1990年にキューバで生まれたディアスは、2007年から2012年にかけて国内リーグのナランハス・デ・ビジャ・クララというチームでプレーしていました。現在中日の助っ人として活躍しているダヤン・ビシエド、シアトル・マリナーズで外野を守っているレオニス・マーティンは、その当時のチームメイト。対戦相手には、ニューヨーク・メッツのヨエニス・セスペデスやロサンゼルス・ドジャースのヤシエル・プイグといった、メジャーで「キューバ旋風」を巻き起こした選手もおり、そこで実力を発揮していました。

 また、ディアスは2010年の世界大学野球選手権にキューバ代表として選ばれ、来日もしています。東京の神宮球場でプレーし、金メダル獲得に貢献しました。その後、ディアスはメキシコに亡命したのですが、メジャーリーグ機構から「虚偽の生年月日を提出した」と指摘され、2014年2月までメジャーリーグ球団との契約を禁止されてしまいました。そしてようやく、2014年3月にメジャーとの契約が解禁。カージナルスと4年契約を結び、メジャーへの第1歩を踏み出したのです。

 4月5日、開幕2戦目となるピッツバーグ・パイレーツ戦で、ディアスはついにメジャーデビューを掴み取りました。すると、デビューと同時にヒットを量産し始めたのです。52打数26安打で、打率.500。デビュー50打数以上の記録としては、1900年以降の近代野球において、史上最高の打率です。

 その結果、4月の成績は打率.423・4本塁打・13打点。規定打席にはわずかに届かなかったものの、驚異的な高打率を残しています。ルーキーで4月にヒット30本以上を打ったのは、プホルスに次いで球団史上2人目のこと。ストーリーの活躍に勝るとも劣らない内容だと思います。

 今のところは1番や2番を打っていますが、ディアスはパワーも兼ね備えているので、今後は主軸として起用されることも十分に考えられます。デビューは遅れましたが、まだ25歳。さらに飛躍しそうです。

 ストーリーとディアス。今年のナ・リーグからは恐ろしいルーキー遊撃手が出現してきました。彼らがブレイクしなければ、前田健太投手(ロサンゼルス・ドジャース)が月間最優秀新人賞に輝いてもおかしくなかったでしょう。ナ・リーグの新人王レースにおいて、前田投手のライバルであることは間違いありません。これから何度も顔を合わせることになるので、どんな対決になるのかも見ものです。

福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu