W杯における過去2大会の好成績は、オランダの存在価値を示す唯一の拠り所になっていた。だが、今回のユーロ予選敗退では、それさえも瓦解した。選手の顔ぶれを眺めれば、復活する可能性さえ見えてこない。欧州の一流クラブで、キープレイヤーとして活躍していた選手で占められたかつてが、懐かしく思えてくる。
 
 育成に失敗したとしか言えない。繰り返すが、僕がよい若手選手の数が減っていることに気付いたのは、もう何年も前の話なので、重症化する危険は高い。欧州の表舞台に復帰するまで、時間を要すものと考えられる。
 
 W杯準優勝3回。優勝経験こそないが、オランダは世界を代表するサッカー強国だ。しかし、国の人口は僅か1600万人。ウルグアイを強国とカウントすれば、それに次ぐ小ささだ。それでいながら、長年にわたり強国に君臨してきた理由は、高い頭脳があったからだ。
 
「オランダは小さな国」。オランダの指導者にかつて話を聞けば、何事もそれを枕詞に、語り始めたものだ。「小さな国。だからどうするか」。「どう工夫するか、だ」と。
 
 しかしこの時代、工夫に余念がないのはオランダに限った話ではない。バルサ、レアル・マドリー、バイエルンと言ったビッグクラブ、ドイツ、スペイン、フランスなど、オランダより大きな国も、オランダと同じぐらい考えるようになっている。つまり、ビッグクラブ、大国の好チーム化が進んでいる。
 
 かつて、ファンハール率いるアヤックスが、欧州で一世を風靡したが、その頃はいまとは異なり、ビッグクラブには穴が存在した。ビッグクラブはある意味で間抜けの象徴だった。番狂わせを浴びやすいサッカーをしていた。
 
 育成システムや、選手の発掘という点でも遅れがあった。オランダのクラブは、そうしたビッグクラブに、せっせと選手を提供することで、クラブ経営を成立させていた。世界から選手を集め、育てては売る。まさに中継貿易国としての役割を果たしてきた。
 
「オランダ経由」は、ブランドだった。サッカー教育がしっかり施された選手として、ビッグクラブから信頼を得てきた。オランダは選手育成システムに優れた国として認知されていた。
 
 しかし、ビッグクラブも育成に力を注ぐようになったいま、オランダ経由のブランド力は低下。育成システムも自ずと劣化している。生産力、生産性を鈍らせている。それが代表チームにいま反映された状態にある。
 
 オランダはこの苦境を乗り越えることができるのか。それともかつてのハンガリーのように、このまま凋落していくのか。
 
 育成が機能しなくなれば、その国の5年後、10年後は危ない。いまのオランダの姿は、若手にいい人材が減り続けている日本の写し絵といえるのかも知れない。他人事で済ますと、日本も近い将来アジア予選で落選しかねない。僕はそう思う。