10月10日から放送がスタートする『ご注文はうさぎですか??』。ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが、萌え4コマ漫画とそれを原作にしたアニメについて語り合います。ゆる〜く見られるこうした作品が人気を集めている理由とは。

『ごちうさ』は環境ビデオだ!!



藤田 今回は『ご注文はうさぎですか?』について話すわけですが、「キャラペディア」というサイトのアンケートで、2015年秋アニメの期待度ナンバーワンに輝いていたので、じゃあ分析してみようかというのが、扱ってみようと思ったきっかけでした。アンケートの内訳をみると、男子で一位、女子で九位と、女性票もそこそこ入っている。……というわけで、本作がちょっと気になったわけです。

飯田 僕は、何も考えずに触れるアニメ&マンガとしては全然嫌いじゃないけど、とくに言いたいことがないw 「かわいいなあ……」って。それ以上の感想をひねりだすのが難しい。

藤田 原作はKoiが『まんがタイムきららMAX』に連載している4コマ漫画で、いわゆる萌え4コマをアニメ化した作品が本作ですね。女の子たちの日常を描くタイプの作品で、『らき☆すた』や『けいおん!』などの系譜にある作品と考えれば良いでしょう。物語性が強いわけでもない。

飯田 芳文社系のなかでも、わりとふわっとした系統だよね。『ハナヤマタ』とかは、けっこうドラマ性あるから(『ハナヤマタ』は4コマじゃないけど)。

藤田 主に、女の子同士の関係性を描いたもので――そのえぐみを脱臭しているわけですが――、いわゆるソフトな百合もの(レズビアンもの)とも見做しうる。女の子を眺めて気楽に萌えることのできる作品ですね。これは、先駆的には、女性向けのソフトBL作品があると思うのですが…… ある性別の人たちのホモソーシャルな関係性を眺めるタイプの作品が流行していていて、無視できないボリュームになってきましたね。

飯田 百合ではないんじゃないですかね。恋愛要素ないですし。

藤田 百合は、シャロとリゼ(登場人物名)の間で、少し描かれていますよ。ただ、この手の作品は、「潜在的百合」「潜在的BL」とでも言いますか。見ている人の想像の中でそれを膨らませることを想定して作られているはずなのですよ。

飯田 あ、ただ、話に起伏がないわけじゃないよね。原作でも一話ごとにフリがあってオチがある。たとえば三巻だったら屋根裏から物音がする怪奇現象こわいってフリがあって、実はウサギが暴れてました、じゃあこのウサギどうしよう、飼おう。という流れに沿って各4コマがある。

藤田 起伏はありますね。第一期全体で見ても、引っ込み思案だったチノに、明るいココアが接して、性格が明るくなっていく心の交流がドラマとしては設定されていましたね。
 さて、この作品やそれに類する作品がウケている理由を分析してみたいんですが、いいところから言っていきます。
 まず疲れているときに見ると、癒される。楽w 環境ビデオみたいな感じ。NHKで深夜にやっている山が延々写っている番組を観ているときとか、熱帯魚の水槽眺めている感じ。

飯田 感動が大きすぎるものは消費するのも疲れるからね。むしろ脳を停止させてくれる気持ちよさですよね。

女の子も楽しめる!? かわいい小物や世界観


藤田 『けいおん!』などと比較して本作が特異なのは、学校が違うということですね。中学や高校が違う。そして喫茶店が舞台で、複数の喫茶店で働いている設定だから、「制服」のバリエーションが楽しめる。この辺りの、楽しみどころが、今までの「同性だらけもの」と比べてちょっと違うところかな。ヨーロッパ風味の都市や小物などの「かわいい」描写も、なかなか気を配っていて。男性だけじゃなくて女性のファンがいるのは、この辺りが原因かなと。

飯田 『けいおん!』のころから、いや、『らき☆すた』のころからこの手の作品に女性ファンはけっこういるよ。女の子は「かわいい女の子」が好きだから。

藤田 そうなんですか?

飯田 いわゆる女性向けの作品にはイケメンは出てきても「かわいい女の子」は出てこないからね。だからこそ『ラブライブ!』とかも女性限定ライブとかするくらい人気が出るわけで。

藤田 その辺りの心理がぼくにはわからないので、訊いてみたいのですが。女性のファンも、「かわいい女の子」を愛でて観ている感じなんですかねぇ? 男が「カッコイイ男」を楽しむ作品もあると言えばあると思うんですが、女性が思う「カッコイイ男」と、男が思う「カッコイイ男」は乖離しているとぼくは思うので、女性の場合の「かわいい女の子」の場合も、ギャップはないのかなぁと。

飯田 僕は複数の中高生女子取材で「女子はかわいい女の子が好き」発言を聞いている。
もちろん、男が女に対して言う「かわいい」に含まれる性的なニュアンスはないけど。というか男の僕が見ても『ごちうさ』から性的な刺激はまったく受けませんが。ただなんか『ごちうさ』のコスプレAVをTMAがつくったらしいから、そういう目線で見るひともいるんだろうね。死ねばいいのに…

藤田 死ぬ必要はないでしょう!!

説明抜きの異世界!! 「かわいい」ワールド!!



藤田 その辺りの、女性も楽しめる「かわいさ」があるのが、本作の魅力でしょうかね。世界観が、ファンシーですし。ヨーロッパのオシャレな都市っぽいのに、通貨が「円」だったり、書き言葉で日本語が使われていたり、あれはどこなんでしょうw
 登場人物の人種も国籍もよくわからない。あの開き直った世界構築は、すがすがしいですよね。コレクター的(好きなものを集めて世界を作る)というか。

飯田 ある意味『Fate』に似てると思う。冬木市も(まあ、各国の英霊が入り乱れる勢もあるけど)どこなんだかわからない。日本のはずなのにアインツベルンの城とかあるしw
『ごちうさ』でよくわからないと言えばうさぎだよ! あれをうさぎと言うのはあだち充マンガにおける「パンチ」を犬だと言い張るのと同じくらいムリがあるw

藤田 うさぎ周りの設定には、若干「謎解き」の要素がありますね。世界観については、「この場所どこなの?」の説明が全くないのが、ぼくはずっと気になっていて。「かわいい要素」を集めて街や世界観を作ってしまってよくて、説明はいらないって感じが、SF的な感性を持つぼくから見ると、不思議なんですよ。背景の設定をこっちが想像してしまう。「これは実は宇宙に浮かぶ都市だと最終話で明らかになるのではないか!?」とか。

「なんとなーく見れる」ようにするための技術


飯田 『ごちうさ』ってなんとなーく見れちゃうんだけど、実はそれってけっこうすごいことで。感情のひっかかりが意外とない。ヘタな作品って見ていてツッコミながら見ちゃうんだけど、案外そういう感情の動きに不自然なところがない。
もちろん原作が萌え4コマという理由もある。4コマというフレームがあることで、そのワクに収まるような感情の起伏をつくることを描き手に意識させていると思う。4コマでほとんどボケとツッコミをしているだけなのに、不自然な感情の揺れ動きになっちゃったらそれはまあプロのお仕事ではないですからね…。

藤田 「なんとなーく見れる」ように、灰汁を抜く技術があるのでしょうね。
 これはいいところ、かつ、悪いところなのですが、関係性が「理想的」すぎる感じですよね。暗部がない。嫉妬は軽く書かれていても、基本的にはポジティヴなもの。人間関係のガチでヤバい感じがない。女子の集団なんて、ぼくは想像するだけですが、相当ヤバいでしょう? それがない。そこが、ファンタジーとして気持ちがいいところになっている。同時に、ちょっと物足りない観じがするんだけど、そういうのに触れたければそういう作品を見ればいいだけなので、これはまぁ批判というよりは、「性質」の分析ですね。

飯田 こういう雰囲気の世界の暗部を見たいかと言われると、見たくはないw

藤田 ぼくは萌え4コマって、最近まで否定的だったんですよ。吉田戦車とか、相原コージとか、一時期のエニックスが出していたドラクエの4コマとかで育ったので、「そんなぬるいオチで許されると思っているのか?」って気持ちがあったんですよ。
 でも、中年になってきて、「ゆるいのがいいんだなぁ、楽だなぁ」とわかってきました。禅の境地で、石庭を眺めるように読むのだな、と、ようやく理解してきましたw 「無の境地」になれるw

飯田 萌え4コマ原作のアニメを観ると、なんか原作と二次創作の関係が逆転しているような印象を受けるよね。メディア展開されたアニメのほうがドラマ性を主に担っていて、原作のほうが無害な二次っぽく映るというか……。

藤田 関係性がちょっとずつ構築されていく中での、コミュニケーションの「すれ違い」「誤解」こそが萌え4コマの「ギャグ性」の本質で、まぁ誤解したりすれ違ったりしても大丈夫だっていうのが、全編のメッセージになっているというのが安心感を生んでいるのだなと思いましたね(誤解やすれ違いが原因で多くの人数が死んでしまうような悲劇的な作品を、対比で想定していただければ)。お笑いで似ているのは、アンジャッシュ。

飯田 ひな壇のトーク番組みたいなもんですよ、萌え4コマは。あるていど決まった役割が振られた状態でのボケと「いじり」だから。

関係性を描くアニメと、世界の謎を描くアニメ


藤田 芳文社系のアニメ、というか、日常系、空気系と分類されるような「関係性を描く」アニメが、ここまで人気になるというのには、時代を感じます。『ヤマト』『ガンダム』『エヴァ』のように、戦争とか、世界の謎とか、そういうものを中心にする作品よりも、こちらの作品が目立ってきたように思います。みんな疲れてるのかな(笑) それとも、関係性を見る/描く解像度が、上がってきたのかな。
 今期は、部活モノを含みますけど、日常生活を描き、キャラクター同士の関係性を重視していると思われるであろう作品として、『ゆるゆり』『ハイキュー』『おそ松さん』『進撃の巨人中学校』『てーきゅう』がありますね。
 もう一方で、物語性や戦争や世界の謎を含むと思しき『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』や『蒼穹のファフナー EXODUS』『ヘヴィーオブジェクト』がありますね。
 数十年単位で考えれば、前者がこんなに伸びてくるのは、やはり、ちょっと今までとは違う現象なんじゃないかなぁと思うんですよ。

飯田 『ハイキュー』を前者に入れるのはおかしいって!w しかし日常関係重視は別に最近じゃなくて日本でも伝統的に前者もずっとあるでしょ。紫式部とか、日記文学とか、落語の軽い演目とか。

藤田 あー、『源氏物語』も日常系に入れてしまう、という感じでw ……なんか『ごちうさ』を無理やり日本の伝統に結び付ける感じになっちゃってませんか? ギャップを利用したギャグのつもりだけど、真に受ける読者との「すれ違い」も起きそうな気がしますw

飯田 ……しかし、この話オチがつかないけど、どうする?

藤田 不満点はないんですか?

飯田 環境ビデオに不満をぶつけるのっておかしくない? なんとなく見て幸せな気持ちになれれば、それでいいじゃないですか。

藤田 情熱がないw
 じゃあ、萌え4コマ的に、ぼくらもオチがないままで、いいんじゃないですかね? こうして、飯田と藤田の関係性は、ちょっと変わりました、みたいな?
 めでたしめでたし。って。

飯田 わーい(空虚)

                                                    めでたしめでたし