【大阪都構想】「橋下市長の箝口令には屈しない」藤井教授を市職員が応援
橋下徹大阪市長・維新の党共同代表と藤井聡・内閣官房参与(京都大学大学院教授)の泥仕合が止みそうにない。3月5日には、「大阪都構想」をめぐり批判的な主張を繰り返す藤井教授に関して「中立性に欠ける発言をしている」として、維新の党がテレビ局に対して出演自粛を要請する文書を送っていたことが判明している。藤井教授は1日に「京大をなめてもらっては困る。弾圧には絶対に屈しない」と“宣戦布告”したばかりだった。
「橋下市長から箝口令が敷かれてるらしいから、なんにも言えません(笑)。口封じやね。せやから、藤井先生の主張をメディアの皆さんが注目してくれるんはホンマに有り難い。大阪市職員は藤井先生を応援してますよ!」
大阪市役所のA係長(40代)は開口一番、こう言った。市職員が藤井教授をこう持ち上げる理由は、今年1月、橋下徹大阪市長が“大阪都構想”について市職員が否定的な意見をマスコミに向けて発言することを封じたからだ。
説明するまでもなく藤井教授は、大阪市を5つの特別区に分割、大阪府と行政機能を再編する大阪都構想に反対している論客だ。都構想に反対する大阪市職員の間からは、平松邦夫前市長と並んで、今や大阪市職員たちの“救世主”として位置づけられている。
ヒトラーでもしない市職員への言論封殺今、大阪市では橋下市長による市職員への“口封じ”が酷いといわれている。だがこうした声は市役所の内情からかけ離れているという。A係長が続けて語る。
「橋下市長が『都構想に関する市職員のメディア対応禁止』を打ち出したと報道されてるけど、正直、ウチら職員からしたら『ハァ?』ってな感じですわ。政策云々もあるんやけど、それ以前にそんな通達も注意事項もどこも上から降りてきてない」
A係長によると、橋下市長による市役所での箝口令は局長やその下の役職者で止まっており、区役所でも区長や課長から下に降ろさないなどまちまちの対応が取られているという。課長代理以下の職員にまで、箝口令が敷かれているわけではないようだ。
「マスコミの皆さんが仰る市長の“口封じ”は、ぶら下がり会見時に市長が仰ったことでしょ? 役人としては通達として降りてない以上、それは風聞としてしか解釈しません。そらそうでしょ? いくら会見で市長が言うたことでも、書面でちゃんとした命令もないもんをいちいち聞いてたら役所は大混乱しますよ。そんなことヒトラーもしません」(同)
このようにA係長は、藤井教授が橋下市長の政治手法についてヒトラーを引き合いにして批判したことに喩えて橋下市長の政治姿勢にこう異を唱えた。
「報道によると藤井先生は自民党大阪府連が主催した講演会でゲストとして招かれた際、『都構想実現で財源が市から、実質、現行の府、つまり都に財源が移るから年間2200億円の大阪市税が市外に“流出”する』という話をされたそうやな。ホンマ、その通りやで。損をするのは大阪市民、得をするのは大阪市以外の大阪府民、それを市民はわかってへん」(同)
維新の党は「大阪市職員憎し」で動いてるだけ大阪維新の会「東特別区」マニフェスト特別版によると、大阪市営地下鉄今里筋線を延伸するとある。A係長はこの政策を真っ向から批判する。
「これは、昔からずっと棚上げされたままの事案。大赤字の今里筋線を延ばせば生野区の中心部に駅ができるけど、採算は取れないでしょ。市民は一瞬、喜ぶかもしれん。でも市か府か都かわからんけど、実現したら財政は逼迫すること間違いなしや。結果、市民が損することになるで!」
続けてA係長は、大阪都構想で現行の大阪市を5つの特別区にするマニフェストについて、「5特別区に特別区役所を新築する? 議会も作るんか? 財源は? どう考えても“大阪市憎し”の政策や」と、維新の会の政策そのものに疑問を呈す。
「うちら職員は次の世代に大阪市を残したい。それだけや。市民は公務員憎しで大阪市職員を叩く。だけど大阪都が実現して、増税とか行政統合による保育所サービスの激減とか、公務員のリストラによる行政サービス低下が確実に起こります。そのとき今の大阪市民が泣きをみても、大阪都が実現してしもたら、もうウチらは何もしてやられへん。そこはわかってほしい」(同)
現行の大阪府、大阪市でも十分、“改革”は行なえるとA係長は力説する。橋下市長と対立する市職員にとって、藤井教授の政策こそ、「正しい大阪市のあり方を伝えてくれている」という。橋下大阪市長 vs 藤井教授、平松前市長、大阪市職員の戦いは今後も続きそうだ。まだまだ大阪には目が離せない。
(取材・文/川村洋)