『キムマンドク〜美しき伝説の商人』のワンシーン。日本人商人の姿が変だ

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 日本でも人気が根強い韓流時代劇(歴史ドラマ)。韓国国内で放映されている韓流時代劇の最新作といえば、何といっても2015年 2月14日からKBS第1放送で放映されている『懲泌録(チンビロク)』だろう。

 この作品は、豊臣秀吉の朝鮮出兵「文禄・慶長の役(韓国側では壬辰倭乱・丁酉再乱)」を背景とした朝鮮王朝の大臣柳成龍(ユ・ソンニョン/1542年〜1607)の生涯を全50回にわたって描く物語だ。

 ユ・ソンニョン役は、ドラマ『私の男の女』で妻の友人と不倫関係に陥った大学講師の役をやったキム・サンジュン。宣祖(ソンジョ)王の役はキム・テウ、そして豊臣秀吉役は日本人タレントではなく、キム・ギュチョルという韓国人俳優が担当する。

 ちなみにユ・ソンニョンの14代目の子孫は俳優・リュ・シウォンだが、残念ながら彼はキャスティングされていない。

韓国人は日本文化を実は分かっていない!?

 ここで一つ、気になることがある。韓国時代劇に日本人が登場する場合の時代考証が、日本人が見た場合、かなり違和感のあることが多いのである。

 少し古いアメリカ映画などに描かれる日本人だと、出っ歯で一重まぶたの人がスーツを着て、ニコンかキャノンのカメラを首からぶら下げて「どうも、どうも!」……などと言いながら登場して私たち日本人をがっかりさせる。欧米に行くと、いまだにちょんまげを結った日本人や芸者ガールや人力車が大活躍!……などと信じている人がいるとも聞く。

 さすがに隣の国だから、そんなに酷い認識はなかろうと思われるかもしれない。

 以前にドラマ『キムマンドク〜美しき伝説の商人』を見ていたところ、西門問屋に「倭国商団」が銀を売りつけるシーンがあった。「倭国」といえば、ズバリ日本のことだ。

 舞台は済州。済州島にやってくる日本人の商人集団なら、恐らく対馬商人ということになるだろう。ところが、画面に現れた「倭国商団」の姿は、髷の形は冠下の髻(かんかのもとどり)といって、吉良上野介のような高家か三条実美や岩倉具視のような公家たち、または皇室(京のみかど)といった人たちが結っていたもの。月代を剃らず、頭の上で髪を束ねてまとめた髪形で、“ひな人形のお内裏様が冠をかぶってないときの髪形”を想像していただければよい。

 その上、身につけた衣装はまるで室町時代の武士が着ていた大紋のような着物だった。キムマンドクは18世紀後半から19世紀初頭の人物。徳川吉宗の時代に生まれて、滝沢馬琴が『南総里見八犬伝』を著した頃亡くなっている。その時代の日本は江戸時代である。

 当時の日本人商人なら、町人髷で絹の着物を着流しにして羽織を着ていたはずなので、「冠下の髻に大紋」では、日本人で違和感を覚えない人は恐らくいないだろう。

日本統治時代の韓国が描かれた作品でも…

 もう一つ、韓流ドラマで植民地時代を描く場合に、登場する日本人はたいてい洋装で、着物を着ている人は極めて少ない。

 しかし、戦前の古い韓国を描いた絵葉書をよく見ると通行人に着物姿の人を見ることができる。日本の明治物とか大正物の映画・ドラマには、羽織はかまに下駄でソフト帽や鳥打帽、夏だとカンカン帽をかぶった人が出てくる。ちょうど、太宰治の作品のように。韓国の植民地時代を扱った作品でそういう人たちの姿が少ないところを見ると、制作にあたり時代考証をする人がおらず、日本式の着物も撮影スタジオにそろっていないのかもしれない。

 韓流ドラマや映画は、いまや世界各国に配信されている。こうした考証がきちんと行われないと、誤った世界観を広めてしまうことになりかねない。韓国の時代劇関係者の皆様には丁寧な調査や時代考証をお願いしたいものである。

 もちろん、『懲泌録(チンビロク)』の日本人登場シーンも安土桃山時代の雰囲気をリアルに伝える演出を期待したいところ。ファンは要注目だ。

(文/山田俊英)