男女間所定内給与格差の推移(男性=100)

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■女性の給与水準は、男性の7割の現実

男女の給与格差について、見てみることにしましょう。

このグラフは、男女別の平均給与の推移です。

男性と比べた女性の給与は、25年前の約60%から約70%へと確実に縮まってはいるものの、未だに7割の水準に留まっています。1985年の男女雇用機会均等法改正をきっかけとして、さまざまな取り組みがなされてきたことは事実です。しかしながら、あれから四半世紀が経った現在においても、この歴然とした賃金差が存在しているのです。ちなみに、欧米諸国が80〜90%程度ですので、国際比較においても顕著となっています。

では、なぜ男女の賃金格差が生まれるのでしょうか。

2009年に厚生労働省が発表した「男女間の賃金格差レポート」の中で、どの要素の影響度が高いかを数値化しています。大きい順に【職階11.0 → 勤続年数5.3 → 年齢1.2 → 労働時間1.2 → 学歴1.0 → 企業規模0.6 → 産業−2.8】となっています。たとえば、勤続年数の5.3という数値は、「もし勤続年数が男女で同じ」であれば、男性給与100に対して5.3、女性の給与水準が引き上がるということを意味します。

この分析結果を見ると、年齢、労働時間、学歴、勤務先の企業規模といった要素は軽微であり、職階と勤続年数による影響が強いことが分かります。逆に勤務先の産業はマイナス2.8となっており、女性社員が多い「医療、福祉」「金融・保険」「教育、学習支援業」といった業界の賃金水準が高いためと考えられます。

■日本の賃金は定年までを前提に設計

また、日本の人事・賃金制度が、男性が新卒で入社し、定年まで勤め上げることを前提に設計されてきたことも見逃せません。年功による昇給制度や生活関連の諸手当がそれです。

毎年の賃上げ率が10%も15%もあった高度成長期、賃上げ率10%は仕方ないとしても、全社員の基本給を10%上げることには、会社側は躊躇しました。なぜなら、基本給を一律で上げてしまうと、それ以外の人件費にもさまざまな影響が出ます。

そこで、家族手当や住宅手当のかたちで支給すれば、残業単価を上げずに済みました。また、賞与は基本給の何カ月分という計算式でしたので、賞与への影響も抑制できます。退職金も基本給に勤続年数ごとの係数を掛け合わせる制度が主流でしたので、退職金負担増大にも一定の歯止めがかかります。

家族手当や住宅手当であれば、世帯主であることなどの条件をつけ、支給対象者を限定することができます。男女雇用機会均等法改正の前でしたので、露骨に「条件を満たす、男子社員に支給する」という規定を設ける会社までありました。

その頃は、若い男性社員を採用し、できるだけ長く、できれば定年まで働いてもらうことこそが人事の重要テーマでした。女性社員は結婚すれば退職するというという時代でもありましたので、とにかく男が結婚して、奥さんが専業主婦になっても生活していけるようにして、会社を辞めさせないことが優先課題だったのです。

■「働かないオジサン」が危ない!

ところが時代は変わりました。女性でもバリバリ働きたいという人が増えてきましたし、結婚しない人も男女に限らず増えてきました。女性からだけでなく、独身の男性社員から見ても「家族持ちだけに手当がつくのはおかしい」ということになります。

しかも、バブル崩壊後の相次ぐリストラで、「新卒で採用して、定年まで勤めてもらうこと」が当たり前ではなくなったのです。

もし、現在政府が推進する「女性の管理職比率引上げ」や「女性が継続勤務しやすい環境整備」が功を奏せば、職階と勤続年数という2大要素が修正され、男女の賃金格差はより一層縮小されることになるでしょう。

では、そのための財源は?

今話題の「働かない高給取りのオジサン」が真っ先に支払うことになりそうです。

(新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口俊一=文)