横浜・黄金町の古書店「たけうま書房」の店内。11月30日まで108種のポータブル・レコード・プレイヤーを展示中だ。

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「初めて買ったレコードor CDは?」という質問があるが、1983年生まれの自分の場合、初めて買ったのはCDだった。レコード・プレイヤーで音楽を聞く経験は、いろいろな音楽に興味を持つようになった二十歳前後まで全くしてこなかったと思う。

そのせいか、自分はレコード・プレイヤーに対して「多趣味な紳士の書斎に置いてあるもの」「アンプやスピーカーと組み合わせて置かれている重厚で立派なもの」みたいなイメージを抱いていたのだが、どうやら違うらしい……ということが分かったのが、現在開催中の「日本のポータブル・レコード・プレイヤー展"みんなこいつで聴いていた!"」だ。

横浜市・黄金町駅近くの古書店「たけうま書房」で10月22日〜11月30日まで開催中のこの展示は、60〜80年代のものを中心に、108種もの国産ポータブル・レコード・プレイヤーを並べて展示したもの。展示するプレイヤーは、東京・高円寺のイベントスペース・レコードショップ・喫茶店が一体となった店「円盤」店主の田口史人さんが集めたものだ。

108種のプレイヤーは、基本的にどれも「ポータブル」(持ち運びができるもの)で、スピーカーが一体となったもの。自分がこれまでイメージしてきたようなズッシリしたと重厚なプレイヤーは少なく、デザインもカラフルでポップなものが大半。中には手のひらに乗るような大きさのものや、鍵盤が付いたオモチャのようなものまである。なぜこのようなプレイヤーが数多く販売されていたのか、田口さんに伺うと……。

「50年代、60年代の頃のレコード・プレイヤーは非常に高価なもので、子供は気軽に買えませんでした。それが経済状況などが変化したことで、レコードが次第に暮らしの中の身近な存在になっていった。そして70年代頃からは価格が手頃なプレイヤーが増えはじめ、子供向けのものも目立ってきましたね。また高度経済成長期で様々なメーカーが乱立していたことも、これだけ多様なプレイヤーが出てきた要因だったでしょう」

自分がイメージしていたような「本格的なステレオセットでレコードを聞く」という習慣が広まり始めたのは80年代になって以降で、それまでは多くの人が「みんなこいつ(ポータブル・レコード・プレイヤー)で聴いていた」というわけだ。

なかでも「40代以上の人なら記憶に残っているはず」という有名なものが、テントウ虫型のプレイヤー。羽のカバーがパカっと開くデザインが何とも愛らしい。

そのほか開いたフタがスピーカーになるタイプのものや、3インチのソノシートしか入らない小型のジュークボックス、逆にどデカく「これでポータブル?」とツッコみたくなるラジカセ型など、姿形や機能はプレイヤーによりさまざま。

どれもデザインを見ているだけで面白いし、各々のプレイヤーが置かれていた部屋や、持ち主の当時の暮らしを想像しても楽しい気分になってくる。

そして、00年代の製造中止後も高い人気を誇っている「COLUMBIA GP-3」などのプレイヤーで、実際にレコードを流して聞かせてもらうと……驚くほど音が違う!

「GP-3」はポータブルプレイヤーというのを忘れるほどバランスの良い音が聞こえるのだが、先述の開いたフタがスピーカーになるタイプのものは、どこか音がくぐもっていて頼りなさげだった。

田口さんは「プレイヤーによって音に個性があるし、聞き比べることでその違いが分かるようになる」と言っていたが、みんなが同じ音源を聞いていても、プレイヤーごとに異なる音が流れていた……というのは忘れがちなことなのかも。自分が昔に使っていたプレイヤーで、昔に聞いた音楽を聞きかえしてみると、その音質やプレイヤーの雰囲気をきっかけに、リアルな懐かしさが浮かんできたり、思わぬ発見があったりするかもしれない。

なお展示されているプレイヤーでの試聴は、11月26日の13時〜20時の田口さんの在店時のみ可能(一部のプレイヤーは販売も相談)。11月25日には「出張円盤レコード寄席」として、実際にこれらのプレイヤーを使ってレコードの聴き比べを行うイベントも開催されるので、多くのプレイヤーの音を聞いてみたい人はぜひその日に訪問を。

●『日本のポータブル・レコード・プレイヤー展 "みんなこいつで聴いていた!"』
10月22日〜11月30日/たけうま書房/横浜市中区末吉町4-74末吉ショッピングセンター2F/045-315-5190
11月25日19時〜は「出張円盤レコード寄席」を店内で開催。(出演:田口史人、ゲスト:鈴木啓之)。チャージ1000円・飲み物持ち込み可。
(古澤誠一郎)