トヨタ最高益決算でも豊田章男社長が繰り返す「飢餓感」
■トヨタ6期ぶりの最高益更新でも……
「日本においても税金を納めることができる状態となり、持続的成長のスタートラインから一歩踏み出すことができる」――。
4月8日、トヨタ自動車が発表した2014年3月期連結決算(米国会計基準)は、営業利益が前の期に比べて73.5%増の2兆2921億円、純利益も89%増えて1兆8231億円となり、6期ぶりに最高益を更新し、快走ぶりが鮮明になった。
トヨタはリーマン・ショック前の2008年3月期に営業利益2兆2703億円を計上して過去最高を記録したが、それ以降は歴史的な円高、さらに東日本大震災、大規模リコール問題など多くの苦難に直面した。2009年6月に就任した豊田社長は「会社として、社長として、やりたいことができないで大変つらく悔しい思いをした」と振り返る。しかも樹木の幹に例えて「ある時期に急激に『年輪』が拡大したことで、幹全体の力が弱まり、折れやすくなっていた」とも。
最高益を更新した14年3月期連結決算は円安効果が9000億円もあるとはいえ、従業員ひとり一人が額に汗して積み上げたコスト削減効果も大きく、豊田社長が「経営体質は確実に強くなった」と指摘するように、リーマン後の赤字転落を教訓に収益力の改善が着実に進んだことが好業績に反映されたといえる。ただ、この日、過去最高の決算を発表した豊田社長は「利益は目的でなく結果」と言い切り、得意のレーシングカーを運転しているときのような“笑顔”はみられず、むしろ、苦難を乗り越える度に目立つようになった前髪の白い線がようやく社長らしい風格をも感じさせた。
■「意志を持った踊り場」持続的成長に向けて種をまく
そのトヨタは今期(15年3月期)の売上高、営業利益が前期並みで伸び悩むとみている。営業利益は0.3%の微増だが、純利益は2%減にとどまる見通しだ。為替想定レートを前期と同じ1ドル=100円に設定。逆に為替変動が950億円の営業減益要因になる。為替の円高修正が一服することに加え、世界販売も国内が消費増税後の反動減の影響などを背景に増加は見込めず、前期より1万6000台少ない910万台と慎重だ。新興国などのリスク要因も多く抱えており、仮に為替が再び円高に振れれば、前年並みの利益すら維持できなくなる恐れがあるからだ。
豊田社長は今期を「意志を持った踊り場。5年10年後の持続的成長に向けて種まきを進めたい」と位置付ける。しかも、会見では「大企業にありがちな『おごり』が出てくることが最大のリスクだ」と強調。いわゆる「大企業病」の撲滅とともに、成長のエンジンとして「もっといいクルマ」を世に送り出すための人材の育成など将来に向けた積極的な投資を順次進めていく方針を明らかにした。「飢餓感」とも受け取れる豊田社長の発言は何もトヨタに限ったことではない。今の国内の自動車メーカー全般に共通する課題でもある。
豊田社長の父親の豊田章一郎名誉会長は4月に日本経済新聞に連載した「私の履歴書」で「最近では、海外への留学を希望する若者が少ないと聞く。私は機会がなかったが、今の若い人にはぜひ、海外へ羽ばたき、日本と世界を結びつける役割を担ってほしい」と記していた。若者にとっては耳が痛いメッセージだが、急拡大の中で人材育成が追いつかなかった反省からだろう。
この先、トヨタが「踊り場」から、さらに上の段に上がれるのか、それとも再び下がるのかは、国内外での厳しい目線が注がれる中で、権限を大幅に委譲した6人の副社長とともに、間もなく就任6年目に入る豊田社長のかじ取りにすべてが託される。
(経済ジャーナリスト 福田俊之=文)