ヨルダン戦の敗戦から２か月後の５月30日、日本代表はブルガリアとのテストマッチに臨んだ。

　ザックことアルベルト・ザッケローニ監督は、通常よりも多い26名の選手をリストアップした。ヨルダン戦を欠場した本田圭佑と長友佑都が復帰し、工藤壮人と東慶悟がメンバーに名を連ねたのである。ただ、所属クラブのスケジュールの都合で、本田と岡崎慎司はブルガリア戦後の合流となる。

　豊田スタジアムを舞台とした一戦で、日本はいきなり被弾する。開始３分、ブレ球のＦＫがＧＫ川島永嗣を襲ったのだ。あっという間のビハインドである。

　前半は３−４−３で戦っている。今野泰幸、栗原勇蔵、吉田麻也が３バックを組み、右に内田篤人、左に駒野友一が張り出す。ダブルボランチは遠藤保仁と長谷部誠で、３トップは右に乾貴士、左に香川真司、頂点に前田遼一である。

　ハーフタイムを迎えた時点のシュート数は、３対４である。試合内容をそのまま映し出した数字だ。中盤と前線に人数を割くメリットは、きわめて限定的にしか生かされていない。

　むしろ気になったのは、前半終了間際の攻防だ。44分と追加タイムに、左ＣＫから際どいシュートを許している。３月のゲームで失点を招いたリスタートへの対応が、ここでも課題として浮き彫りになった。

　ハーフタイムを挟んで、ザックはシステムを４−２−３−１へ戻す。最終ラインは右から酒井宏樹、栗原、駒野、長友となり、ダブルボランチは前半と変わらない。２列目には右から清武弘嗣、香川、乾が並び、１トップはハーフナー・マイクである。

　使い慣れたシステムに戻しても、日本の動きはぎこちない。前線からのプレスがハマらないのだ。思うようにボールを奪えないから、攻撃がノッキングしてしまう。
周囲を生かせる中村憲剛が途中出場しても、増えるのはシュート数だけである。決定機は散発であり、シュートは精度を欠いてしまう。

　この試合２度目にスコアが動いたのは、70分のブルガリアの得点だった。右サイドからの直接ＦＫがゴール前を横切り、長谷部の身体に当たってマウスへ転がり込んでしまう。

　欧州で揉まれているチームが、残り20分から逆転を許すとは考えにくい。Ｗ杯最終予選へ弾みをつけるはずの一戦で、日本は０対２で敗れた。

「立ち上がりはちょっと押し込まれましたけど、15分くらいからうまくいくところが何度かあった。前半もそれなりに、うまくハマるところはあった」

　３−４−３について聞かれた遠藤はこう語り、「手応えと課題が半分ずつくらい」と付け加える。５日後のＷ杯最終予選に話題が及んでも、ベテランの冷静さは変わらない。

「今日は２か月ぶりに集まって試合をしたわけで、感覚を取り戻すことも大事だった。失点がセットプレーからだったのは分かりやすい課題で、それ以外はそんなに崩されていない。これを引きずってしまうのが一番よくない。いいときのイメージを持ってやっていきたい」

　豊田から首都圏へ移動したチームは、６月４日にオーストラリアと対峙する。Ｗ杯最終予選の第５戦だ。予選突破の条件は、引き分け以上である。

　国内カップの決勝を戦った本田と岡崎は、試合前日の午前中にチームへ合流した。コンディションはベストではない。

　それでも、ザックは彼らを先発に指名する。いつもの11人が、いつもの４−２−３−１のシステムでピッチへ散った。

　緊張感の高い攻防が繰り広げられる。最初に決定機をつかんだのは日本だ。19分、本田、香川、岡崎のパスワークから香川が抜け出す。しかし、背番号10のシュートはＧＫシュウォーツァーに阻止される。スタジアムに溜め息が満ちる。

　33分、違う種類の溜め息がスタジアムを駆けめぐる。１本のスルーパスからクルースが抜け出すが、川島永嗣がシュートをストップする。こぼれ球を支配したケーヒルの一撃は、ゴールマウスを逸れたのだった。