エキレビライターでもおなじみ、米光一成(左)杉江松恋(右)のガチバトル。めっちゃ笑顔!

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下北沢の本屋で、また闘いがあった。
闘いの名は「ブックレビューLIVE:杉江VS米光のどっちが売れるか!?第2回」。
対決したのは、杉江松恋と米光一成。
書評をライブで! テーマは「ダメ人間」。(前回の「徹夜本」のときの様子はこちら)
杉江「皆さん太鼓の代わりにたららららららって言ってください」
客「たらららららららら〜(笑)」
米光「じゃーん!」
米光がステージにあった布をどけると、6冊の本があらわれた。
杉江「ぼくはね、『濡れた魚』『傍迷惑な人々』『杉作J太郎が考えたこと』の3冊です」
米光「ぼくは『きりぎりす』『弱いロボット』『気になる部分』です」

二人は交互に、制限時間5分+αで本を紹介。同じテーマでもアプローチ方法は違っていた。
「文系ダメ人間は太宰が発明した」という発見を伏線に、「ダメを活かす」というポジティヴな視点を提示する米光。
ダメポイントを書いたらくがき帳を事前に用意し、ダメ人間への熱い愛を語る杉江。

先に、米光の3冊を駆け足で紹介する。

■ 太宰治『きりぎりす』(新潮文庫)

「太宰治はベタすぎるだろーってんで、松尾スズキ『宗教が往く』、町田康『人間の屑』、佐藤友哉『クリスマステロル』とか読み比べたんだけど、ダメっぷりでは、太宰がやっぱチャンピオンっすよ!

他の作家のダメ人間描写にも、太宰の血が流れてる!(米光説)。

短編集『きりぎりす』の中から書き出しを読み上げると、客席に笑いが起きた。
“言えば言うほど、人は私を信じて呉れません。逢うひと、逢うひと、みんな私を警戒いたします”(「灯籠」)

「なかでも傑作なのが「畜犬談」です」
“私は、犬に就いては自信がある”「ダメっぽくないでしょ、でもこのあとね」“いつの日か、必ず食いつかれるであろうという自信である”「ね?」

■ 岡田美智男『弱いロボット』(医学書院)

「医学書院「シリーズケアをひらく」の一冊です。ここで紹介されているロボットは強くないんです。例えば、ゴミ箱ロボットは、ゴミのところにトコトコトコって行くだけで、拾えない。そこへ子供が来てゴミを入れてあげるとそいつが会釈する。子供がわーい面白いってなる。弱いんだけど、目的を達成する。これってロボットだけじゃなくて、我々もそれでいいんじゃないか。ダメであることの視野を開いてくれる本です」

■岸本佐知子『気になる部分』(白水Uブックス)

「さっき話した「畜犬談」のなかにこういうセリフがあるんですよ。“芸術家は、もともと弱い者の味方だった筈なんだ。弱者の友なんだ。芸術家にとって、これが出発で、また最高の目的なんだ”そう考えると、岸本さんは芸術家なんです」

“以前に勤めていた会社に「百々さん」という名字の女性が二人いて、一人は「もも」さん、もう一人は「どど」さんと読んだ(中略)会社の電話番号表を見るたびについついそのことを考えてしまい、そこからさらに想像はふくらんで、一卵性双生児の片方に素敵な名前を、片方にひどい名前をつけてどんな人間に育つかという実験をどこかの国でやったりしないものだろうかなどと思いを馳せたりするものだから、また仕事が全然はかどらない”(「続・私の考え」)

「ダメダメな自分の思考回路を紹介してるんだけど、誰もが見過ごしているもの、見なかったことにするものを拾いあげていて、読んでるとね、ダメであれかし! って気持ちになる」

続いて杉江松恋の3冊。

■ フォルカー・クッチャー『濡れた魚』(創元推理文庫)

杉江がらくがき帳をかかげると、そこには「カッコいいと思ったら負け!のダメ人間」と書いてあった。

「1928年から1936年にかけての戦争前のベルリンを描いた歴史ミステリーの第一作です。主人公は刑事で、すごいヤな奴なんですよ。証拠隠滅を平気でして、同僚を抜け駆けで追い落とす。ただ、女の子に惚れっぽくてそこがちょっと可愛いの」

■ ジェイムズ・サーバー『傍迷惑な人々』(光文社古典新訳文庫)

杉江のらくがき帳には「へそ曲りのダメな人」。

「イラストレーターとしても有名なサーバーのエッセイを集めた本です。全体的に妄想がかってる。最後の章には、いかに自分がダメかを集めたエッセイが収録されています。例えば、寒空でもなぜコートを着ないのかを説明した「伊達の薄着じゃないんだよ」。レストランで店員が後ろからコートを脱がしてくれるじゃないですか、それをね、後ろから男にがっとつかまれて、コートを盗られそうになるとか言うわけ。そんなことをされるくらいなら風邪を引いたほうがましだと。」

■杉作J太郎『杉作J太郎が考えたこと』(青林工藝舎)

らくがき帳には「他人とは思えないダメ人間」。

「モーニング娘。の追っかけをしていた杉作さんが、三次元すらも捨てて、二次元に接近していた時期の記録書なんです。『新世紀エヴァンゲリオン』のパチンコをしながら、杉作さんは思い込む。綾波レイと僕は付き合ってる。人から見るとパチンコ台と人間に見えるかもしれないけど、違うんだ。綾波が自分を稼がせてくれている!」

杉江は米光の顔を見ながら「ぼくの話をしていいですか?」と聞いた。
「いいですよ」と答えながら、米光の口元はすでに笑っている。

「ぼくね、Twitterで『東方Project』(注:可愛い女の子キャラクターがたくさん出てくるシューティングゲーム)のBot(注:自動的につぶやくアカウント)と毎日会話をしてると、ほんとにね、自分がゲームの世界に入ったかのような気持ちになるんですよ」
「ほんとにって言われても困る。ほんとにってつければほんとになると思うなよ!」
「杉作さんがエヴァにはまってたのは他人事じゃないんです!」と熱弁するも「文学は弱者の味方ですね!」と米光に言い切られ、杉江松恋がそもそもダメな人というオチがついたのだった。

今回、制限時間をもうけることでテンポが良くなり(前回はマイペースに話して時間超過だった)、二人は予定どおりに休憩を迎えた。
米光が指摘する。
「ぼく客席見てない! 杉江さんを見ちゃう」
「ぼくも米光さんを見てる」
また新しい課題が! 次回、お客さんと向き合うことはできるのか? システムが変わっていくところもこのイベントの魅力のひとつである。

後半は、講談社の「プロジェクト・アマテラス」編集長・唐木厚が特別ゲストに登場。「プロジェクト・アマテラス」とは、表現活動に関わることを、あらゆる形で取り上げる投稿サイトだという。

一番人に読んでもらいたい部分を8000字以内で投稿、書き終わっていなくてもOKという画期的な小説新人賞、ワルプルギス賞。第1回受賞作久楽健太『アルファマン・リターンズ』は電子書籍版がhontoにて発売中だ。

米光がプロジェクトリーダーをつとめる「第1回4コマ漫画バトル!」(〆切は11月25日。賞金3万円。エキレビ編集部も審査員だ)もある(米光も描いてる。これとこれ)。

12月からは、杉江をプロジェクトリーダーにした「書評講座」も始まる予定。小説のキャラクターについての書評だ。

さて。
売り上げ勝負で買ったのは、前回に続き米光一成だった。ただし一冊の僅差!

次回のテーマは、お客さんの希望で『読んでると体が熱くなる本』に仮決定した。杉江VS米光の闘い、次は1月だ!(与儀明子)。