赤い糸の女 オリジナルサウンドトラック
村松崇継

楽曲のタイトルが、蜜柑色、紫色、黄金色、鉛色、漆黒、はだいろなど、みんな色になっている

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「昼下がりの情事」という映画が昔ありまして、その影響なのか、「昼下がり」という言葉には、なんだかインモラルなイメージがございます。
そのイメージにピッタリなのが、フジテレビ系列で放送されている昼ドラ。
11月2日(金)に最終回を迎える「赤い糸の女」も、「あんたたち女子大時代からセックスに狂って桃色遊戯にふけってたんじゃないの!」なんてセリフが出てくる
だけあって、色と欲とでこんがらがっちゃった女たちの、最高に楽しい物語でした。

痴情のもつれから女友達を死に追いやったという過去を背負うヒロイン唯美(三倉茉奈)が、人並みの幸せを求めて生きていこうとしますが、行く先々で、次々とワケありの男たち、女たちに絡まれて、おかしな方向へと迷ってしまいます。
ふつう、「赤い糸」と言えば、「私とたったひとりの誰かをつなぐ素敵なもの」の例えですが、このドラマでは、そんなロマンティックなものではなく、唯美に絡み付いてくる魔の手という感じ。なにしろ、キャッチコピーが「欲望が、絡みつく。」ですから。
出てくるキャラクターが、みんな、自分勝手で、いじわるで、でたらめで、色恋にずぶずぶで。魔の刻といえば夕方ですが、昼下がりは女の魔の刻。悪くてダメな女の言動に、ついついのめり込んでしまいました。

妄想の昼下がりを思い切り楽しませてくれたのは、脚本家の中島丈博(「真珠夫人」「牡丹と薔薇」「さくら心中」など名作昼ドラを生み出してきた方)の才能と、女優たちの魅力。
最終回を前に、このドラマの女性キャラクターの人生を振り返り、そのキャラクターを輝かせた女優たちの力に注目しながら、昼下がりの女の生き方を考えてみたいと思います。

受け身な女 ヒロイン唯美/三倉茉奈
親友の彼氏と関係をもったあげく、彼女を死へと追いやる。しかもそれが、綿密な計算に基づいたことならともかく、過失致死って切ない・・・。その後、買い物依存症、借金、売春……ととことん転落。
確固たる意志がなく、周囲に流されてしまう困ったちゃんタイプですね。
友達の彼氏で性豪の麟平(瀬川亮)と、中学からの親友・芹亜(奥村佳恵)という悪い友達の色に染められてしまったのが運のつきでした。
そんな彼女を変えたのは、思いきって信州へ引っ越したことと、織物修行をはじめたこと。素敵なパートナーに巡り会い、母になり、消費生活からエコ生活へと変わっていきますが、またしても芹亜につきまとわれて・・・。

ヒロイン唯美役は、双子女優マナカナのお姉さんのほう、三倉茉奈。
清純双子女優という印象だった彼女が、このドラマで初のドロドロ演技に挑みました。
清純な感じの彼女がひどい目に遭って困った顔しているところが、いいの。
ベッドシーンはシーツにくるまったままなどキレイをキープしつつ、テロテロの下着姿などが大人な色気を感じさせた。だってもう26歳なのね。
中でも、最も、女優として飛躍した!と思わせたのは、「私はビオラ……鳴らして、鳴らして!」というぶっ飛び台詞をものにした時。こんな台詞が言えたなら、昼下がりの女として、もうこわいものはありません。

執着する女   唯美の友達・芹亜/奥村佳恵
子供の頃に「ブタ」と呼ばれるほどの外見だったのに、全身整形して、美貌を手に入れた執念の女。唯美に異常なまでの愛憎を抱き、何かと関わろうとしてくる。
まさに「赤い糸」を唯美に勝手に感じている人。でも、それが、騙して売春させたり、唯美の父親に迫ったり、なんでそんなことするの〜?っていう歪みっぷり。
信州にまで追いかけてきて、唯美の売春していた過去を広めてしまう。それも、自分の整形疑惑をばらされたという勘違いから。こえ〜〜。基本的に、自分本位で、反省しない、関わると最もめんどくさいタイプです。

モデル体型、まばたきしない感じの瞳というサイボーグ的な外観で、ターミネーターか映画「ノーカントリー」の殺し屋のごとく執拗にターゲット(唯美)を追ってくる芹亜を演じた奥村佳恵は、蜷川幸雄演出音楽劇「ガラスの仮面」(08)で姫川亜弓役を射止めてデビューしたというシンデレラストーリーの持ち主。
その際、劇中劇の「サロメ」を得意のダンスで見せたのが鮮烈で、この「サロメ」は、愛する人の気持ちが手に入らないなら首を切ってしまうという猛女の話。芹亜役を演じる片鱗がデビュー時からあったといえましょう。
今回、昼ドラブレイク女優のひとりとなりました。

年齢不詳の女  唯美の実母・豊子/いしのようこ
幼い唯美を捨てて、夫の美容整形外科の税理士と駆け落ち、30歳近く若い麟平との恋で、若さを保っているお母さん。

演じているのは、いしのようこ。まだ44歳なのに、50代の役を果敢に演じていますが、同じ昼ドラ「さくら心中」(11)でも、60代まで演じていたのです(その時も、けっこう業の深い役でした)。
いしのようこといえば、なぜかいつまでもドラマ「セーラー服通り」(86)の記憶が色濃くて、それが、いつまでも若い年齢不詳なイメージを強くしている気がします。「志村けんのだいじょうぶだぁ」(87〜92)で志村けんとコントをやっていた時も、おバカなギャグを浄化する役割でした。
制服とか着物が似合う清楚な美人が、実は愛憎ドロドロっていうのが萌えなのね。
ドロドロの人は、あえて清楚なファッションやヘアメイクにして楽しんでみましょう。

無垢な女  麻衣子の母・多嶺/毬谷友子
資産家の家を守ってきたが、認知症を煩い、唯美を娘の麻衣子と勘違いするなど、いろいろとおかしな言動で皆を困らすお母さん。理性が利かない分、精神がピュアなので、芹亜を「バケモノー」と指摘してしまうなど、小気味いい存在。

演じているのは、毬谷友子。宝塚の娘役スターを経て、主に舞台で活躍しています。
野田秀樹作、演出「贋作桜の森の満開の下」(89)で彼女が演じた、残酷で美しいお姫様役はゾクゾクするものだったし、初演井上ひさし作、蜷川幸雄演出「天保12年のシェイクスピア」(05)で演じたお冬(ハムレットのオフィーリアのイメージが託されている)の狂気の演技は、海外のジャーナリストにも高く評価されたほど。ドラマの認知症の演技もテレビサイズを超えて真に迫りつつ、なんだか愛らしいのです。
彼女が表現する無垢なコワさを会得するのは、一般人にはかなりハードルが高いですが、上級を目指すならぜひ、毬谷さんを目標にして。

高飛車な女 麻衣子の姉・遥香/小沢真珠
栃彦をめぐって唯美とライバルになり、麻衣子の死の原因をつきとめ唯美を糾弾する。栃彦を唯美にとられてしまった後は、性豪・麟平の虜になってしまう。とっても美人なのに不幸体質。そして、わかりやすく、ストレートにいじわる。どこか陰な芹亜に対して、明るく華やかなイジワルで、遥香がドラマを盛り上げました。

遥香役で小沢真珠が「赤い糸の女」に登場した時は、拍手喝采した視聴者が多いでしょう。なんといっても、彼女は、昼ドラの名作「牡丹と薔薇」(04)のイジワルなヒロイン・薔薇こと香世役で一躍注目された女優。
良家のお嬢様感を漂わせていて、「パンがなかったらお菓子を食べればいいじゃない」的な上目線がよく似合うんですよね。少女漫画のライバルっぽさを演じさせたら右に出る者なし
「桃色遊戯にふけって」という名台詞も、彼女の口から出ると効果倍増でした。
そんな高飛車な女が、カサノヴァ的男(麟平)にハマっておかしくなってしまうのも悲喜劇でございます。

美を超えた女  芹亜の母・百合子/大島蓉子
芹亜の母で、バー「谷間の百合」を経営。酸いも甘いも噛み分けて、強かに生きている肝の据わった女性という印象。整形前の芹亜の母親なので、決して美人とはいえないものの、派手に化粧して押し出し強く振る舞っているところは見習いたいものがあります。

大島蓉子が、こういうしっかりメイクして、女性っぽさを全面に出した役を演じることは珍しい。たいてい、おもしろいおばさんキャラが多いから。なんといっても、代表的な役といえば、「トリック」シリーズの山田奈緒子のアパートの大家・池田ハル。そう、あの、人なのです。ハルさんも、アパートの住人の若い外国人と結婚して、双子を生むという色欲という名の生命力の強さを感じさせる役でしたね。

般若の女 唯美の親友・麻衣子/上野なつひ
婚約者・麟平の浮気を糾弾する時、般若のお面をかぶっていた、横溝正史の世界ですか? 金田一さん、出てきますか?というような、エキセントリックな麻衣子。
上野なつひは、最近、出した写真集の表紙の胸元が、まさにananが提唱する美乳でドキドキしました〜。

技能をもつ女 織物の師匠・琴子/山口いづみ
唯美が弟子入りする織物の先生・琴子。この人はもう、自分の才能で食べているので、安定していますね。だからこそ、ぬるい生き方には厳しい。「こういうお涙頂戴は嫌いなのよ」とか「三年間は無給よ」と唯美に言い放つのでした。
山口いづみと言えば、「大江戸捜査網」のいさり火・お紺を思い出します。古っ。

とまあ、様々なタイプの女たちを振り返ってみましたが、もうひとり忘れられない女がいます。
名前が主張する女 唯美の同僚・谷厚子/椿鬼奴 です。
前半登場した、セックス依存症で、最後にはセフレに首を締められてしまうOLです。とっても運が悪い女です。この役を、椿鬼奴が熱演していたことも忘れがたい。谷厚子という役名より椿鬼奴という名前が主張し過ぎなので、女優やる時は考えものだとも思いました。

それはともかく、谷厚子という役、思えば、欲望の代償は大きいということを最初に体現していた、ある意味警告者の役割でした。
ドラマ後半の展開は、芹亜の整形と唯美の売春という過去が、互いの幸せを壊していくことになります。欲望に支配されてインモラルなことをすると、あとあと困ることになるという話なんですよね。
中島丈博先生ったら、昼下がりに女をこんだけ生き生きと狂わせておきながら、最終的にチクリと教訓も忘れないなんて! さすが、今度の11月12日に77歳になられる名匠!

あとでちゃんと貞淑な妻に戻るためにも、昼下がり、ひととき狂う時間をつくってくれるのが昼ドラです。
同じ昼下がりの「笑っていいとも!」のタモリさんが、最近、狂いっぷりがおとなしくなってしまって、テレフォンショッキングでゲストにまともな質問をしたり、
かなりいい話をしたり、また、宣伝に特化したことで、友達のはずが「はじめまして」というドキドキの瞬間もなくなってしまったりで、狂いの時間は、昼ドラだけが担っているといえます。
これからもがんばって狂ってほしいです。
(木俣冬)