愛知県知事・大村秀章vs名古屋市長・河村たかし “中京維新”バトルの行方
ともに地方からの政治改革を旗印に、固く結束していたはず。ところが、大村知事が「中京維新の会」を立ち上げたことに河村市長が大激怒。激しい舌戦を繰り広げている。人気絶頂の大阪維新の会を巻き込むこの泥沼バトル、勝つのはどちらか。
***
“ムラムラコンビ”ともてはやされた河村たかし名古屋市長と、大村秀章愛知県知事のふたりが、そのコンビを解消していた。
昨年2月のトリプル選挙(出直し名古屋市長選、愛知県知事選、市議会解散の賛否を問う住民投票)で、ともに「減税」を前面に打ち出し、さらに“中京都構想”という地方分権をぶち上げ、圧勝したふたりが、一転して激しいバトルを展開している。
その原因は、8月10日、大村知事が河村市長に知らせることなく、自らが代表となる政治団体「中京維新の会」の立ち上げを発表したことによるのだが……。
まずは怒り心頭の河村市長の弁を紹介しよう。
「もう信頼できない。会うつもりもない。なんべんも話していたのに、言わなかった。だまし討ちのようなやり方をして、向こうが『セイ・グッバイ』と言うとるのと同じでしょう」(8月13日)
一方の大村知事もこう反論。
「河村さんは政治家としての資質に欠ける。私をおとしめる発言を含め、理不尽なやり方に屈するわけにはいかない」(8月15日)
もはや修復不可能にも見えるふたりだが、昨年のトリプル選挙での蜜月ぶりからすると、今の状態はちょっと信じがたい。
このバトルについて、両陣営に話を聞いた。
まずは名古屋市内にある河村たかし事務所の関係者がこう話す。
「(大村陣営からの)相談は一切ありませんでした。それに中京維新の会という名前を聞くと、誰でも大阪維新の会の名古屋支部かと勘違いする。それから、わざわざ市長が海外出張で名古屋にいないときを狙って、中京維新の会の設立宣言をやった。なぜ、市長がいるときに堂々とやらんのか」
一方の大村陣営。安城市内にある事務所の関係者が語る。
「知事選に当選できたのは河村さんのおかげだから、なんでも河村さんの言うことを聞かなあかん、一緒にやらなあかんということはないはずです」
では、わざわざ河村市長が海外出張の際に発表したワケは?
「河村さんに遠慮しとるんじゃないかな(笑)。いずれにしても、今回のことでふたりの間にできた溝は、そう深くないでしょう」
河村陣営は怒り心頭、一方の大村陣営はなぜそんなに怒るのかといった感じで温度差がある様子。
「そもそも、ふたりは逆ベクトル、違う素質の人だった」
そう話すのは、地元テレビ局の政治部記者。
「地元ではなるべくしてこうなったと受け止められています。トリプル選挙で大勝した翌日の地元紙にも『蜜月関係いつまで』と打たれてたほどですから(笑)。大村さんは東大卒の元官僚で、自民党から出馬して当選を重ねてきた、いわば挫折知らずの人。一方の河村さんは、本人いわく『どん底人生』で、弁護士を目指すも司法試験に9回失敗して断念し、政治家秘書からの叩き上げでここまできた人。支援者層も全然違う。大村さんはトヨタ自動車をはじめ財界がバックについている。河村さんの支援者は庶民層ですからね」
そんな“水と油”のふたりが盟友になったのはなぜ?
「名古屋市に日本有数の渡り鳥の飛来地になっている藤前(ふじまえ)干潟というのがあります。かつて、ここに名古屋市がごみ焼却所を造る計画を立て、それに党を超えて反対し、干潟を守ったのがふたりだったんです。それ以来、政治家として認め合うようになりました」(地元テレビ局政治部記者)
そんな盟友ふたりの関係に最初にきしみが生じたのが、昨年11月の大村知事の「(公約の)減税をやめます」発言だった。
「大村知事のバックにある財界、特にトヨタの意向が大きかったはず。県民税の10%減税をしない代わりに、自動車関連の税をなくしています」(前出・政治部記者)
■あきれる地元住民。まさかの共倒れも?
こうして、もともと毛色の違うふたりの仲は徐々に分裂へと向かっていく。そして、この流れを決定的にしたのが、今をときめく大阪維新の会率いる橋下徹大阪市長をめぐっての“三角関係”だ。
「今年の年明けから、大村知事は河村市長に内緒で『三都連合』を言い出し、東京都の石原慎太郎知事、大阪市の橋下市長との会談を頻繁に仕掛けはじめたんです。このときも、河村氏は『事前になんの相談もない』と、大村氏の行動に不快感を露(あらわ)にしていました。そして、疎外感を覚えたのか、大阪まで押しかけて、得意の居酒屋で橋下市長と会談しています。とにかく、河村、大村のふたりで橋下市長の取り合いをしているんですよ」(地元紙の名古屋市政担当記者)
おじさんふたりに言い寄られている橋下市長は迷惑モード。
「(中京維新の会は)大阪維新の会とは関係ない。別個独立です。選挙目当てなら勘弁してほしい」
「今のゴタゴタの状況で、僕たちが政治的に名古屋、中京地域と行動をともにする方針を決めるには問題がある。きちんと方向性を話し合ってもらいたい」
意中のヒトに苦言を呈されたふたりに残された道は少ない。
「仲良くするしかないですね。そうしないと共倒れが目に見えている。特に大村知事の中京維新の会は、人数を集めるめどがまったく立っていません。大村さんは高いプライドを捨ててでもわびを入れて、河村さんと合流するしかない」(前出・市政担当記者)
名古屋駅からほど近い円頓寺(えんどうじ)商店街(西区)で、市民の声も聞いてみた。
「(自民党が)野党になってくすぶっとったのを、河村さんに声かけてもらったから知事になれたのに、その恩を仇(あだ)で返すようなやり方やで。それは許されんやろ」(衣料品店店主)
やはり大村知事が不利? だが、市民からは河村市長への不満も噴出した。というのも、河村市長の心はすでに国政に向いていて、国会議員を5人以上集めて減税新党を結成し、自らも市長を辞め、次の衆議院選に打って出るという話もあるからだ。
「もう情けないのひと言。ふたりとも、名古屋、中京を見て政治をしていない。大阪の橋下さんのほうばっかり。何が中京維新の会や。まるっきり、大阪維新の会の猿まねやないか」(金物店店主)
「こうなると思っとった。大村さんは財界、河村さんは庶民が応援してて、支持層が違いすぎる。ふたりがもし仲良くやれたら、金持ちから貧乏人までが支持するすごい地方自治体になれると話す人がおったけど、やっぱり理想は実現せんもんやわ」(青果店店主)
前出の市政担当記者がつぶやく。
「藤前干潟を守った、あの頃のスピリッツをふたりにはもう一度思い出してもらって、名古屋、中京のために頑張ってほしい」
このままでは共倒れもある。市民の声はふたりに届くのか?
(取材/ボールルーム)