トヨタでも、ホンダでも、日産でもない…米誌が「世界一安全」と絶賛した"日本の自動車メーカー"の名前

■「安全性」で頂点に立った日本車メーカー
三点式シートベルトを世に送り出した安全装備の先駆者ボルボも、衝突試験で高得点を叩き出してきたテスラも、新たに発表された「安全性の通信簿」では上位に名を連ねることができなかった。代わって頂点に立ったのが、広島に拠点を構える日本の企業だ。
アメリカの権威ある米消費者情報誌のコンシューマー・レポート(CR)が新たに打ち出した安全性総合評価ランキング「セーフティ・バーディクト(Safety Verdict)」で、マツダが全ブランドを抑えて首位を獲得した。
評価の対象となったのは、北米市場で販売されている全29ブランドだ。
2位以降を順に見ると、韓国・現代(ヒョンデ)自動車系の高級ブランドであるジェネシス、ホンダの北米向け高級ブランド・アキュラ、フォード系の高級ブランド・リンカーンといった顔ぶれである。大衆価格帯を主戦場とするマツダが、高級・プレミアム志向のブランド群を軒並み追い抜く格好となった。
以下、現代自動車(ヒョンデ)、ホンダ、日産、アウディ、スバル、現代自動車系の起亜(キア)、米GM系のビュイック、ボルボ、フォルクスワーゲン、トヨタ、トヨタ系の高級ブランドのレクサス、メルセデスベンツ、BMWと続く。
カナダ自動車情報サイトのオート123は、安全装備に定評があるはずのボルボが12位、トヨタは14位、レクサスは15位にとどまったと指摘。テスラに至っては26位まで沈んでおり、マツダの健闘が目立つ。
■評価軸を「事故を起こさせないクルマ」へ転換
ランキングが発表されたのは、今年2月のことだった。
米自動車ニュースサイトのオート・ブログは、CRが衝突時の乗員保護性能だけに着目したわけではなく、これまでにない評価方式を導入し総合的に安全性を評価したと振り返る。
自動緊急ブレーキや、ブラインドスポットの接近警告など、事故を未然に防止する装備をどこまで標準で備えているか。また、インフォテインメント(車載情報・娯楽システム)の操作がどれだけ運転の妨げになりにくいか――。
CRはこうした要素を一つひとつ点数化し、総合的に評価する仕組みを新たに開発した。
オート123によると、米国道路交通安全局(NHTSA)の連邦安全基準への適合度、米道路安全保険協会(IIHS)のスモールオーバーラップ前面衝突試験の結果、四輪駆動の標準装備の有無といった項目が加味されるという。
スモールオーバーラップ前面衝突試験とは、車両前面の約25%(端から4分の1)だけが障害物に衝突した状態を再現するテストだ。電柱や対向車の角に衝突するシナリオを想定しており、車体正面に設けられた衝撃吸収機構が機能しない、より危険な状態での事故を想定している。
オート123によると、CRの評価軸はこのほか、衝突耐性、制動性、緊急時のハンドリング、車内の人間工学に至るまで、幅広い項目を審査対象としている。このようにCRの総合スコアは、多面的な観点を1本の評価軸にまとめたスコアだ。
同誌は評価軸の重心を、衝突した後の乗員保護から、「そもそも事故を起こさせないクルマづくり」へと、はっきり移してきた。運転中の認知負荷や予防装備の標準化を採点に組み込む動きは各機関で広がっており、自動車業界全体の安全哲学が、いま転換期のただなかにあることがうかがえる。
■ボルボ、テスラが減点された理由
名門ボルボとテスラは、なぜスコアを落としたのか。評価項目を仔細に見ていくと、両ブランドが陥った「減点要因」の存在が浮かび上がってくる。
CRは、EX30をはじめとする近年のボルボ車に対し、ユーザビリティ(操作のしやすさ)の評価で最低スコアを付けている。CRの自動車テスト部門シニアディレクター、ジェイク・フィッシャー氏は、「空調や音声の操作で気が散るのは、安全性に対する失点だ」と指摘する。

テスラの事情も、おおむね同じだった。衝突試験では総じて好成績を残し、衝突回避技術の実効性も折り紙付き。それでもモデルYとモデル3は、ブランド別評価でランキング最下位付近に沈んだ。
要因は、ほとんどの操作をセンタースクリーンに集約したコンソールにある。速度計が運転席の正面に据えられたクルマや、ワイパー操作が直感的なレバー式のクルマであれば、ドライバーは路面から視線を外さずに済む。ところがタッチスクリーンに依存した設計では、ドライバーは運転中に注意を奪われかねない。CRはそう見ているのだ。
ボルボの内装をめぐっては、評価項目とは別に、実社会で安全性への疑問がちらつき始めている。米集団訴訟情報サイトのトップ・クラス・アクションズによれば、車載インフォテインメントシステムのAndroid Automotive OSを採用したモデルをめぐる不具合に起因して、昨年12月、米ニュージャージー州連邦裁判所で集団訴訟が提起された。
インフォテインメント画面のフリーズやバックカメラが起動不能になる症状のほか、ヘッドライトの不規則な点滅やウインカーの誤作動も発生。修理・ソフトウェア更新・リコール後も解消しなかったとして訴訟に至っている。
■マツダが“世界一”になった決め手
ボルボとテスラの陥落要因が「操作の煩雑さ」だったとすれば、マツダが首位を勝ち取った決め手はどこにあったのか。
答えは、拍子抜けするほど明快だ。マツダは安全装備をオプション扱いせず、価格帯やグレードを問わず搭載する方針を貫いてきた。
CRが2月に導入した新指標「セーフティ・バーディクト」は、衝突回避と乗員保護の総合スコアを、ベーシック/ベター/ベストの3段階で示すものだ。
最上位のベストを取得するには、4つの要件をくぐり抜けなければならない。
第1に、高速走行時でも動作する自動緊急ブレーキ(AEB)、ブラインドスポット警告(BSW)、後方クロストラフィック警告(RCTW、後退で車道に出る際に左右からの接近車両を知らせる装備)が、全グレードで標準装備されていること。
第2と第3に、IIHSの2つの衝突試験で高評価を得ていること。そして第4に、ドライバーの注意を奪わない操作系を備えていること。この4点である。
■人間中心の設計思想でリスクを摘む
マツダはHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース、人と機械の接点の設計)に人間中心の設計思想を据え、不注意運転(漫然運転)を招く3つのリスク要因(認知的注意散漫・視覚的注意散漫・手動的注意散漫)を最小化するようコックピットを造り込んできた――と説明する。
具体的には、スイッチの位置や操作方法を確認するなど、運転そのもの以外へ意識が逸れる状態を避ける。情報を読み取るために路面から目を離す瞬間を低減する。操作機器に手を伸ばす際に体を大きく動かし、無理な姿勢を強いられる状況を抑制する、などの取り組みだ。
マツダがこの思想を最初に具現化したのが、CX-60である。車両情報やナビを映し出すADD(アクティブ・ドライビング・ディスプレイ、運転に必要な情報を視線移動の少ない位置に投影する表示装置)の表示面積を大きく拡張し、後続のラージ商品群(CX-60以降に投入された大型車群)では、実に従来比3倍にまで広げている。

マツダUSAは今年2月、CRが最高評価に必要とする要件、すなわちIIHS側面衝突試験での好成績、中等クラスのオーバーラップ前面衝突保護における高評価、高速域での歩行者検知付き自動緊急ブレーキ、ブラインドスポット警告と後方クロストラフィック警告の標準装備、予測可能で信頼できるハンドリングについて、マツダにとっては「目新しい基準ではなく、長年にわたり我々の安全戦略を導いてきた原則」であったと表明した。
■協会トップ「安全性で卓越し続けている」
マツダは世界各地で高い評価を得ている。NCAP(New Car Assessment Program、自動車アセスメント)の日本版「JNCAP」で、CX-80は2024年度に5つ星を獲得。米USNCAP(米運輸省の同種制度)では対象5車種すべてで最上位評価を勝ち取った。欧州のユーロNCAPと豪NZ共催のANCAPでも、CX-80で5つ星を得ている。
マツダUSAによると、同社はIIHSの「トップセーフティピック+」2026年版を、8モデルで受賞。単一ブランドとして最多の受賞数となった。最高評価で首位を獲ったのは、これで3年連続となる。2008年以降の累計では、IIHS Top Safety賞99回、うちTSP+は73回と、実績を重ねる。
この結果にはIIHS自身も注目したようだ。協会のデイビッド・ハーキー会長は、「マツダは今年も8車種がIIHSトップセーフティピック+に選ばれ、安全性で卓越し続けている」と述べた。さらに彼は、高価格帯の車種だけに安全装備を限定していない点にも踏み込み、「消費者に対し、幅広い価格帯で最高水準の安全装備を提供している」と評価している。
■年々上がる「最高評価」のハードル
IIHSは安全基準のハードルを年々引き上げている。同協会の発表によれば、2026年版で最高評価「トップセーフティピック+」を勝ち取るには、衝突安全と事故予防の計6項目すべてで高い成績を収めなければならない。前面・側面衝突の3項目とヘッドライト評価、歩行者衝突回避、そして車対車前面衝突回避だ。さらには、事故予防装置も標準装備として提供されていることが求められる。
最大の追加要件となったのが「車対車前面衝突回避テスト」である。2022年に廃止された旧テストに代わる刷新版が昨年から運用を開始し、今年から最高評価獲得に欠かせない必須要件として加わった。最高時速43マイル(時速約70キロ)という高速域で、前方の乗用車・バイク・セミトレーラーを自動で検知し、減速・停止して追突を回避できるかが問われる。クルマの安全性をめぐる基準は、ますます先進的な領域へと達しつつある。
要約するならば、衝突時の頑健さ、事故予防の精度、そして全グレードでの標準装備化、その三拍子が揃って初めて最高評価を得ることができる評価制度だ。
マツダはこの思想を地で行く。
マツダUSAは今年3月、IIHSの「トップセーフティピック+」を8モデルで受賞したと発表。表彰された2026年型のマツダ3セダン、マツダ3ハッチバック、CX-30、CX-50、CX-70、CX-70 PHEV、CX-90、CX-90 PHEVすべてで、ブラインドスポット・モニタリング(BSM、死角検知)、後方クロストラフィック警告(RCTA)、スマートブレーキサポート(自動緊急ブレーキ)、車線逸脱警報(LDW)の4種を標準で備える。エントリーモデルのマツダ3セダン〔2万4550ドル(約393万円、配送・取扱手数料別)〕でさえ、例外ではない。
マツダは安全装備を「上級グレード限定」の付加価値として温存せず、ラインナップの隅々にまで浸透させている。
■マツダは1位を守り続けられるのか
対照的に、残念ながら上位を逃したのがスバルだ。一部モデルでBSWとRCTWを標準装備としていない点で評価を落とし、9位に沈んだ。29ブランド中で比較的高い位置は維持したものの、CRのフィッシャー氏は、「安全性はオプション扱いであってはならない」と明言する。

テスト車両のうちベスト判定の割合が50%を超えたのは、マツダを始めとする上位5ブランドのみとなった。
もっとも、マツダがこの王座をいつまでも守れるとは限らない。マツダ自身が、これまでの勝因の逆をゆく一手を、新型車で打とうとしているのだ。
米自動車ニュースサイトのモーター1の報道によれば、マツダは10年以上採用し続けてきたコマンダーノブ、つまりセンターコンソールの回転式操作ダイヤルを廃止する。
コマンダーノブはスマホ連携規格のアンドロイド・オート(Android Auto)やアップル・カープレイ(Apple CarPlay)が登場するより前に設計されたもので、のちにこれらタッチ操作前提のシステムを追加した際に統合上の課題が生じていた。
車載技術・ヒューマン・マシン・インターフェース担当プロジェクトマネージャーのマシュー・バルブエナ氏は「350以上のアプリを単一のノブで操作することは非常に困難だった」とも語っており、移行の背景には技術的な事情があった。
■新型CX-5で採用、大型モニターへの懸念も
物理スイッチに代わって導入するのは、車載型システムのグーグル・ビルトインを搭載する大型タッチスクリーン。アメリカで今年初頭に発売され、日本でも5月21日に330万円からの価格で発売されたばかりの新型CX-5(3代目、約9年ぶりのフルモデルチェンジ)でデビューとなった。

同モデルは伝統だった回転式ノブを廃し、15.6インチの大型タッチパネルを採用。物理ボタンはデフロスト、デフォグ、ハザードの3つだけと、極めて絞り込まれている。タッチスクリーン依存でボルボとテスラが減点された直後に、王者となったマツダが、まさに同じ方針へと転換しようとしている。
ただしマツダは、わき見運転のリスクを低減する方針は維持する。バルブエナ氏はモーター1に対し、「注意散漫の最小化」という哲学は不変だと強調。ステアリング上の専用ボタンや音声認識を組み合わせ、視線を前方に向けたまま操作できる設計は維持したと説明した。
一方、マツダのほころびの兆しは、別の面からも懸念される。
CRの別ランキングである「2026年信頼性ランキング」では、CX-70とCX-90の不具合が響き、マツダはトップ10圏内から14位へと後退した。
CRの「信頼性」とは、故障や不具合の少なさを指す。会員が過去12カ月間で実際に遭遇した不具合を集計したものだ。
フィッシャー氏は、大胆な設計変更や新技術を導入したことにより、信頼性の面で後退する現象は一般に起きうると指摘。今回のタッチスクリーン化という方針転換にも、同じリスクがついて回ることになる。
それでも、マツダは独立した評価機関により、設計哲学の有効性が裏付けられている。オート・ブログによれば、新型CX-5はユーロNCAPで5つ星を獲得。全4項目で、欧州市場向けセーフティパックを装着したホンダCR-Vをも上回った。
■「死亡事故ゼロ」目標は実現できるのか
新技術への期待と不確実性が交錯するなか、マツダ広島本社は安全への取り組みを今後も進める。
長年をかけて培った人間工学の研究を土台に、危険が顕在化してから反応する技術ではなく、危険にさらされる状況そのものを減らす先進安全技術を、同社は地道に磨いてきた。今後見据えるのは、2040年までに新車に起因する死亡事故をゼロにするという、野心的な長期目標だ。
マツダはこの姿勢を、人間中心の設計思想にも一貫して反映させている。マツダUSAニュースルームによれば、ブレーキ、操舵、ハンドリングはいずれも自然で先読みしやすい挙動になるよう作り込まれ、運転支援システムが介入する前の段階で、ドライバー自身が危険を回避できる構造になっているという。
米マツダの車両安全担当ディレクター、ジェニファー・モリソン氏は「安全はマツダのエンジニアリング哲学の根幹であり、ドライバー・乗員・道路を共有するすべての人を守るという我々の揺るぎないコミットメントを、CRが認めてくれたことを光栄に思う」と語った。
回転式ダイヤルを廃止しタッチスクリーン導入へ舵を取ったマツダは、安全性とモダンな操作性をどう両立するか。相反する2つの価値への対応が注目される。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
