子どもが「アダルト漫画」を読んでいたら、親はどうすべきか…性被害児童と向き合い続ける弁護士が語る“性教育”のポイントとタブー
〈「人前でパンツを脱ぎ、お尻を……」子どもの性被害に詳しい専門家が明かす、被害者が見せる“異常な行動”と犯罪者たちの「おぞましい手口」〉から続く
「なかには『死にたい』という気持ちが消えない子もいます。被害に遭った当時の気持ちが“冷凍保存”されて、死にたい気持ちが出てきてしまっているんです」
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近年深刻化している子どもの性被害。この問題と向き合い、被害を受けた子どもの支援を続けているのが、NPO法人「子ども支援センターつなっぐ」の代表理事であり、弁護士の飛田桂氏だ。2025年12月に取材協力した電子コミック『性被害のせいで、息子が不登校になりました』(著者:あらいぴろよ、監修:斉藤章佳、KADOKAWA刊)も刊行された飛田氏に、支援の舞台裏と、家庭での性教育における「意外なタブー」などを聞いた。(全3回の3回目/最初から読む)

性被害を受けた子どもの支援にも取り組む飛田桂弁護士(写真提供=本人)
性被害に遭った子どもを、どのように立ち直らせるのか
――つなっぐを訪れた子どもたちの「回復のプロセス」を教えてください。
飛田桂弁護士(以下、飛田) 対面後、まずは国際標準の手法を用いた「司法面接」を行い、子どもが話した内容を録音・録画します。さらに、可能であれば、被害の痕跡など証拠収集を行う「系統的全身診察」を行います。
大半の性被害は密室で行われるため、何の証拠も残っていません。すると、子どもの供述が非常に重要視されますが、もしも傷跡など体に何らかの痕跡が残されていれば、供述時の子どもの負担を減らせるためです。
――『性被害のせいで、息子が不登校になりました』では、「付添犬」の存在も描かれていました。
飛田 司法面接から系統的全身診察までのプロセスは、子どもに大きな負担を伴います。その負担を少しでも軽減しようと、犬と触れ合う時間を作り、安心しやすい環境を作っています。
――心身のダメージは子どもによって個人差があると思いますが、うつ状態のような子どもが多いのでしょうか?
飛田 ネガティブな感情を抱えている子も多いですが、年齢が幼いと性被害を受けたことを理解しておらず、元気いっぱいな子もいます。大人の性被害と異なり、子どもの性被害への反応は十人十色です。薄々おかしいと気づいている子もいれば、全く気づいていない子もいる。どんな場合でも、周囲が異変に気づいて、子どもの最善の利益を考えながら支援していくのが重要です。
「死にたい」と悩む子どもとの向き合い方
――司法面接や系統的全身診察のあとは、どのような支援をされるのですか?
飛田 まず必須になるのが、「加害者との分離」です。どんなトラウマでも同様ですが、精神的にも物理的にも加害者と離れ、子どもの安心・安全を守らなければなりません。
すると、多くの子どもは生活が一変します。以前の自宅から引っ越し、転校する子もいれば、性加害者の父親から逃げるために母親と一緒に見知らぬ場所に引っ越す子もいます。裁判になれば警察や法廷に同行したり、安全な暮らしを守るために金銭的支援をしたり、携帯電話を貸し出したり……子どもを取り巻く環境により、支援内容は多岐にわたります。周囲に頼れる大人がいない場合、10年以上にわたって支援を続ける子もいます。
――トラウマのケアもされているのですよね。
飛田 子どもに不眠やうつなどの症状があれば、医療機関と連携しながら適切な処置を施します。なかには「死にたい」という気持ちが消えない子もいます。被害に遭った当時の気持ちが“冷凍保存”されて、死にたい気持ちが出てきてしまっているんです。そんなときは、まず過去の自分を安心させてあげることが大事になります。例えば、こんな話をします。
「死にたい気持ちは自分を助けにきてくれる気持ちなんだよ。だから、その気持ちを否定しなくていいんだよ。なぜ死にたい気持ちになってしまうかというと、その前の気持ちが死ぬよりも辛いことだから。今の前にあったのは、どんな気持ちだった?」
すると、「恥ずかしい」「相手を殺してやりたい」「大人はみんな信用できない」「私(僕)が悪かった」とか、いろんな言葉が出てきます。「じゃあ、もしあなたが私(カウンセラー)だったら、辛い気持ちを抱えた当時の自分にどんな言葉をかける?」と聞くと、大体の子は「分からない」と言います。
――なかなか言葉にはできないですよね。
飛田 そこで、「もう危ない人はそばにいないよ」「あなたは悪くないよ」「私たちは、みんなあなたの味方だよ」といった言葉をかけます。トラウマケアは、そうやって一つひとつの気持ちに配慮しながら、繰り返し行います。湧き出てくる負の感情や記憶を、どうコントロールしながら生きていくかを練習するような。完全回復するというより、一生をかけて緩やかに回復していくイメージです。
子どもに対する性教育での「タブー」とは?
――被害を受けたのが幼い子どもだったケースは別として、裁判をするかどうかは子どもの意思が尊重されるのですか?
飛田 未成年者が警察の捜査を受ける場合、基本的には保護者の同意が必要になります。そこがまさに大きな問題で、保護者が混乱して対応が遅れてしまうと、気持ちが落ち着いた頃には手遅れになることも多いんです。
家庭内性被害の場合、子どもが被害届を出したいと希望しても保護者が反対することもあります。私たちが保護者を説得することもありますが、日本は親権が強すぎて難しいのが現状です。
そもそも、今の日本の法制度では、証拠がないと子どもがただ傷ついて終わってしまうことが多いんです。子どもや周囲の大人が声を上げたときにベストな対応がされる世の中に変わっていかなければ、「裁判をしよう」と思えないですよね。現在の仕組みは、間違っていると思います。
――とはいえ心にダメージを負うのは、保護者も同様で判断能力が落ちているケースもありそうです。
飛田 そうですね。加害者が身内や信頼していた人だったりするときは、特にショックも大きいと思います。保護者が落ち込み、涙する姿を子どもが目にするのは悪影響になるため、支援センターを紹介することもあります。
――特に多いとされる、家庭内での性加害/被害を未然に防ぐために、保護者ができることは何でしょうか?
飛田 お子さんが年長ぐらいになって一定の物事を理解できるようになったら、性被害の予防教育を実践するのが良いと思います。誰かが体に触ろうとしたときは、「キャー」「助けて」と大きな声を出したり、全力で走って逃げたりするんだよと伝え、実際に練習をする。繰り返し何度も行うといいですね。
「知らない人に付いていったらダメだよ」と教えることも多いと思いますが、性被害は見知った人からも起こるため、「知っている人でも体を触るのはいけないことなんだ」と教えてあげなければなりません。日本では、「性の話はタブーである」として家庭内でも避ける傾向がありますが、それが性被害の発見を遅らせてしまいます。何かおかしいと思ったら、すぐ保護者に伝えられるような環境がベストです。
「保護者が加害をしないこと」も非常に重要です。お子さんの局部を触ったり、形やサイズに言及したり、写真を撮ったりするのは、いずれもNGです。第三者にそれをされた時に「性加害」だと気付けなくなるためです。
子どもが「エロ漫画」を読んでいたら、親はどうすべきか
――「親子の触れ合い」と「性加害」の明確な線引きが必要なのですね。
飛田 そうですね。例えば、幼い子どもには頬や唇にキスすることがあるかもしれませんが、「それが当たり前なんだ」と学習しないように、唇は避けたほうがいいです。もし、してしまった時は、「お母さん(お父さん)とだけだよ」「大きくなったら、もうしないよ」などと一言添えてほしいところ。この辺り、日本は意識が低いなと思っています。
――成長してくると、保護者が知らない間に子どもが「エロ漫画」などを見ていることがあると思います。昨今は普通のサイトを見ていてもいかがわしい広告を目にするなど「エロ」が身近になる中で、保護者はどうすべきなのでしょう。
飛田 まず、タブーにしないのが重要です。「何見てるの!」などと怒ってしまうと、その話題がタブーになり、何かあった時に相談しにくい環境ができてしまいます。子どもが性的な話題に興味を示していることは成長の証であり、悪いことではありません。ですが、ネット上のコンテンツには間違いも含まれていることを伝え、子ども向けの性教育漫画などを買ってきて、「こっちのほうがいいと思うよ」と促すのが良いかなと思います。
――日頃から気をつけておきたい「子どもの兆候」はありますか?
飛田 見たことのないモノを持っている、保護者の方が知らないような場所に行っている、名前を言えないような相手と会っている、「死にたい」と口にする――などは、分かりやすい兆候です。性被害でなくとも子どもの安全が脅かされている可能性が高いと思います。そんなときは、子どもの様子をよく見ながら、落ち着いて話を聞いてあげてください。
〈「一体誰が息子を壊したの…?」幸せだった家庭を襲った“おぞましい性犯罪”とは? 漫画で読む「子どもの性被害」の残酷リアル〉へ続く
(小林 香織)
