ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――秋のマイル王決定戦、GIマイルCS(京都・芝1600m)が11月17日に行なわれます。現在のマイル戦線について、大西さんはどう見ていますか。

大西直宏(以下、大西)古馬のマイル戦線は、グランアレグリア、ソングライン、シュネルマイスターといった名馬が引退したあと、ナミュール(牝5歳)やセリフォス(牡5歳)、ソウルラッシュ(牡6歳)らが上位を形成するなか、新たに台頭する馬がなかなか出てこない状況が続いていました。しかし、ようやく新顔が登場。全体の勢力図に変化の兆しが見え始めています。

 新顔として注目しているのは、路線を変更してきたブレイディヴェーグ(牝4歳)。また今回は、海外から参戦するチャリン(牡4歳)にも未知の魅力を感じます。

――名前を挙げていただいた2頭の魅力について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか。

大西 ブレイディヴェーグについては、GIエリザベス女王杯(京都・芝2200m)での連覇を狙わず、あえてマイルCSに矛先を向けてきた点は興味深いですね。馬主サイドの戦略的な使い分けなのかもしれませんが、同馬にとって、マイル挑戦は決して悪くない選択だと思います。

 これまで1800m戦でも鋭い末脚を発揮しているだけに、1600m戦ならさらにそのキレが生きるはず。加えて、3歳時にGIIローズS(2着。阪神・芝1800m)の日本レコード決着にも適応していることから、速い時計にも対応できるでしょうし、時計の速い馬場はプラスに働くと見ています。

 鞍上のクリストフ・ルメール騎手も、先週のエリザベス女王杯におけるレガレイラの敗戦を経て、今週は一段と万全を期して臨んでくるでしょう。

――続いて、英国馬のチャリンについてはいかがでしょうか。今年に入って、GI3勝、2着2回。充実のシーズンを送っています。

大西 ひと言で言えば、世界屈指のマイラーですね。外国馬の不安材料となる「日本の速い馬場への適性」に関しても、レース映像を見る限り、適応できそうな印象を受けました。

 特にフランスのGIジャックルマロワ賞(8月11日/ドーヴィル・芝1600m)では、斤量60kgを背負いながら1分33秒9の好タイムで勝利。これだけの記録を残せていれば、日本の馬場でも力を発揮できる可能性は高いでしょう。

 国際レーティングは「122」。この数字は、今春のGI安田記念(6月2日/東京・芝1600m)を制した香港馬のロマンチックウォリアーと並んで世界トップレベルです。

 ただ、京都・外回りコース特有の難しさは、懸念材料となります。「安田記念とマイルCSの双方で勝利するのは難しい」と言われるのは、コース設定がまったく異なるからです。京都の外回りコースは3〜4コーナーにかけて起伏があり、日本の馬でも得意、不得意が分かれるコース。こうした特徴的なコースを、外国の馬が即座に対応できるかどうかは未知数と言えるでしょう。

――出走各馬にとって、京都・外回りコースの対応がひとつのカギになりそうですが、ほかに勝敗を左右するポイントはありますか。

大西 今の京都・芝コースは、先週のエリザベス女王杯でもわかるとおり、全体的に馬場の傷みが目立つ状態です。それでも、時計自体は速い決着となっています。実際、エリザベス女王杯では過去10年で2番目に速い勝ちタイムが計測されました。

 とはいえ、馬場の内側はかなり傷んでいるようで、最後の直線では距離損なく内を突くよりも、4コーナーをスムーズに回って外目を選んだほうが鋭い脚を使えている印象。枠順的には、真ん中から外の枠に入ったほうが戦いやすいかもしれませんね。

――こうした状況を踏まえて、気になる穴馬はいますか。

大西 前走で初の重賞制覇を決めた上がり馬、ジュンブロッサム(牡5歳)が面白そう。東京、京都、双方のマイル戦で勝利経験があり、コース適性は問題ありません。2、3歳時には東京と新潟のレースでレコードタイムを記録しており、速い馬場への適応も実証されています。


マイルCSでの勝ち負けが期待されるジュンブロッサム photo by Eiichi Yamane/AFLO

 脚質は追い込み一辺倒ですが、外差しが決まりやすい今の京都コースなら、この馬の末脚が炸裂する可能性は大いにあります。イメージとしては、昨年のレースを制したナミュールのような立ち回りでしょうか。

 鞍上の戸崎圭太騎手は通常、早仕掛けを避けて慎重な騎乗が多いですが、この馬ならばそのスタイルが合っていると感じます。重賞1勝という実績にすぎませんが、末脚のキレ味はGI馬相手でもそん色はありません。

 この舞台では、ジュンブロッサムの武器が最大限に引き出されることを期待して、同馬を今回の「ヒモ穴」に指名したいと思います。