篠塚和典が語る坂本勇人 後編

(前編:コーチ時代から見てきた坂本勇人のすごさ 「技術の習得に貪欲で地道な努力を繰り返してきた」>>)

 篠塚和典が語る坂本勇人の後編は今シーズンのプレーについて。109試合出場で打率.238と不振にあえいだ要因、来シーズン以降に期待することなどを語ってもらった。

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【開幕からサードを守っていた影響は?】

――今シーズンは調子が上がりきらなかった印象がある坂本選手ですが、状態をどう見ていましたか?

篠塚和典(以下:篠塚) ちょっと何かにハマってしまうと、バッティングの状態を上げるのはなかなか難しいんですよね。勇人の場合は持病の腰痛もありますし、年齢からくるコンディション調整の難しさというのもあるでしょう。30歳前後の時とは違う感覚になってきていると思いますね。

 それと、6月下旬ぐらいに二軍に降格しましたよね(ルーキーイヤーの2007以来、17年ぶりの降格)。精神的にも追い込まれて焦りもあったと思います。若手が少しずつ出始めたこともありますし、「このまま一軍を離れてしまうと、ポジションをとられてしまうんじゃないか」とか、余計なことを考えてしまいますから。


今シーズン、不調に苦しんだ坂本 photo by Sankei Visual

――精神的な部分が大きい?

篠塚 個人的にはそう思いますよ。精神状態が体の動きに少なからず影響してしまったような感じがします。ひとりで悩む時間も多かったと思いますし......僕は以前から、結婚を考えてもいいんじゃないかと思っているんですけどね(笑)。家庭を持つことによって気持ちが変わることもあるはずなので。

――今シーズンは開幕からサードを守っていましたが、ショートに比べて動きが少ないポジションであることが、体のキレなどに影響を及ぼすことは?

篠塚 ショートに比べてサードは打球が速いので、体を作って準備しておかなければいけません。なので、体のキレに関してはそれほど影響がないと思います。確かにショートに比べて守備範囲は狭くなりますが、反応する準備は整えておかなければいけないので。

 それと、サードはショートに比べて"打球を捕ればいい"ポジションですが、彼は捕るのがうまい。スローイングもいいですしね。捕れさえすればだいたいアウトにできる選手なので、守備に対する違和感やストレスもそれほどなかったと思います。

【解説者になったあと、坂本から受けた相談】

――今年の12月で36歳。まだまだ再起できる年齢だと思いますが、来シーズン以降に復調していくために必要なことは?

篠塚 今のプロ野球は徐々に選手寿命が長くなっていますし、「40歳までやるんだ」という気持ちがあれば、また再起する可能性はあるでしょう。それか、今年みたいな経験はおそらく初めて味わったと思うので、「もうそろそろかな......」という気持ちになってしまうのか。自分でどう思っているかでしょうね。

 来年、どういった形で阿部慎之助監督が勇人を使うのか、ということもありますが、極端に力が落ちてしまったわけではありません。そういう意味では、来年の春季キャンプなどに彼がどう取り組んでいくのかは楽しみですね。

――坂本選手と言えば安打数をはじめ、どこまで打撃の各記録を伸ばしていくかも常に注目されています。

篠塚 そうですが、今年みたいな苦い経験をすると、本人は記録をあまり意識しないと思いますよ。安打数に関してはすでに2000本を打っているわけですし。今は、自分の状態をどう上げて納得できるバッティングができるか、という気持ちのほうが強いと思います。通算で何千本だ、というよりも、シーズンを通じて打率をどう残すかじゃないですか。

――篠塚さんは現場を離れたあとも、坂本選手とバッティングについて話す機会はありましたか?

篠塚 いつだったか記憶は定かではないのですが、巨人戦の解説をする時にグラウンドに行ったら、逆方向に長打を打つための練習をしていたんです。その時に勇人が「ただ流そうというイメージで打ちにいっても、ボールをとらえられない。どうしてもこすってしまうんです」と言っていたので、「引っ張りながら逆方向へ打つ意識を持ったらどうだ」と言ったんです。元来、彼は引っ張りのバッターなので。

 僕がユニフォームを脱いでから彼にアドバイスしたのはそれくらいですよ。コーチをしていた時も、タイミングのとり方や足の上げ方、グリップやトップの位置とかワンポイントでしたね。

【「まだまだ再起できる」】

――自分で考えて動いていくタイプの坂本選手には、あまり多くの言葉はいらなかったということですね。

篠塚 そうですね。練習のやり方も若い頃からいろいろ工夫しているのがわかりましたし、言われなくても常に自分で考えていた。長くレギュラーを張っていくだろうという選手は、先輩の練習などを見ながら、それを吸収して自分の形を作っていけるんです。なので、勇人にアドバイスすることはあまりなかったですね。

――以前から篠塚さんは、坂本選手をプロ野球の歴代でも「屈指の右バッター」と評価されていますね。

篠塚 右打者で、ここまで成績を残してきたバッターはそうはいません。自分が現役だった頃やコーチ時代を含め、打っているのは左バッターが多かった。巨人でも松井秀喜を筆頭に、高橋由伸、阿部監督もそう。近年の巨人の右打者で勇人以外を挙げるとすれば、あとは長野久義ぐらいじゃないですか。

――来シーズン以降、坂本選手に期待することは?

篠塚 先ほどもお話ししましたが、今年はかつてないほど精神的に苦しかったと思うんです。でも、目の感覚の衰えなどが出ているようにも見えませんし、技術的な問題があるわけでもなく、まだまだ再起できると思うんです。なので、今年は今年でしっかりと区切りをつけて、来年は自分らしいシーズンを送ってもらいたいですし、従来の坂本勇人を見せてもらいたいですね。

【プロフィール】

篠塚和典(しのづか・かずのり)

1957年7月16日、東京都豊島区生まれ、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年に現役を引退して以降は、巨人で1995年〜2003年、2006年〜2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。