【侍ジャパン】プレミア12に挑む若き投手陣 なぜ井端監督は「一番驚かされたピッチャー」として北山亘基の名前を挙げたのか?
長身右腕の郄橋宏斗(中日)や才木浩人(阪神)、戸郷翔征(巨人)、本格派左腕の早川隆久(楽天)や今季ブレイクした井上温大(巨人)──。第3回プレミア12に向けて10月末から行なわれた宮崎合宿では、各球団の豪華投手陣がブルペンで惚れ惚れする球を投げ込んだ。
侍ジャパンに初招集された日本ハムの北山亘基 photo by Sankei Visual
そのなかで、連日キャッチャーの後方から見守った井端弘和監督が「一番驚かされたピッチャー」と明かしたのが、日本ハムの右腕・北山亘基だった。
「初日からいろんな調整法をしていました。『すげぇ』としか思っていなかったですね」
北山はブルペンに来ると、まずは少し助走をつけてハンドボールの練習球をネットに投げていく。中身はスポンジで軽く、もともと小学生が投げる感覚を養うために開発されたものだ。
北山は利き腕の右手だけでなく、左手にも同じボールを持って体のバランスをうまく取っているように見える。
「ちょっと大きめのボールなので、小手先で投げるには難しいというか。(身体)全体のつながりを感じて、練習前にエクササイズをするんですけど、それと実際のピッチングの感覚に近づけるというか。そういうイメージでやっています」
今度はブルペンのマウンドに登ると、サウスポーの位置で構えた。時計回り、反時計回りで各2回、回転して右手でボールを投じていく。
「回転したなかで、真っすぐ立つ感覚を崩さないように。回転したあと、(捕手方向へ)並進していくなかで体の四肢が広がっていく動きがあると思います。そこでの安定感というか、両側から回ってバランスを取るというか、動きのなかでしっかり広がれるようにという感じです。あとはライン出しというか、しっかり投げたい方向に体を真っすぐ広げていくイメージでやっています」
以上のメニューは「BCエクササイズ」のひとつだ。『キネティックフォーラム』の矢田修トレーナーが考案し、山本由伸(ドジャース)がオリックス時代から取り組む練習法として知られる。
山本はウエイトトレーニングをせず、やり投げやブリッジなど独特なトレーニング法で心身をつくり上げている。そのベースにあるのがBCエクササイズで、全部で300種類以上ある(詳細を知りたい人は拙著『山本由伸 常識を変える投球術』やPrime Videoの『山本由伸 独占密着:MLBへの挑戦』シーズン1エピソード2を参照)。
北山は京都産業大3年時、矢田トレーナーに出会った。山本と違うのは、プロ2年目までほかのトレーニングも併用していたことだ。プロ入り1年目のシーズンオフには、アメリカのトレーニング施設『ドライブライン』にも訪れている。
「(データ解析に基づくトレーニングが)プロの世界でベーシックになりつつある方向性になってきたなと、学生時代から感じていました。実際、プロでそういう取り組みをされている選手もたくさん見て、何をもってそうしているんだろうというのをまず見ないといけないなと思いました。自分がそれをやるにしても、やらないにしても、知ったうえでどっちか判断したいと思ったので、シアトルに行ってひととおり見させてもらいました」
ドライブラインでよく知られるのは、プライオボールと言われる重いボールを投げるトレーニングだ。ドライブラインのメソッドをリカバリーやウォーミングアップに取り入れる選手もいて、北山は「すごくシンプルで、わかりやすい」と感じた。
だが自分のこれまでの取り組みを考えると、「BCエクササイズのほうが、つながりが多いのでは」と北山は思ったという。
「ウエイトトレーニングを含め、ほかのエクササイズやトレーニングなど自分で見つけられる範囲は全部やってみて、いろいろ共通点が見えてきました。体をうまく動かして、自分の理想の動きを求めたいというのが根本にあると思います。それぞれに目指すべきところは最後、集約されてくると思うんですよ。そこに対して一番シンプルで、何の複雑性もなく、突き進んでいけるのが、今やっている取り組み(BCエクササイズ)だと思います。そこにすべてをかけてやるのが一番かなという結論に、去年なりました」
【毎朝、自分の体をチェック】北山はウエイトトレーニングに励まずとも、最速156キロの強いボールを投じる。以前、ムキムキの肉体が話題になったこともある。山本のブリッジの動画を見ればわかるが、ある意味、ウエイトトレーニングよりきついレジスタンストレーニングに取り組んでいるからだ。
毎朝、北山は球場に着いたら必ず行なうことがある。呼吸と立ち方の確認だ。
「呼吸......⁉︎」
囲み取材で記者が思わず問うと、北山は「説明したら、たぶん3時間くらいかかります」と笑った。
「どこに重心があるのか。その日の朝になって軸のズレとか重心のズレとか、いろいろあるので、それを毎日同じ動作をしてチェックする。その場で感じて、それを基にエクササイズしたりしています」
そうした取り組みの先にあるのが、現在の投球フォームだ。ノーワインドアップから左足をほとんど上げず、すり足でボールを投じる。まさに山本と同様の投げ方だ。
「力=質量×加速度」と考えると、並進運動を速くしたくて、今の投げ方をしているのだろうか。
「違いますね。並進を速くしようとはしてないですね。結果、そうなればいいという感じです」
以上の考え方は、矢田トレーナーに取材した時も指摘されたものだ。北山が続ける。
「すべてそうなんですけど、結果としてそうなるように、過程をどのように変えていくかというイメージでやっています。結果にフォーカスして『並進を速くしよう』とか、『リリースを前で離そう』っていうところだけを考えると、動きに偏りが出てしまう。結果としてそうなるためにはどこにポイントや意識を置いたり、体のどの部分をより変化させていかないといけないのかなと感じながら日々やっているので。ゴールに目的をあまり置きすぎないというか」
【キャプテンの経験が生きている】宮崎合宿中、「教授!」とあだ名を口にするファンがたくさんいた。それくらい北山の頭脳明晰は知られているが、実際に話すと驚かされた。奥深い矢田トレーナーの取り組みを感覚的に理解し、言葉で的確に表わすのだ。これほど自分の取り組みを理路整然と語る日本人プロ野球選手に初めて出会った。
「これも特訓したというか」
北山は笑みをこぼすと、自身のバックボーンを話した。京都成章高、京都産業大で野球部のキャプテンを務めたことが関係しているという。
「人に何かを伝える時、自分のなかでしっかり噛み砕いて頭のなかでまず理解できないと、たぶん人には伝わらない。人に話す前に、どう話そうかとイメージしてから話すのは学生時代にけっこう訓練されたと思います」
BCエクササイズに軸を置く一方、ウエイトトレーニングもやってみて判断するような姿勢は子どもの頃にさかのぼる。
「中学生くらいから、『全部、原因があって結果がある』という考え方が自分のなかで漠然とありました。何かをモヤモヤした状態でとっておくのが苦手で。『なんでここはこうなっているんだろう?』とか『ここがこうなっているから、こうなんだ』って突き詰めるまで、すっきりしないタイプなので。そういうところはひとつ、今も生きているのではと思います」
ちなみに、学校の勉強は「普通」だったという。
「でも授業やテストはちゃんとやってきました。地頭がいいかと言うと、全然そうじゃないと思うんですけど」
思春期から探究心が強く、論理的に思考して成長してきた。頭を鍛えたからこそ、プロ野球の世界で一目置かれる存在になった。
「本当にそれしかないと思うので。地道にコツコツ。そっちのほうはだんだんうまくなってきたんですけど、技術的なところとか野球面はまだまだ。自分の思考の仕方にまだ追いついてない部分があるので、そこはもっともっと練習して、そのギャップをなくしていかないとなって思っています」
入団1年目にオープナーの開幕投手を任され、クローザーを含め55試合に登板。2年目の途中から先発転向し、3年目の今季は14試合で5勝1敗、防御率2.31。侍ジャパンに呼ばれるほどのポテンシャルを示した。
深く考えて取り組んでいることが、いい方向に進んでいる感覚はある。
「まだまだ全然納得してないですけど、日々変化を感じます。なぜその変化をしたのかまで持っていけるように、自分と向き合って日々過ごしているので。その変化に気づけたっていうことは、また次の変化の予想もできますし。『こういうふうにやっていったらいいのかな』と漠然としたものが、自分のなかで『次はここをこうしたいな』と明確に見えてきました。そういう段階は着実に踏めていると思います」
侍ジャパンで日の丸を背負い、「エース格」と言われる郄橋や才木、戸郷にも負けないような存在感を放っている。連覇を目指すプレミア12で、先発も第二先発もリリーフもできる北山はキーマンになるはずだ。