『おむすび』写真提供=NHK

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 NHK連続テレビ小説『おむすび』で、長年糸島を離れていた主人公・結(橋本環奈)の姉・歩(仲里依紗)が、何の連絡もなしに突然米田家に帰ってきて、結や両親の聖人(北村有起哉)と愛子(麻生久美子)は戸惑う。その上、結が仲良くしているハギャレン(博多ギャル連合)を否定する酷い言い方をし、結を傷つけた歩。

参考:朝ドラ『おむすび』第19話、結(橋本環奈)がハギャレンメンバーたちの手で大変身

 かつては仲睦まじい姉妹だった歩と結だが、神戸での震災を経て、確執が生じ、関係がこじれてしまった。近年の朝ドラでも、ヒロインとその姉妹について描かれることが多々あり、物語の重要な部分を担ってきた。10年前の『花子とアン』以降の作品から、印象的だった姉妹の関係を振り返ってみたい。

 2014年度前期の『花子とアン』では、ヒロイン・はな(吉高由里子)には、かよ(黒木華)と、もも(土屋太鳳)という2人の妹がいた。山梨県甲府市の貧しい小作農家で生まれ育ったはなたちだが、父・吉平(伊原剛志)は長女のはなだけを女学校に入学させる。はなは勉学に勤しむことができたが、かよは生活のために製糸工場へ女工として働きに出て、ももは北海道に嫁ぎ、過酷な結婚生活を送る。

姉妹仲が悪かったわけではないが、心が折れるような生活を強いられる羽目になった妹2人は、やはり姉への羨ましさが募っていった。ヒロインと妹たちとの境遇の違いがあまりにも大きく、『花子とアン』は妹たちの不憫さが忘れられない朝ドラとなった。

 2016年度前期の『とと姉ちゃん』は、ヒロイン・常子(高畑充希)が、亡父・竹蔵(西島秀俊)の遺言で、父の代わりになることを託され、「家族を守る」「妹たちを嫁に出す」「家を建てる」という目標を立て、“とと姉ちゃん”として奮闘する。

 2人の妹・鞠子(相楽樹)と美子(杉咲花)、そしておっとりした母・君子(木村多江)の面倒を見続ける、父親代わりの常子。彼女は妹たちにとって、とても良い姉で、姉妹仲も良好な朝ドラという印象だったが、父の遺言は、ある種の“呪い”のように、常子を縛ることになり、目標を達成するには苦労が多く、少し気の毒に思ってしまった。

 2018年度後期の『まんぷく』では、ヒロイン・福子(安藤サクラ)は3姉妹の末っ子。2人の姉・咲(内田有紀)、克子(松下奈緒)と仲睦まじく、ほほ笑ましい姉妹関係が描かれた。咲とは10歳、克子とは8歳も年が離れている福子だが、姉たちが嫁いだ後も、それぞれの家を訪ね、悩みを相談し合っていた。

 悲しいことに、咲は早逝してしまうのだが、夢枕に立って、度々福子を励ましてくれるし、福子が戦争で家を失った際には、克子が自分の家に住まわせてくれた。全編を通して、明るい姉妹関係が印象に残った朝ドラとなった。

 2019年度後期の『スカーレット』では、ヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)は3姉妹の長女で、貧しい家計を助けるために、中学卒業後に下宿屋の女中として働くことに。4歳下の妹・直子(桜庭ななみ)は、自己中心的で反抗心が強く、家事の手伝いは大嫌いで、喜美子を困らせる。空襲時に喜美子と一緒に逃げた際、人混みで繋いでいた手が離れ、取り残された恐怖体験がトラウマとなった直子。喜美子も、その件では直子に負い目を感じ、妹のわがままな態度に強く出られない。

 反対に、8歳下の妹・百合子(福田麻由子)は、穏やかでおっとりとした性格で、成長するにつれて、喜美子の良き相談相手に。3姉妹の真ん中の直子は、やや問題児ではあるが、『スカーレット』は、基本的に仲の良い姉妹関係が描かれた朝ドラだった。

 2021年度前期の『おかえりモネ』では、ヒロイン・百音(清原果耶)と、2歳下の妹・未知(蒔田彩珠)との間の確執が描かれた。東日本大震災の際、自宅のある亀島にいなかった百音は、家族や同級生と被災経験を共有できず、何の力にもなれなかったことに苦悩を抱え続けてきたが、島を出て気象予報士を目指し、気象情報で地域の役に立てるようになろうと決意する。

 東京で、お天気キャスターとして脚光を浴びるようになった百音に対し、未知は「誰かが残んなきゃ」と地元から離れず、水産業の仕事に就こうと水産研究を始める。そして、未知は子どもの頃から亮(永瀬廉)に好意を抱いていたが、彼が心を許せる存在は百音だと知り、「何でお姉ちゃんなの」と心に痛みを抱える。

 百音にとって、妹の未知はとても大切な存在だが、姉妹の間には距離ができてしまう。未知が百音に、「お姉ちゃん、津波見てないもんね」と言った時には、観ているだけで胸が張り裂けそうになった。切ない姉妹関係が綴られた朝ドラとして、ずっと記憶に残っている。

 そのほか、2020年度前期の『エール』や、2022年度前期の『ちむどんどん』でも、ヒロインとその姉妹が描かれてきた。どちらも特に確執などはなく、良好な姉妹関係だったと記憶している。『おむすび』も、結が歩の本心を知ることで、少しでも早く仲直りできることを願うばかりだ。(文=清水久美子)