AIが設計した、あの「縄文土器みたいなロケットエンジン」の制作者が語る…「たった2週間」「エンジニア不要」で高性能ロケットを造る方法

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前編記事はこちら【「ホワイトカラー」は数年以内に用済みになる…まもなくOpenAIが手にする「人工超知能」その怖すぎる未来予想図】

まるで「火焔土器」のよう

ChatGPTなどによるビジネス効率化だけでなく、ここ最近ではAIを応用した「産業革命」の兆しも見え始めている。AIを実地の「ものづくり」に利用し、成果を上げる技術者が現れ始めたのである。

今年6月、小型のロケットエンジンが火を噴く映像がネットで話題になった。そのエンジンは縄文時代の「火焔土器」のように奇妙な、かつ洗練された形をしている。

開発したのは、ドバイを拠点とするテックベンチャー“LEAP71”。共同創業者であるリン・カイザー氏が言う。

「私たちは、AIの設計する図面にもとづいて金属3Dプリンターで成形する高性能ロケットエンジンを開発しています。通常、エンジンの開発には大勢の技術者が長期間かかりきりになりますが、このエンジン(上段右の写真)の設計から製造には2週間かかりませんでした。小型のものだけでなく、人工衛星の打ち上げに使えるような大型エンジンも開発中です」

ロケットエンジンは無数の部品を組み合わせて作るのが一般的だが、LEAP71のエンジンは全てが一体成形で強度が高い。AIが温度や剛性のシミュレーションを前もって済ませるため、何度も試作をする必要もないという。なぜ生物の内臓のような見た目をしているのかと問うと、カイザー氏はこう答えた。

「複雑な機械はゴチャゴチャしている、というのは人間の先入観にすぎません。AIはロケットエンジンの全貌を一挙に把握し、制約に囚われず芸術家のように自由な設計をするため、結果として有機的な形になるのです。

実際に、私たちが設計したエンジンの冷却機構の形は生物の毛細血管の構造とよく似ているので、同じアルゴリズムを細胞の3Dプリンティングに応用する研究にも取り組んでいます。物理学と生物学の融合も、AIの発達で進むでしょう」

「人工超知能」が実現する「超技術」

AGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)を企業が応用するようになれば、技術革新があちこちで起こり、完全自動運転や超高速通信、火星などへの星間輸送といった、技術的ハードルの多い未来のテクノロジーも早回しで実現するだろう。

一方で、AIが発達・普及するにつれ、ネックとなるのが莫大な消費電力だ。「レベル1」のChatGPTでさえ、街ひとつ分の電力を食う。「AGI・ASIはアメリカの全電力の2〜3割を消費する」との予測もある。

そこで、AI開発競争に参画する企業・組織が目をつけているのが、核融合発電の実用化だ。

アルトマンやマイクロソフトは、アメリカの核融合ベンチャー“ヘリオン・エナジー”に巨額の出資をしている。もちろん、将来AIにつぎ込む電力をまかなうためだ。

核融合は長年「夢の未来技術」と言われていたが、近年、急速に実用化の道筋が見えつつある。アメリカのベンチャーと並んで先頭を走るのが、日本の研究機関である。

岐阜県土岐市の核融合科学研究所では、世界最大の実験装置「LHD(大型ヘリカル装置)」で、核融合に必要な1億2000万度の高温を保つことに成功。さらに、日本が中心を担う世界初の実験炉「ITER(国際熱核融合実験炉)」がフランス南部に建設中で、2027年に完成予定だ。

核融合エネルギーの可能性

慶應大学理工学部元教授の岡野邦彦氏が言う。

「ITERは2034年の運転開始をめざしています。核融合発電には、1億度という超高温の冷却や燃焼時間の維持などの課題がありましたが、すでに多くはクリアされている。計画通りの出力50万キロワットを達成するのは2040年前後、そのあと実用炉が完成するのが2050年ごろと見込まれています」

核融合とは、簡単に言えば「人工の太陽」を地上で作る技術だ。通常の原発で起きている「核分裂」とは逆のプロセスで、放射性物質はほぼ出ず、事故も原理上起きないとされる。

「核融合炉は年間で数百キログラムの水素とリチウムから、現在の大型火力や原発と同じ100万キロワットの電力を生み出すことができます。

私は資源の乏しい日本こそ、核融合の実用化を加速させるべきだと考えます。ITERの次の発電実証炉を独自に作るには2兆円の予算が必要ですが、日本の石油の輸入額は年間およそ10兆円前後。それに比べれば小さな投資で安定した電力源を得られるのですから、リターンは大きいと思います」(岡野氏)

「AIマンハッタン計画」が始まる

まもなく行われる米大統領選挙に向け、トランプ陣営ではAI開発と電力確保を国策化する「AIマンハッタン計画」を検討している。大統領選の結果がどうあれ、アメリカが向こう数十年間、AI開発とエネルギー革命を国の中心に据えることは間違いない。前出のbioshok氏が言う。

「現在、OpenAIは誰でもChatGPTを他のアプリやシステムに組み込めるツールを公開していますが、近い将来、高度なAIの開発や応用はアメリカ政府の厳重な管理下におかれる可能性が高いと予想されます。

というのも、彼らは自分たち以外の勢力-つまり中国・ロシアやテロリストがAGI・ASIを手にすれば、国家、ひいては人類の存亡にかかわると本気で考え始めているのです」

アルトマンは7月の『ワシントン・ポスト』への寄稿で、中国とロシアを名指しし「アメリカ政府は悪用を防ぐため、AI開発や技術輸出を統制するべきだ」と主張した。また、6月にはOpenAI理事に陸軍大将でNSA(国家安全保障局)長官を務めたポール・ナカソネ氏が就任。急速にAIは「安全保障」の問題になりつつある。

AGI・ASIを最初に手にする国家が、圧倒的な科学力と軍事力を手にする-彼らはそう確信しているのだ。

「次の戦争はAIと、その頭脳である半導体をめぐって起きるおそれがあります。半導体の生産拠点は台湾・韓国・日本に偏っている。アメリカのAGI完成が近づいてくると、それを快く思わない国家や勢力がアジアの半導体工場を攻撃したり、輸送路の寸断を図って開発を遅らせようとするかもしれません」(同前)

福音をもたらすのか、それとも破滅をもたらすのか--いずれにせよ、AIが次の四半世紀、世界を変える原動力となることは揺るがなさそうだ。

「週刊現代」2024年10月5・12日合併号より

あと数年で「人類史上もっとも恐ろしい時代」が始まる…人工超知能(ASI)がもたらす「人類絶滅リスク」世界的研究者が語る、その「衝撃の結末」