度重なる負傷に苦しんだ昨季から一転、プレミアリーグで完全復活を遂げている日本代表MF三笘薫(ブライトン)だが、ここからは北中米W杯最終予選の大一番に全ての集中力を捧げるつもりだ。

 三笘は6日に行われたプレミアリーグ前節トッテナム戦(○3-2)で、ドリブル突破からの高精度クロスを連発し、0-2からの大逆転勝利に導いたばかり。合流初日の9日には報道陣からトッテナム戦に関する質問も向けられたが、「トッテナムも疲労があったので勝たないといけない試合だったし、そこ(勝てたこと)は良かった」と前向きに振り返りつつも、「もう日本代表に集中している。リーグ戦はその後に考えたい」と目の前の2試合だけを見据えていた。

 それもそのはず、日本代表の10月シリーズはサウジアラビア、オーストラリアとの対戦。“序盤の山場”に位置づけられる重要な強豪2連戦だ。三笘は「この2試合に勝てれば相当大きな勝ち点になる。まずはグループ2位(サウジアラビア)との対決なので、この1試合に向けて。良い準備ができれば勝てる能力はあるチームだと思うので、しっかりと準備していきたい」と力を込めた。

 10日に迫る敵地ジッダでのアウェーゲームは日本代表にとって、過去3戦全敗の鬼門。2021年のカタールW杯最終予選でも0-1で敗れ、窮地に追い込まれた過去もある。前回対戦を経験していない三笘に過度な意識はないようだが、「暑さとアウェーの雰囲気もあって、それだけ難しい場所ということだと思う」と警戒は怠らず、「試合の入り方で決まってくると思うし、いい入り方ができれば関係なくなる」と果敢に挑んでいく構えだ。

 すでにサウジアラビアの情報はスカウティング済み。「規律はあるチームだと思うし、切り替えの部分が速いところもあるけど、それをおそろかにするところもあるのでそれをしっかりと突ければ」。そう展望を口にした三笘は「自分たちの規律的なものが上回っていると思うので、チーム全員で動ければいい試合ができる」と自信ものぞかせた。

 そんな三笘は負傷からの復帰を果たした9月シリーズ以降、日本代表では3-4-2-1の左ウイングバックが定位置。サウジアラビア戦では右ウイングバックとのマッチアップが想定される。相手は攻守にバランスの良いDFスルタン・アルガンナム(アルナスル)が負傷離脱したため、より攻撃的なDFサウド・アブドゥルハミド(ローマ)が先発する見込み。三笘は「誰が来ても能力が高いと思う」と詳しい言及は避けたが、攻撃的に出てくる相手への準備はできているようだ。

「自分たちが守備をしないといけない時間が増えるけど、前に行った時の裏のケアはおろそかになると思う。ただ、そこは時間帯によってになる。もちろんずっと押し込めればいいけど、そうもいかないと思うので、しっかりと守り切るところは守り切らないといけない。失点してしまうとアウェーで難しくなると思うので、まずは守備からしっかりと考えたい」(三笘)

 そうした粘り強い守備で失点を阻むことができれば、巡ってくるチャンスを決められるクオリティーがいまの日本代表には備わっている。

 特に攻撃の中核を担う三笘は負傷が癒えた今季、プレミアリーグでゴール前に決定的なクロスを入れる場面が増加。単純なクロス本数で見ても一昨季の33試合41本、昨季の19試合44本から、今季はすでに7試合27本と大幅に増えており、そのうえ右足アウトサイドと左足インサイドのキックを巧みに使い分けつつ、異なる球種で精度の高さを見せている姿が印象的だ。

 三笘は左右のキックを使い分けてのクロスについて「これまでは左足のクロスの状況で右足のクロスを上げていた時もあったけど、どっちもできるに越したことはない」と述べつつ、「特にそんなには(意識して)やっていないけど、チームの狙いもあって、(ファビアン・ヒュルツェラー監督のもとで導入が進む)ハイラインにはそれを増やすというのもある」とその要因を指摘。その取り組みの中では「クロスの回数を増やせば増やすほど感覚も良くなる」と手応えを感じているようで、日本代表への好影響をうかがわせた。

 またそうしたクロスの脅威を日本代表の舞台でも見せるためには、9月シリーズで感じた反省も活かせるはずだ。

 三笘は9月のバーレーン戦後、現状のサイド攻撃における連係について「今日の相手だからできたところもある」と述べつつ、「僕だけじゃなくてその状況の最適解を毎回出していかないと綺麗に崩すことはできない。強い相手なら数回のチャンスになってくるので、もっともっと磨いていかないといけない」と連係の練度向上に伸びしろを見ていた。

 その解決策は今回のシリーズで模索していくことになる。「サイドで1対1で優位に立てればそれでいいし、それで難しければ中に入ってからの連係になる。それは試合中に解決できることが多くあるし、『これをしたい』というより、試合によって変えていきたい」。そうした取り組みをテストする上でも強豪2連戦は格好の舞台。チーム全体で三笘という武器を活かせるかどうかが、この2連戦を勝利するためにも、今後のレベルアップを見据えていく上でも大きな鍵になりそうだ。

(取材・文 竹内達也)