外国人バイヤーの買い付けなどにより、「ハコスカ」や「ケンメリ」、S30型「フェアレディZ」といった人気の旧車価格が高騰しています。しかし、輸入車まで視野を広げれば、手頃な価格で買え、初心者でも楽しめる旧車はまだまだあります。

国産旧車が高騰で買えないなら輸入旧車があるじゃない

 近年の世界的なクラシックカーブームの影響で、「ハコスカ」や「ケンメリ」などの愛称を持つ往年の日産「スカイライン」やS30型「フェアレディZ」、マツダ「コスモスポーツ」、いすゞ「117クーペ」などといった1960〜1970年代に生産された旧車はことごとく相場が高騰しています。これら車種は、タイミングによっては1000万円以上で取引されることも珍しくはなく、クルマ好きが気軽に手が出せなくなっているのが現状です。

 こうなると庶民が旧車を気軽に楽しむことは難しくなったようにも思われます。とはいえ、視点を少し広げてみるとまだまだ現実的な金額で購入でき、かつ初心者でも維持しやすいクルマが存在します。


国産旧車人気ナンバー1の「ハコスカ」ことC10型スカイラインは、希少なGT-Rは言うに及ばず、直列6気筒エンジンを積むGT系や直列4気筒を積むベースグレードも価格が高騰。20年前には150万円程度で買えた2000GTハードトップが今や1000万円近くで取引されている(山崎 龍撮影)。

 18歳で免許を取得して以来、国内外の様々な旧車を乗り継いできた筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)がこれから「ちょっと古いクルマ」を趣味にしたいと考えている人にオススメしたいのが、フォルクスワーゲン「ビートル(タイプI)」「ローバー・ミニ(クラシック・ミニ)」「MG-B」の3台です。

「ただでさえ故障しがちな旧車なのに、ましてや信頼性の低い輸入車を薦めるなんて……」と思われるかもしれませんが、前出の3車種は長年にわたって多くの台数が作られた長寿車であるとともに、世界中にファンのいる人気モデルです。

 しかも、気になる3車種の中古車相場は、10〜20年前に比べると上がりましたが、それでも100〜200万円程度の予算があれば、まずまずのコンディションの中古車が買えるでしょう。

 もちろん、日本と生まれた国では気候も交通環境も異なりますし、何よりも工場出荷から年月を経たクルマですから新車と同じ感覚で乗ることはできません。しかし、生産時期の比較的新しい車種を選び、定期的なメンテナンスと手入れを欠かさなければ、外車だからと恐れる必要はなく、現在でもストレスなく乗ることができます。

20世紀を代表する小型大衆車の傑作 VW「ビートル」

 では、ここからはそれぞれの車種の簡単な紹介と、購入のためのワンポイントアドバイスをしていきましょう。

 フォルクスワーゲン「ビートル」は、第二次世界大戦前の1938年に、ドイツのポルシェ博士が開発した水平対向4気筒エンジンをリアに搭載した小型大衆車です。ただ、戦争を挟んだため、本格的な生産は戦後から。ドイツでは1978年、メキシコでは2003年まで生産され続け、累計の生産台数は2152万台を超えています。


フォルクスワーゲン「ビートル」は比較的安価で楽しめる旧車ということでカスタムベースとしても人気がある。主にアメリカ西海岸流の「キャルルック」と欧州風の「ヨーロピアン」がカスタムスタイルの主流となる(山崎 龍撮影)。

 現在、中古車市場で流通しているのは1970年代のドイツ製の正規輸入車と、1990〜2003年に生産されたメキシコ製の並行輸入車が中心です。ドイツ製は右ハンドルのキャブレター車が多く、メキシコ製は左ハンドルのインジェクション車がほとんどとなります。ドイツ製には「スポルトマチック」と呼ばれるAT(オートマチック変速機)の設定もありましが、その多くがMT(マニュアル変速機)となります。どちらの車両も中心価格帯は100〜200万円程度です。

「ビートル」は生産台数が多く、世界的に人気のある車種です。日本国内にも専門店が各地にあり、部品の入手で困ることはないでしょう。またパーツ代は安価です。むしろ、購入時に注意すべきはボディの腐食で、さびの少ない個体なら維持に苦労することは低減するでしょう。なお、メキシコ製にはクーラーを備えているものが多いのですが、ドイツ製の未装着車でも40〜60万円ほどで装着できます。

日本でも人気を博したイギリス製小型大衆車「ミニ」

「クラシック・ミニ」は1959年にBMCから発表されたFF(フロントエンジン・前輪駆動)小型乗用車で、開発者はアレック・イシゴニスです。その後、生産・販売会社の名前を変えながら40年以上の長きにわたって生産が続けられました。

 日本で流通しているミニの多くが1980年代末〜1990年代に輸入されたローバー「ミニ」です。排気量は1リッターと1.3リッターのものがあり、キャブレター車のほか年式の新しいクルマであればインジェクション車も流通しています。変速機はMTとATがありました。現在の中古車相場は100〜200万円ほどで、ATの方が相場はやや安めです。


新車で買えるクラシックテイストのクルマとして1990年代に人気だったローバー「ミニ」。当時、国内にまとまった台数が輸入されたので中古市場に流通する車両も多い。かつては40〜50万円で購入できたが、徐々に中古車相場は上がっており、程度の良い個体は100〜200万円ほどで流通している(Defacto CC BY-SA 2.5、via Wikimedia Commons)。

「ビートル」と同様に「ミニ」も専門店が全国にあり、パーツの入手性・価格ともに良好です。購入時に注意すべきポイントはボディの腐食のほか、足回りのヘタリです。「ミニ」は一般的なコイルバネの代わりに「ラバーコーン」と呼ばれるお椀型のゴムをサスペンションに使用しています。

 これは3〜4年でヘタって車体が前下がりとなり、放置していると下回りをぶつけるので定期交換が必要です。また、電装系が弱いため、点火不良や加速不良を起こすことがあります。こういった理由から「ミニ」の中古車は専門店での購入が望ましく、手に入れた車両に不具合が生じた場合は、一度専門店でチェックしてもらうと良いでしょう。

入門用スポーツカーとして今も愛される「MG-B」

「MG-B」は1962〜1980年まで製造されたイギリス製のオープンスポーツカーです。コンベンショナルなFR(フロントエンジン・後輪駆動)レイアウトに、信頼性の高い1.8リッターエンジンを搭載することから、スポーツカーの入門用として世界的な人気車種となっています。

 現在、中古車市場で流通しているのは後期型の「ウレタンバンパー」と呼ばれるモデルで、これをベースにメッキグリル&バンパーの前期型にカスタムした「コンバージョンモデル」も存在します。中古車相場はここ数年で高騰しており、中心価格帯は150〜300万円程度です。


スポーツカーの入門用、あるいは初心者向けの旧車として世界的に人気のある「MG-B」。国内外にパーツは豊富にあり、オリジナルパーツにこだわらなければアフターパーツで新車が組めるほど。少し前まで後期型の「ウレタンバンパー」なら100万円前後で購入できたが、ここ1〜2年で相場は高騰しており、程度の良い個体を買うには200万円程度が必要。今後も値上がりが予想されるので、欲しい人はお早めに!(Rundvald CC BY-SA 4.0、via Wikimedia Commons)。

 購入時に注意すべき点はミニと同じくボディの腐食と電装系です。イギリス車の専門店は全国にあり、パーツの価格は安価で、入手もしやすいので、旧車初心者でも維持するうえで苦労が少ない、おススメ車種といえるでしょう。

 前述したこれら3車種は、国内にまとまった台数が輸入されたこともあって、旧車ブームの現在でもまだまだ現実的な金額で購入が可能です。おまけに構造はシンプルで、維持するのに必要なパーツは現在でも生産されているほか、全国に専門店があるので、維持・補修が比較的容易で、パーツの入手に四苦八苦する国産旧車を買うよりも維持しやすいのです。

 それでいて冒頭に記したように、100〜200万円程度の予算があれば、まずまずのコンディションの中古車が買えるというのは、大きなメリットです。旧車をあまり負担なく所有したいと思っている人こそ、これら3車種のオーナーに是非なってみてください。もしかしたら、日々の生活に彩を与えてくれるかもしれません。