自衛隊員が不正に食事を取ったということで処分が続いている。国民には「せめて腹一杯」という同情が広がるが、自衛隊から見ると事情が違うようだ(写真・Bloomberg)

自衛隊で給食に関する処分が続いている。対象外の隊員が勝手に食事した、1食分を超える量を食べた話である。

その反応には官民で温度差がある。国民は「腹一杯に食べさせるべきだ」と不正を行った隊員に同情的である。対照的に自衛隊員の目は厳しい。処分されるのも当然と見ている。なぜ、自衛隊員は不正喫食に対して厳しい態度をとるのだろうか。

それは、実は擁護する余地もないからだ。第1には、さもしさしかない無銭飲食だからである。第2には、度を超したドケチだからである。第3は、注意してもぬかにくぎの常習犯だからだ。

「衣食住は全部タダ」ではない

自衛隊では3食支給なのだろうか。それは間違いである。無料の給食は基地の中で暮らす兵隊や若い下士官限定だ。過半数の隊員は自弁である。

士官と事務官、技官は食事は自分持ちである。無料給食はない。また基地の外での居住が許された上級下士官や、結婚した下士官と兵隊も無料給食の対象外だ。艦船乗り組みや学生入校中といった例外はあるが、基本はそうなっている。

これは住居も同じだ。基地の中に住んでいる未婚の兵隊と若手下士官だけが、無料にすぎない。それ以外、つまり基地の外に住むものは自分持ちになる。借家への家賃補助も、半額未満の金額が出るくらいである。

事情は違うが衣服も無料とは言いがたい。一応は官品の貸与支給があるが、品質から不人気だ。サイズが大雑把すぎるワイシャツ、向こうが透けて見えるほど薄い靴下、蒸れる革靴……。使わない、あるいは最初からもらわない例が多い。

中でも制服は顕著だ。士官は慣行で私物を着る。だから官品は肌にも当てない。下士官も偉くなると私物を作る。私物は着心地がよいだけではなく、洗濯機で洗えるうえにアイロンの掛かりもよい。お仕着せを着るのは兵隊や若手下士官だけだ。

よって、自衛隊員は必ずしも衣食住タダではない。無料となるのは、ほぼ兵隊と若手下士官だけである。

しかし、国民はそれを知らない。自衛隊も隊員を募集する際には「衣食住タダ」と宣伝している。だから自衛隊員は全員がタダと信じ込んでいる。

そのため不正喫食の人事処分を行うと、国民は誤解する。処分された隊員は、無料給食の対象者ではない。さらに、食数不正も無料給食の隊員がやったことではない。ましてや、若手隊員が空腹に耐えかねて2食分や3食分を食べたわけでもない。

ただ、それを国民の大多数は知らないので、そうした自衛隊員に同情するのだ。対して、自衛隊員は本当のことを知っている。だから人事処分は当然とみなすのだ。

無銭飲食だから処分は当然

第1に、不正喫食は「故意の無銭飲食」となる。本来は申請したうえで有料の食事となる。それにもかかわらず、図々しく給食を食べている自衛隊員が存在する。だから自衛隊員は同情の余地はないと考える。

では、自衛隊で無銭飲食がなぜ可能なのか。簡単だ。中ではいっさいチェックしないためだ。下士官兵の食堂では、無料喫食と有料喫食を分けていない。チェックはあっても服装がだらしないかどうか、それも小うるさい自衛隊の学校限定だ。

士官食堂ではチェックはありえない。そもそも士官は不正をしないことになっている。現場の給養員も、下士官兵なので士官のチェックはできない。

無銭飲食者はそれを利用する。素知らぬ顔で給食を食べるのである。当人はライフ・ハックだと心得ている。自衛隊は要領がすべてだ。うまく立ち回って損をせずに、得だけ取るのが正解なのである。そして、「自分は要領よくやっている」と認識している。

そんな隊員が、周りを誘う。「有料給食なんか申請しないでよい。紛れて食べればわからない」と。なお、給食に限らないが、悪事に誘い込む対象は、たいていは目下の若年者である。自分が泥棒をしている自覚がある。そのやましさから仲間を作ろうとするのだろう。

覚えている限りでは、筆者も2回ほど誘われた。1回は数歳上の若手士官から、もう1回は10歳以上も年上のパワハラ士官からだった。断るとどちらも怒り出し、放置しておくと、それからは筆者を愚か者扱いした。無銭飲食は賢い行為だと思っているのだろう。

なお、本人が無銭飲食なのはみんな知っている。各部隊は有料給食者を把握している。申請の事務も兵隊や下士官の持ち回りでやっている。「有料給食を申請していないのに、いつも食堂に入っていく」と部隊の間でうわさになるものなのだ。

ただ、自衛隊はそんな隊員を見逃してきた。確実に証明できる被害額は3000円や5000円にしかならない無銭飲食者でも懲戒処分するのはたいへんである。証拠集めや処分の手続き、損害賠償の手間がかかるから放置してきたのだ。

それについて、本来の規則通りに処分するようにしただけだ。処分される理由がある隊員が処分されているにすぎない。だから、隊員は驚かないし同情もしないのである。

あまりにも見苦しい「ドケチ」さ

第2に、食数の不正はなぜドケチとなるのか。これには有料給食を申請しているが数量を守らない例や、食堂からアイスやプリンを2つも3つも持ち帰るといったケースであり、そんなことをやらかす輩はすべてケチンボ。

こちらも隊員はそれを知っている。だから処分は意外とはしないのである。

なぜ、食数の不正をするのか。若者がお腹が空いているからではない。自衛隊の給食の量が少ないということはない。もともとが高カロリーの献立である。だから、事務作業や軽作業に従事する者は標準量を取っても太る。そのうえ、主食のご飯や汁物は盛り放題だ。

そもそも、若者を見れば周囲が「おまえ、食べろ」と寄ってたかって食わせる。勝手に「本人は遠慮している」と解釈して、シャモジやオタマを奪ってでも大盛りにもする。大柄な兵隊を見れば今で言う「富士山盛り」のようにして、「うまそうに食え」という。

一人一品も例外ではない。中年隊員は、健康問題からエビフライのような揚げ物を敬遠する。そして余る。だから給養員は、若者には「2個持っていけ」という。あるいは、当の中年隊員の後ろが若者なら、知り合いでなくともトングで渡す。

士官でもそうだ。若者には食わせる。筆者も30年前にはその恩恵にあずかっていた。

江田島(広島県)の海上自衛隊幹部候補生学校では、カレーは2回、3回のおかわりがOKだった。幹事付という指導役は、「士官なのに見苦しい」と形だけ若者を叱るが、それだけである。

ただ、現場の給養員は「俺がいいと言っている、食え」だった。幹事付も裏では笑っていた。彼も若いときは、怒られながらおかわりをしていたのだ。

夜食の天そばも2杯、3杯だった。退役寸前の練習艦「かとり」では夜食が出たが、「余ってるから2杯食ってけ」と言われていた。たぶん、最初から「候補生は腹が減ってるはず」と多めに用意していたのだろう。

遠洋航海でも隙あらば食わせにきた。当時はできたばかりの練習艦「かとり」の給養員は、ステーキやトンカツをお皿に2枚載せてきた。最後には牛肉入りの味噌汁まで出てきた。実習士官は若手の下士官兵と同じ扱いにしていた。

40〜50代のケチンボ隊員

では、誰がなぜ不正喫食をするのか。40代、50代のケチンボ隊員らだ。実際に処分されている年齢も、そのあたりの隊員である。

当然だが空腹ではない。高級中級の士官か先任下士官なので現業はしない。いつも冷暖房が効いた事務室で、パソコンを叩いている。肉体労働で腹が減ることはない。

不正はだいたい単身赴任者がやる。官舎で明日の朝に食べるパンや寝る前に食べるプリンについて、帰りに買い物をせずに済ませたい、お金を払わずに入手したい。そのような理由で余計な数を持っていく。

しかも、人の迷惑も顧みない。給食列の最初に並んでいて複数持って行く。そうなると最後尾の隊員にまで足りなくなることが起きる。だから処分の対象になるのだ。

第3は、常習犯だからである。ドケチは図々しいので何度も繰り返す。だから隊員は同情しない。

果たして、1度や2度の無銭飲食で自衛隊は人事処分をするものだろうか。人生で1度、1人に1つの水羊羹を2つ取ったからと、身内を処分するものだろうか。

さすがに、そのようなことはない。そんな隊員はもはや常態化しているから、注意しても聞かない。だから処分となるのだ。

図々しいからこそ、「現場で怒られないから、自分の行為は認められている」と自分のいいように解釈している。そもそも無銭飲食も不正喫食も、まともな神経を持っているならやらない行為なのだ。

ただ、怒られないのは当然である。現場の下士官兵が、士官や先任下士官に文句は言えないことは前に述べたとおりである。士官の給養班長もいるが、大勢の前で相手の体面をつぶすようなことは言えないものだ。目に余ったとしても、内々に叱る。遠回しに、人目につかないように注意する。

筆者は「タッパー士官」の例をよく覚えている。給食の最後の方に来て、余ったおかずをタッパーに詰めて持ち帰るという高級士官だ。同じ基地の違う部隊で、筆者と仕事は同じ。しかも人となりはよく知っている。

本人は必ずしもケチンボではなかった。タダのものなら何でもほしがるという、貧乏くさいタイプだった。

そこで、給養班長が別件を口実に筆者の事務室に来た。そして世間話をしたうえで「お願いだから注意してくれ」と切り出した。同部隊で同階級だが、定年間近で神様のような人が、大学を出たばかりの筆者に頭を下げるという形をとっている。

しかも、部下の人数分のアイス、余った航空加給食までお土産で持ってきた。断る立場でもないし、断れるわけもない。

おそらくはこんなやりとりだったと思う。「士官全体の体面の問題」「下士官兵は何も言えない」「私もオーラを出しているけど止めてくれない」「違う部隊だから言いにくい」「アナタは先生と親しいからそれとなくね」「これも若いうちの経験だよ」といったあたりである。

注意してもぬかにくぎ、そして処分へ

結局は、先方の准尉さんに再委託した。実質的には若造士官の何倍もエライから、高級幹部に諫言できる。先生とも20年や30年の人間関係なので何でも言える。「みっともないからおよしなさい」「内々で注意してもらえるうちだよ」程度は言ったのだろう。以降はその話はなくなった。

人事処分となるのは、それでも聞かない隊員である。さらに上司の注意もぬかにくぎとなった場合だ。

上からの注意はとくに穏やかになる。処分対象は40代や50代の隊長や科長であり、叱る側も50代の司令や副長である。声を荒らげて怒るのもバカバカしい。「ヤメてね」と軽く諭すくらいだ。どこの会社や役所でもそうだろう。

処分隊員はそれを都合よく解釈する。元々が図々しいので「たいして怒られなかったから続けても大丈夫」と考えて悪事を続ける。結局、処分される。

自衛隊にはこのような事情がある。人事処分される理由があるからこそ、問題児が処分されて、それを公表したという話にすぎない。

だから、国民が同情するにはまったく値しない。保守派や保守派のシンパの人たちのような自衛隊応援団が言うように、「国は自衛隊員にご飯も満足に食べさせていない」わけではないし、「処分される自衛隊員がかわいそう」と考えるのも誤りなのだ。

(文谷 数重 : 軍事ライター)