Z世代の新卒社会人が、管理職について思うこととは(写真:horiphoto/PIXTA)

若者と接する場面では、「なぜそんな行動をとるのか」「なぜそんな受け取り方をするのか」など理解しがたいことが多々起きる。

企業組織を研究する東京大学の舟津昌平氏は、新刊『Z世代化する社会』の中で、それは単に若者が悪いとかおかしいという問題ではなく、もっと違う原因――たとえば入社までを過ごす学校の在り方、就活や会社をはじめとするビジネスの在り方、そして社会の在り方が影響した結果であると主張する。

本記事では、著者の舟津昌平氏がZ世代の新卒社会人3名に対して、世で語られるZ世代像へのリアルな意見を聞いていく(3名は仮名、敬称略)。

入社前と入社後のギャップ

舟津:今回の座談会のテーマは、世の中で「Z世代ってこうだよね」と語られていることについて、実際のところ当事者はどう思っているのかということです。年齢の定義上ではみなさんZ世代とされていますが、当たっていることもあれば、ひとくくりにされたくないと思うこともきっとあると思うので、正直な気持ちを聞かせてください。


まずは、みなさんが今年の4月から働き始めたということで、入社前のイメージと入社後のリアルとの差について教えていただけますか。

崎山:僕は、正直なところほとんど差はありませんでした。その要因として、事前に社員の方と話せたのが大きかったと思います。選考中ではありましたが、人事部につないでいただくようにお願いしたので、そこで実態を伺うことができました。

たとえば、表向きには自分のやりたいことができるって言われているけど、最初の数年はそんなことはないよと。なので、たしかに今は自分がやりたかった業務をやっているわけではありませんが、そういうものだと納得しています。

舟津:それは崎山さんの積極性のたまものだとは思いますが、それに応えてくれる会社の制度や社員の方がいてよかったですね。おそらく、その方が本音を話してくれたから崎山さんが納得できているところが大いにある。そういう文脈で、「Z世代はなかなか本音を話せ(さ)ない」と言われることがありますが、就活でも仕事でも、どれくらい本音を話せていましたか。

察することを求められる社会

木下:私は本音を話さなくて後悔していることがあります。新人研修の後半で人事部との面談があったんですが、強がって「楽しくやれてます」って答えたんですね。人事の方は「配属先には関係ないよ」って言ってたんですが、今になってやっぱり関係していたんだと思います。というもの、今の部署が、社内では大変、忙しいとされる部署で、ちゃんと本音で話せてたら、自分にもっと合った部署に行けてたのかなと後悔しています。

舟津:あるあるだとは思いますけど、難しいですよね。そもそも選考に関係ないのであれば別に聞く必要がない。ただ配属に関係あると言ってしまったら裏読みしちゃうし、「言質」をとってしまうから、あえてそうじゃないと言っていると。

鳥羽和久さんと対談したときに出た話として、今の社会って裏読みを求める社会ですよねと。「口には出していないけど、本当はこう思ってるんでしょ」をひたすら察するように求められる。木下さんのお話はすごく象徴的です。ただ、本当に本音しか喋らないとそれはそれで会社的にも困るので、裏読みも必要なことではあるんですよね。確かめられないのが難しいところです。田川さんは、いかがですか。

田川:まず、入社前と後のギャップは制度についてはなかったです。リモートワークができて、残業代がついて、土日祝日は休みでっていう。ただ、木下さんと同じように、断トツで忙しいぐらいの部署に配属されてしまって、取引先に出向くこともありますし、残業も多いというギャップはありましたね。

研修中に人事面談もありましたが、たしかに同期の間でも裏の読み合いがあって、あまり本音は話せませんでした。結局のところ、入社前から部署は決まっていたという噂もありますし。

舟津:お話を聞いていると「配属ガチャ」という言葉が流行るのも、なんとなく理解できます。つまり、配属というのは不透明なルールの中で運用されているゲームなのに「公平ですよ感」を出そうとするから、運だって言わないとやってられないところがあるのかなと。本質は、理不尽な不透明さのほうにあるのかもしれませんね。「会社が勝手に決めてます」とか「あなたの意思とか知りません」って言ったほうがわかりやすいし、納得できるということすらあるかもしれない。

ただ見方を変えると、中途半端だとしてもみなさんの希望を聞こうとしているという点においては、会社側が気を遣っているとも言えますね。実際、ここ最近は若手に対して気遣う傾向が強まっているように思いますが、いかがでしょうか。

会社側に気を遣われていると感じるか

田川:それはすごく感じます。実は、もらったばかりの社用PCを電車の中に置き忘れてしまったことがあって。まだ初期設定もしてなかったので、何とかお客さんに迷惑はかからなかったんですけど。時代が違えば一発アウトくらいのことを起こしたのに、部長や局長も「次から気をつけようね」とすごくやさしく注意されるだけで、逆に申し訳なかったです。

舟津:たしかにそれって、いわゆる始末書であったり、ものすごく怒られそうなことかもしれないけど、怒られないと。かなり気を遣われていることを示す事例ではありますね。崎山さんはいかがですか。

崎山:そうですね。僕も気を遣われているというか、警戒されているのはすごく感じます。たとえば、研修期間中は日報を書く必要があって、チューターからフィードバックがあるんですが、「この言い回し、きつくないかな?」と聞かれたんです。

あと、部長と話す機会があって、「本当は飲みに誘いたい。でも、今の時代は言えないから誘ってほしい」と言われました。僕としては、誘われることは嬉しいんですが、かなり警戒されているなとは思います。

木下:私もめちゃくちゃ気を遣われていると思います。私は本当に仕事ができなくて困っているんですけど、「しょうがないね」で済んでいるというか、全然怒られないです。ただ、私は打たれ弱い部分があると思っているので、いざ怒られると、嫌だなとは思います。

舟津:なるほど。たしかに大事に扱われているし、きつく当たられるのは嫌ではあるから、それはそれでいいかなという気もしてると。他のお二方は今の状況をどう思われますか。

田川:僕はありがたいと感じています。ただ、怒ってくださるのも愛じゃないですか。怒るほうも体力を使いますし、きれいごとでなく、怒られなくなるのは怖いです。会社にもちゃんと怒ってくれる人がいるので、その方の存在は大きいと思っています。

崎山:僕も怒られないのは、本音としてはありがたいですね。間違いなく楽ではあります。ただ、怒られることで自分の成長につながるところがあるとも思っています。無理に今の状況が変わってほしいとは思わないですけど、楽なほうに流れてしまう怖さはありますね。

舟津:怒られることも必要だと思っているということですね。ただ、先日とある弁護士の方と話した際に聞いたのですけど、「そんなことではハラスメントにならない」と思うような案件は確実に増えているそうです。そのように「火のない所に」となってしまってはいますし、ただ現実的に問題になる案件は絶対数としてはかなり少ないはずなんですけど、確率はゼロじゃないから、会社や上司からすればやっぱりびびってしまうんですね。

逆にみなさんの中で、これは完全にハラスメントだとか、ラインを超えていると思うようなことってありましたか。

自分たちより怒られていない世代への恐怖

田川:質問への正確な答えではないんですけど、「これがラインを超えた扱いになるのか」とびっくりしたことがありました。高校1年生の弟が通っている学校で、居眠りしている生徒の机を先生が蹴ったそうです。それがすごく問題になって、親からも先生にクレームの電話が入ったそうで。正直僕としては、そんなことで騒ぐか、と思ったんですが、弟も「ありえなくない?」という言い方で、すごくギャップを感じました。

舟津:そうか。新社会人の田川さんと高1の弟さんの間にすら、もうギャップがあるんですね。

田川:全然違うと思いますね。

舟津:私も本の中で、怒られない社会になると怒られることへの耐性がなくなってしまうということを書いたんですが、それがますます進んでいる印象を受けますね。木下さんはいかがですか。

木下:私もハラスメントの場面を目撃したことはないんですけど、田川さんと同じように「それで大騒ぎになるの!?」ってびっくりしたことがあって。

中学生時代の話で、私にとって当時所属していたバスケ部の先生はすごく厳しい人で。作戦板を投げたりすることもありました。ただ、私が卒業してから数年後になぜか坊主にしてるっていう噂が流れて、なんでだろうと思ったら、親から「厳しすぎる」と言われて、反省の意を示すために坊主にしたそうです。私が言うのもなんですけど、そんな環境で大人になったらどうなっちゃうのかなって思っちゃいますね。

田川:そんな子たちが部下として入ってきたら、難しくないですか(笑)。

木下:たしかにそうですね(笑)。

田川:僕ら世代を部下に持つ今の上司も難しいだろうなって思いますが、それ以上にその子たちの先輩になったときにはもっと難しいんだろうなって思いますね。

舟津:それいい目線ですね。早くも自分が上司や先輩になったときに、怖いなと実はZ世代も思っていると(皆、笑)。崎山さんはいかがですか。

崎山:そうですね。僕は今の会社でハラスメントは一切ないです。最後にハラスメントとされるものを見たとしたら、10年前の野球部に所属していた中学時代のことで。当時の顧問はやっぱり厳しかったので、ミスすると胸ぐらを掴んだり、手が出るって場面もありました。でも、今もたまに中学校のグラウンドを見に行くことがありますが、今は全然そんなことなさそうですね。少なくとも自分たちと同じ指導はされてないとは思います。

舟津:なるほどね。話を聞いている限りは、保護者さんが介入しているのがポイントのように思います。鳥羽さんとの対談でも出た話で、はっきり言って子どもってすごく動物的なんですよね。好き放題するので、旧来的には動物的な対応で解決していた。つまり、教育現場の先生って、あえて子どもと同じレベルに落として、子どもの対応で接するのが最善だったんですよ。動物的な子どもたちに対して100%の大人の対応をするのって、おそらく無理なので。でも、保護者さんが間に入ると、子どもに対して大人のコミュニケーションしか取れなくなってしまう。そうなると、必然的にみなさんのお話のような変化が起きますね。

それで、今のお話につなげて深掘りたいのですが、みなさん管理職になりたいと思いますか。いまや「罰ゲーム化する管理職」と言われることもありますが、上司や先輩を見てどう感じていますか。

「罰ゲーム化する管理職」に思うこと

田川:管理職なりてえ、とは思わないですね(笑)。やっぱり、われわれよりも怒られない環境で育ってきた子たちをまとめるのは苦労するだろうなと思います。それに、管理職の方たちを見ていると夜の11時とかでも平気でメールが返ってくるので、大変だろうなと。

舟津:たしかに、それは社会人あるあるかもしれないね。すごい時間にメールが返ってくることありますから。崎山さんは、どうですか。

崎山:本心はちょっとやってみたい気持ちはあります。上司を見ていると、人の面倒を見たり、タスクを管理したり、全体を俯瞰して見る力がすごくあって、そこがかっこいいなと思います。だから、挑戦してみたいなという気持ちが半分。もう半分はやっぱり大変そうだなとも思って、そこには葛藤がありますね。

舟津:管理職へのネガティブな印象として、「大変そう」が上位にくるんですね。

崎山:そうですね。上と下の板挟みみたいな。

木下:私も管理職になるのは嫌だなと思いますけど、一番の理由は責任を負いたくないからですね。それこそ机を蹴ったら一発退場じゃないですけど、管理職の責任が大きすぎるように思っています。できれば、陰で働くのがいいです。

舟津:なるほど。でも、責任は大事なワードですね。全体的な時代の流れとしては「責任を負いたくない」っていう人は増えている気がしていて。その理由の1つはおっしゃるように、責任が大きすぎる。正確には、責任に対して対価が見合ってないんですよね。だったら、陰がいいっていうのは自然な発想に思います。

ブラック企業は消えたように見えるだけ

田川:入社前と入社後のギャップで言ったら、そこが一番大きなギャップかもしれません。世の中的にはブラック企業を排除する風潮はありますけど、実際に働いている人は余裕で定時を超えて働いていて。ブラックってなくなったわけじゃなかったんだなって。

舟津:あ、そうなんですよ。これもよくある話で、管理職は雇っている側扱いなので、労働組合に加入できない(しない)ケースもあります。「罰ゲーム化する管理職」の背景には、組合員の部下は守るけど、管理職は働かせ放題だ、という慣習があるとも思います。さまざまな意味で誤りを含む慣習だと思いますが。

田川さんのいい表現だなって思ったのは、いかにも世の中からブラック企業は消えましたよ、みたいな顔をしつつ、無茶している人はいるじゃないかと。しかも、それはまさに管理職じゃないかということに、4月から働いている人が薄々気づいてしまっている。これがまさに「Z世代化する社会」の背景だなと思いますね。

では、次回はSNSと友だちとの付き合い方について伺っていけたらと思います。

(10月3日公開の第2回に続く) 

(舟津 昌平 : 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師)