ビズリーチを運営するビジョナルの南壮一郎社長(記者撮影)

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オフィス街の地下鉄駅ホームに貼られた、ビズリーチ「社長の本気」シリーズのCMポスター。“ビズリーチ姉さん”に並び、大企業の社長らがおなじみのポーズで登場(編集部撮影)

「ビズリーーチ!」

カメラ目線で人差し指を立てる、“ビズリーチ姉さん”のCMで知られるビズリーチ。ハイクラス人材向けの転職サイトを展開し、即戦力人材と企業をつなぐプラットフォームを運営する。

最新のCMとして「社長の本気篇」を放映中だ。アサヒグループ、JFEスチール、第一生命、NEC、野村ホールディングスといった名だたる大企業の社長がCMに出演し、「中途採用に本気」というメッセージを訴える。これら企業はビズリーチのクライアントで、サイト上に掲載された求人情報の中には「年収1000万円超え」がズラリと並ぶ。

ビズリーチを運営するビジョナルの末藤梨紗子CFOは、このCMについて「求職者からは『こういった会社の仕事があるのか』という反応、企業側からは『こうした会社が使っているのか』とお問い合わせをいただくという形で、反響を多くいただいている。日本企業は大手を含めて中途採用に積極的に取り組もうとする機運がある」と手応えを語る。

スカウト可能会員数は258万人

CMの反響を裏付けるように、ビジョナルの業績も好調だ。9月12日に発表した前2024年7月期は、売上高が661.4億円(前期比17.5%増)、営業利益が178.3億円(同34.9%増)と大幅な増収増益で着地した。収益の大部分を占めるHR Techのビズリーチ事業が牽引役となっている。

ビズリーチのビジネスモデルはプラットフォームであり、直接の人材紹介は行っていない。採用企業や求人情報を保有するヘッドハンターからのスカウトメールに対し、求職者が応募するダイレクトリクルーティングサイトとなっている。

管理職、グローバル人材、専門職といったスカウト可能会員数は258万人以上、採用企業は3万1700社、ヘッドハンターは7800人(すべて2024年7月末現在)に上る。やり取りは求職者と企業、ヘッドハンターの間で完結する。


ビズリーチの収益源は、企業とヘッドハンターからのプラットフォーム利用料、採用に至った場合の成功報酬、全機能が使える有料プランに登録している求職者からの月額利用料となっている。

雇用の流動化やジョブ型雇用の導入などを背景に、中途採用におけるハイクラス人材の需要は堅調に伸びている。高度専門人材を求める動きは活発で、2023年は年収1000万円以上の転職決定者数は3年前と比べ3.2倍、年収1000万円以上の求人は2.8倍に増えた(いずれもビズリーチでの数、決定者数はヘッドハンター経由での転職は除く)。

ビズリーチは2009年の創業当初からハイクラス人材に特化、ダイレクトリクルーティングという手法で唯一無二のポジションを確立してきた。競合となる人材紹介サービスもハイクラス領域を強化しているが、今のところビズリーチの脅威となるライバルは現れていない。

サービス向上へ積極投資

旺盛な即戦力人材の転職・獲得ニーズを取り込んで成長を続けてきたが、クライアントは中小・中堅企業が中心だった。しかし、この1〜2年で大企業の利用も増えてきた。


アプリ画面にはおすすめのハイクラス求人情報が掲載(写真:ビジョナル)

成長を支えるのが、サービス向上への投資だ。2023年7月には、求職者向けに生成AIを活用したレジュメ(職務経歴書)自動作成機能を提供。採用企業向けには、同11月に求人自動作成機能の提供を始めた。

適切なレジュメ、求人票の作成がわからないという悩みに対応することで使い勝手を向上。実際に、レジュメ自動作成機能によりスカウト受信数は4割増えたという。

引き続きビズリーチでは日本企業の採用意欲が続くと見ており「スタートアップなど黒字化を目指す企業は厳選採用の傾向もあるが、外資系企業の一部は採用を再開するなど、緩やかながらも回復基調が見られる」(末藤CFO)。今2025年7月期も高い成長を見込み、営業利益率4割を維持する計画だ。

営業利益の成長率は1桁にとどまるが、これには2つの要因がある。1つは営業やエンジニアなどの採用強化、一部職種の給与水準引き上げといった人件費の増加、そしてオフィスの増床および再編・集約費用(10億円)を見込む。

2つ目は、ビズリーチに次ぐ柱として育成中のHRMOS(ハーモス)事業のプロモーション強化だ。ビズリーチが社外人材採用のためのプラットフォームだとすると、ハーモスは社内人材登用のためのプラットフォームとなっている。

ハーモスには従業員のデータベースを基盤として、採用管理や目標・評価管理、勤怠管理といったさまざまなサービス・機能がある。今年7月には給与計算機能をそなえた「HRMOS労務給与」も提供。人事業務支援と従業員情報を一元化・可視化し、データに基づく人財活用を実現するサービスを目指している。

ハーモス事業では、今下期に「社内版ビズリーチ」の本格提供も予定する。ビズリーチで培ったノウハウを生かし、生成AIを使った社員のレジュメ作成、企業内のポジション要件を作成する。これを社内でのタレント検索や社内公募に生かし、企業内の最適配置の実現を目指している。仮に社内人材で充足できないポジションがあれば、ビズリーチで外部から採用するといったシナジーも見込める。

転職からキャリア全般の支援へ


南壮一郎社長は1976年生まれ。アメリカ・タフツ大学卒業後にモルガン・スタンレー証券入社。東北楽天ゴールデンイーグルスの設立に携わった後、2009年に起業した。写真は昨年12月にプライム市場へ移行した際の会見時(記者撮影)

ビジョナルの南壮一郎社長は決算説明会で「転職市場のデータプラットフォームと、人材活用のタレントマネジメントプラットフォームの両方を提供しているのはわれわれだけ。これを圧倒的な競争優位性として生かし、企業の人的資本経営における課題解決に生かしていきたい」と意気込んだ。

ハーモスの前期は約10億円の営業赤字だった。今期は積極的なプロモーションにより前期同水準の赤字想定で費用先行が続くが、2026年7月期に黒字化を計画する。売上高の87.5%をビズリーチ事業が占める中、転職以外の場面でも人材管理や登用の支援ができれば収益源が広がる。

「転職の会社」から「キャリア全般を支援する会社」に変貌していけるのか。社内版ビズリーチ構想が具現化する今期は、その成否を占う意味でも重要な1年となりそうだ。

(常盤 有未 : 東洋経済 記者)