「年収400万円、奨学金の返済もあるし生活するだけで精一杯で、老後資金なんてとても貯められません。」それでも、将来のために貯金は必要ですか?

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年収400万円のAさんは現在奨学金を返済中です。物価も上がっているし、生活するだけで精一杯。「若いうちから老後資金を貯めておこう」という話を見聞きしますが、貯金できるほど生活に余裕がないのに、それでも将来のために貯金をしなければないないのかと疑問に感じているそうです。 老後資金はいくら必要なのか、無理のない額でも貯金できる仕組みはないのか、FPがアドバイスします。

現状の収支バランスを確認する

「生活するだけで精一杯なのに、老後資金を今から準備する必要はあるのか?」というご質問です。今回はまず“現状を把握”し、その上で“将来設計を考える”という順番で整理したいと思います。
 

<現状を把握>

奨学金を返還している人は多いのですが、実は思うように返還できないケースもあります。そのような中、Aさんは順調に返還できているのですから優秀です。
参考までに奨学金の返還に関する資料は図表1のとおりです。奨学金を借り入れた時は、卒業したら順風満帆と思っていたかもしれませんが、“人生山あり谷あり”なので完済までは油断は禁物です。
(図表1)


毎月決まった収入でやり繰りを考える時、優先すべきは借り入れの返済です。返済できないからといって他から新たな借金をしてしまうと、雪だるま式に借金が増えてしまうことは誰もが知るところです。
返済が難しくなったら、借入先に相談することが良策です。返済方法の変更等、返済計画についてのアドバイスも受けられる場合があります。
一方、奨学金は全額または一部を繰上げ返還できます。第二種奨学金の場合は繰上げ期間の利子はかかりませんので、返還総額は当初の予定金額よりも少なくなります。余裕ができたら、繰上げ返還を利用するのも一案です。借入残高を減らすこことで完済の時期も早まりますので、精神的にも楽になると思います。
奨学金の借入残高を確認する → 家計の収支バランスを見直す → 将来設計を考える」
この順番に作業を進めるとスムーズです。
 

老後資金の準備より優先するもの

前段で「“人生山あり谷あり”想定外のことが起きるかもしれない」と書きました。その時に備えて、生活費の3ヶ月~半年分を生活防衛資金として貯めておくことがお勧めです。これは“もしも”に備えるものですから、いつでもすぐに引き出せる預貯金で準備します。
使うことがないほうが望ましい資金ですが、安心材料として確保してください。病気になった時や仕事がうまくいかなかった時など、お金の心配が重くのしかかります。備えがあれば、解決の選択肢が広がるかもしれません。
奨学金の返済や生活防衛資金の貯金などを軸にして、毎月の家計収支バランスが整えば、いよいよ長期スパンで将来設計を考えます。
 

<将来設計を考える>

「“楽しく生活しているので、将来も何とかなるさ”と50代を迎えたら、急に“老後資金は2000万円必要”と言われてビックリ、今から2000万円を貯めるなんて無理」
かつて老後2000万円問題が騒がれた頃、巷にあふれていた意見です。「若いうちから老後資金を貯めておこう」という真意は、手遅れにならないための警告にあります。
単純に考えても2000万円を貯めるのに、20年間の猶予があれば年間100万円ですが、10年間で準備するのなら年間200万円も必要です。さらにもし40年間という時間があれば、年間50万円で達成します。このように時間を味方につける効果は大きいのです。
 

まとめ

老後資金というと、リタイアした後のイメージです。ですがAさんには、それ以外にも将来の夢があるのではないでしょうか。物価高で生活費も上昇しています。「奨学金の返還に加えて老後資金の準備? そんなことをしていたら自分の楽しみは、いつも後回しになってしまう。勉強だってしたいのに……」そんな声が聞こえてきそうです。
もちろん、「老後資金は何とかなるさ」というつもりはありません。欲しいモノ、やりたいコトを整理して、自分にとっての優先順位を考えてみてください。すべてを手中に収めるのは無理ですが、諦めるのは早計です。老後資金を準備することに重点を置いて、やりたいコトを諦めることのないように、ライフプランを描くことから始めてみてください。
奨学金の返還が終了したら、これまで返還に充てていた金額を“やりたいコト用資金”と“老後資金”に振り分けて管理するのが得策です。資金を可視化することで貯蓄のモチベーションを維持できます。少額ずつでも継続することが肝要です。
 

出典

独立行政法人日本学生支援機構 令和3年度 奨学金の返還者に関する属性調査結果
執筆者:宮粼真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士