『虎に翼』もクライマックス「朝ドラ主題歌」ランキング、4位はいきものがかり、3位は椎名林檎…1位は?

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第1回:「あんな気持ち悪い奴、好きなのか?」と言われ…35年前の夏「サザン以来の衝撃」でポップスを変えた「エグい音楽家

第2回:あのタモリが「発禁アルバム」をリリース…マニアが絶賛する「お茶の間の顔」の「知られざる一面」

20年、40曲をランキングに

NHK春の朝ドラ『虎に翼』がいよいよ最終週を迎える。

ドラマの内容の豊潤さもさることながら、内容とがっちりリンクした主題歌・米津玄師『さよーならまたいつか!』とタイトルバックが効いている。

そして佐田寅子(伊藤沙莉)を中心としたダンスを毎朝見ながら、思うーーこれまでの朝ドラには、どんな曲が使われてきたのだっけか?

そこで、2004年春の『天花』(ヒロイン:藤澤恵麻)以降、ここ20年間全40作の朝ドラ主題歌(と主題歌のバックに流れる映像=タイトルバック)を、音楽評論家として勝手に徹底分析し、ランキングする。

なお、本連載は、基本音楽に関するものなので、ドラマ自体の評価とは、極力切り離して考えることとしたい。

カノン進行がとても多い

その前に、朝ドラ主題歌界、20年間の全体傾向を一言でいえば「Jポップ化」である。Jポップ化する朝ドラ、言い換えれば「A(朝ドラ)ポップ」だ。かつてのようにインストゥルメンタルではなく、そのときそのときの旬なJポップ音楽家によるタイアップ曲を使うことが常態化したのである。

契機となったのは『ひらり』(92年、ヒロイン:石田ひかり)の主題歌=DREAMS COME TRUE『晴れたらいいね』が68.5万枚の大ヒットとなったことだ。その後、松任谷由実『春よ、来い』(94年)が116.4万枚というミリオンヒットとなり「Aポップ」が確立する。

では、そんな、この20年間の「Aポップ」の音楽性に、何か特徴はあったのか。この原稿のために、全曲あらためて通して聴き直したのだが、気付いたのは「カノン進行」がとても多いということだ。

「カノン進行」とは「C→Em(G)→Am→Em(G、C)」というコード進行で、具体的には、90年代の大ヒット曲(の一部)で使われた進行である。

KAN 『愛は勝つ』(90年)

槇原敬之『どんなときも。』(91年)

大事MANブラザーズバンド『それが大事』(91年)

ZARD『負けないで』(93年)

岡本真夜『TOMORROW』(95年)

つまりはいかにもJポップという感じの、清潔にして荘厳・前向きな感じのコード進行だ。さらにいえばJポップで使われ過ぎた結果、「無難」という感じすら与える。カウントしたら40曲中12曲、実に30%が「朝ドラカノン」だった。

代表は、いきものがかり『ありがとう』(『ゲゲゲの女房』10年)の「♪まぶしい朝に 苦笑いしてさ〜」や、AKB48『365日の紙飛行機』(『あさが来た』15年)の「♪人生は紙飛行機 願い乗せて 飛んで行くよ〜」あたり。

国民的コンテンツである朝ドラとして、好き嫌いの分かれそうな強い味付けを避け、無難な感じを志向する傾向がありそうだ。

太陽の塔がタイトルバックの「名脇役」

以上長くなったが、今回は、そんな「Aポップあるある」を音楽的に突破した主題歌を中心にランキングを作成してみる。まずは4〜10位までを一挙公開。

10位:中島みゆき『麦の唄』(『マッサン』14年)【北海道賞】

NHKオンデマンドで見ていて、あらためて中島みゆきの個性的な歌声、ドラマのテーマ=ウイスキー作りの原料である麦にフォーカスした歌詞、麦畑が延々と広がるタイトルバックに感心した。

中島みゆきがドラマ後半の舞台となる北海道出身ということで、タイトルバックもいよいよ胸に迫ってくる。というわけで『麦の唄』には【北海道賞】を差し上げたい。

9位:中納良恵・さかいゆう・趣里『ハッピー☆ブギ』(『ブギウギ』23年)【リスペクト賞】

こちらは記憶に新しい。祖父である服部良一の音楽性を見事に再現し、作曲・編曲だけでなく作詞まで手掛けた服部隆之の腕前に【リスペクト賞】を差し上げよう。

「再現」と書いたが、単なるコピーではなく、しっかりと現代風のアレンジを施し、毎朝聴いても、まったく飽きなかった。

スズ子(趣里)が劇中で披露した、意外なほど達者な歌声が大いに話題となったが(『大空の弟』を歌った回は朝ドラ史に残る)、中納良恵の、まるでソースを二度漬けした串カツのような濃厚な歌声には、天下の中島みゆきに張るものがあった。

8位:Fayray『ひとりよりふたり』(『芋たこなんきん』06年)【スタイリッシュ賞】

2年前に再放送されていたので、こちらも記憶に新しい人が多いかもしれない。藤山直美主演、いかにもNHK大阪制作という感じだった『芋たこなんきん』の主題歌。

個人的には好きな作品で、当時「完走」した記憶があるが、『ひとりよりふたり』を改めて聴きなおして、そのスタイリッシュな出来に驚いた。調べたら、コード進行自体は実にシンプルなのだが、Fayrayの歌声と優美なメロディ、アレンジで一気に聴かせる。

余談だが、朝ドラのタイトルバックには、太陽の塔がよく出てくる。『芋たこなんきん』に続いて、『ちりとてちん』(07年)、『ゲゲゲの女房』(10年)、『カムカムエヴリバディ』(21年)に登場。朝ドラ界の隠れた名脇役といっていい。

『ありがとう』は4位に

7位:宇多田ヒカル『花束を君に』(『とと姉ちゃん』16年)【ヘヴィー賞】

楽曲単体としては、今回取り上げる中で抜群なものだし、個人的に聴いた回数もナンバーワンとなる。

驚くのは、宇多田ヒカルが、13年に自死した母親・藤圭子のことを歌ったと言われているヘヴィーな内容の曲が、朝ドラの主題歌として、毎朝流れていたという事実である。これは、どちらかといえば無難な歌詞とメロディを志向する「Aポップ」の中で異彩を放つ。

16年は、春に『とと姉ちゃん』を見てこのヘヴィーな曲に驚き、秋に発売された宇多田ヒカルの傑作アルバム『Fantome』のヘヴィーさにも驚いた年だった。

6位:あいみょん『愛の花』(『らんまん』23年)【シンプル賞】

あらためて聴き直して、コードも確認して目を見張った。とにかくシンプル。ほとんど主要三和音(キーのB♭に、E♭、F)しか出てこないのだ。大げさにいえば「朝ドラカノン」に対する挑戦状のようにも受け取れた。

そしてアコースティックな三拍子のサウンドとなると、これはもう初期の吉田拓郎へのオマージュといえるだろう。その意味では【シンプル賞】に加えて、「令和の吉田拓郎賞」も差し上げたい。とにかく一周回って、非常に斬新な「Aポップ」となった。

5位:星野源『アイデア』(『半分、青い。』18年)【タイトルバック賞】

個人的には「完走」出来なかった作品だったので、今一度タイトルバックを見て、驚きつつ見入ってしまった。風景にイラストを重ねて、新しい世界を描き出す映像と、歌詞のテーマ「アイデア」が見事にリンクしているではないか。

そして星野源の楽曲も快調。16年に『恋』、17年に『Family Song』、そして18年にこの曲だから、完璧にゾーンに入っている。

4位:いきものがかり『ありがとう』(『ゲゲゲの女房』10年)【歌い出し賞】

放送時間が15分早まって午前8時からになったことや、内容の斬新性、視聴率の上昇など、あらゆる意味で朝ドラの転換点となった作品。

『ありがとう』で注目するのは、歌いだし「♪ありがとう〜」の音列が「♪ドレミファソ〜」になっていることだ。何といっても、音楽の授業で、何回も聴かされる・弾かされるあのドレミファソなのだ。

いきものがかり吉岡聖恵のペタッとした声質も相まって、異常に人懐っこい歌い出しになっている。このことも高視聴率を支えた要因の1つではなかったか。

3位は『カーネーション』、2位は『まれ』に

さてここで、ベスト3に入る前に、主題歌(主演)以外の音楽も振り返っておきたい。この20年間のMVPは薬師丸ひろ子。『あまちゃん』(13年)、鈴鹿ひろ美としての『潮騒のメモリー』、そして『エール』(20年)で焼け跡の中、ア・カペラで歌った賛美歌『うるわしの白百合』が忘れられない。準MVPは『ごちそうさん』(13年)における希子(高畑充希)の『焼氷の歌』。

ではベスト3へ。

3位:椎名林檎『カーネーション』(『カーネーション』11年)【プログレ賞】

「朝ドラを超えた朝ドラ」と絶賛された『カーネーション』の主題歌。ドラマ自体の評価としても、個人的には、この20年間での最高傑作朝ドラとも思うので、そのあたりが加勢したかもしれないが、少なくとも「Aポップあるある」を大きく逸脱する楽曲の音楽性にも卓越したものがある。

クラシカルなイントロ(シベリウスの交響曲第2番4楽章を想起させる)に始まり、椎名林檎の吐息混じりの声、そして3拍子で進むも、月曜日に流れるロングバージョンのBメロでは、何と4拍子(8分の12拍子)にリズムが変わる(おまけに転調もする)。

このBメロで驚くのが、最後の「♪生きようー」のラストでボーカルの音程が上ずることだ。しかし、さらに驚くのが、そんな音程の上ずりがまったく違和感を抱かせず、むしろ椎名林檎的世界がさらに強固になるところ。

少なくとも「Aポップ」という言葉が、まったく似つかわしくない。「ロック」も違う。これはもう「プログレ」ではないか。

2位:澤野弘之作曲『希空〜まれぞら〜』(『まれ』15年)【転調賞】

こちらも「完走」出来なかったのだが、主題歌単体でいえば、この高いクオリティは推すべきだと冷静に考え、2位とした。またこの曲と1位は「Aポップ」=「旬のJポップ音楽家によるタイアップ曲」ではないという挑戦性も考慮してみた。

ユニゾン(斉唱)のコーラスによって、目が覚めるような力強いメロディが歌われるのだが、効果抜群なのが「♪風が〜」のところで使われている大胆な転調だ。

具体的にはキーがE♭から全音上がってFになる。この「全音上げ転調」は取り立ててトリッキーなものではないのだが、逆に、機械的かつ無理筋な転調合戦になっているJポップに対して、「これが正しい転調の使い方だぞ」と異議申し立てしている気のするものだった。

さる8月31日〜9月1日の日本テレビ『24時間テレビ』において、土屋太鳳が出演し、この曲を歌った。『希空〜まれぞら〜』の真価が広がるのは、これからなのかもしれない。

なお「完走」出来なかった理由を書くスペースがなくなったので、木俣冬の快著『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)にあった、このフレーズで代用させていただく――「人生なめ過ぎな主人公」。

文句なしの1位は『あまちゃん』に

1位:大友良英作曲『あまちゃん オープニングテーマ』(『あまちゃん』13年)【グランプリ】

1位=【グランプリ】は個人的には文句なし。そして同様の評価をする朝ドラファンも多いではないか。

なので、理由を簡潔にいえば、この曲を聴くだけで、ドラマの中のあれこれ、天野アキ(能年玲奈=のん)や天野春子(小泉今日子)、天野夏(宮本信子)、そして足立ユイ(橋本愛)らの躍動が、脳内に沸き立ってくるからである。

やはりインストゥルメンタルということが効いていると思う。歌詞と歌が入った「Aポップ」は、どうしてもその音楽家の作品になるが、インストゥルメンタルだったことが奏功して、ファンが公的に共有するファン作品、つまり一種のパブリックドメインになった気がする。

そしてこの曲はイントロだ。何といっても『ありがとう』の「♪ドレミファソ」を超えて「♪ドレミファソラシド」!

――というわけで、以上ランキングを勝手に作ってみた。ぜひ。朝ドラファンの皆さまも、ランキングを作って楽しんでいただきたい。そして、『虎に翼』の米津玄師は何位に入るだろう。それを考えるのもまた楽しい。では、さよーならまたいつか!

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