高橋文哉&田中圭

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 テレビドラマ『先生を消す方程式。』で生徒と教師として共演してから4年――。高橋文哉と田中圭の再共演が実現したのが、人気ドラマ『ブラッシュアップライフ』を手掛けた水野格監督がオリジナル脚本を書き下ろした映画『あの人が消えた』だ。今度は配送会社の先輩と後輩役と距離が縮まり、前回の敵対関係とは打って変わって軽妙な掛け合いで魅せる。高橋と田中の演技論にフォーカスし、本作に対する芝居面のアプローチを中心に語ってもらった。

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■『ゴチになります!』先輩&後輩トーク

――高橋さん、田中さんは共に「映画」「連続ドラマ」「バラエティ」等々を経験されています。メディアの違いによってテンション等の出力をどう変えていますか?

高橋:僕も圭さんの方法論、ぜひ聞きたいです。

田中:僕は全然違います。それぞれ撮り方が違うので、環境の違いによって必然的に変わるイメージです。ただお芝居を変えたりはしていません。文哉くんもそうだよね?

高橋:そうですね。僕も全部違うつもりではいますが、お芝居は一緒です。

田中:本作のプロモーションでバラエティ番組にもたくさん出演したと思うけど、バラエティに関してはどう?

高橋:バラエティ番組に関して言うと、やっぱり『ゴチになります!』をレギュラーでやらせていただいていることが大きいです。それまではどこか構えていましたが、「構えない方が面白くなることが多いんだな」と気づき、それからは「自分の持っているものを全部その日に出し切る」くらいのテンションになりました。また、僕は元々バラエティを見ることが好きな子どもだったので、子どもの頃から持っている感覚をそのまま投入しています。実際にやってみて、もっとバラエティが好きになりました。

田中:確かに『ゴチになります!』は大きい存在だよね。僕は『ゴチになります!』や、番宣も含めてバラエティに出る機会がこれまで多くて、最初は「何か面白いことをしなきゃ」と思っていましたが、芸人さんをお相手に面白いことなんて無理!と諦めました(笑)。かといって「僕は、俳優です」と全面的に出すタイプでもないので、最終的に「自分が楽しければいいんだ」という風に切り替えました。

――それこそ、実際にやってみないと分からないものでもありますよね。

高橋:確かにそうですね。それは僕らのお仕事すべてに言えることかもしれません。

■“人によって芝居を変える” 高橋文哉が挑戦した新境地

――『あの人が消えた』の現場においても、お二人それぞれが事前に抱いていたイメージと異なる部分を現場で調整していったと伺いました。そういった意味では予想外の作品でしたか?

高橋:そう思います。現場で何を言われても全部吸収して全部表せるように、自分も役も柔軟な状態で臨んでいました。「丸子がこういう役だからこうしよう」というような、確固たるものを持ちすぎないようにしていました。

田中:水野監督が脚本も書かれていますし、現場の雰囲気や演出、完成作を拝見しても監督の味付けや、やりたいことが詰め込まれているように感じました。台本を読んだときは、シーンにおいても現場の雰囲気においても、想像できるシチュエーションが無限にありすぎて実際に参加するまでどんな現場か分かりませんでしたし、どういうシーンになるかも分かりませんでした。詰め込まれているのに、ものすごく振り幅がある“自由に演じられる”本でした。僕の役もそうですが、皆さんも多分どう演じてもいいくらい、制約があるようでない作品でした。

高橋:確かに、幅広いですね。

田中:その中で水野監督が、とても丁寧に皆さんにポイントを提示して、演出をつけていくんです。そのため個人的な感覚としては「まんまとしてやられた!」と感じました。

高橋:どう表現するのか、いくらでもやりようがあるなと思いました。丸子を演じるうえでは、マンションを回りながらその一つ一つに柔軟に対応していくなかで人物像が出てくれば、と考えていました。クランクインの日も、様々な住人の部屋の前でチャイムを押して、いろいろな人と話したり電話したり走ったり――この作品の中で、丸子は最も多くの人と関わる人物です。様々な人に流されながらも自分なりの正解を見つけていくような人間性を出せたらと思いつつ、個性豊かな皆さんとご一緒していました。

――高橋さんの初日は、袴田吉彦さんとの共演だったそうですね。

高橋:はい。ご一緒して「パワーがあるな。これは負けるな!」と思いました(笑)。

田中:袴田さんはパワフルだよね。

高橋:袴田さんが演じる沼田への丸子としての印象も、お芝居に生かしていきました。例えば、沼田の家のチャイムを押すときは一瞬「ふぅっ」と息をついて覚悟を決めてからやってみたり、坂井真紀さんが演じるおしゃべりな住人・長谷部の前ではいつも通りフラットに接しつつ、次の配達に遅れないようにちらちら時計を見るアクションを足してみたり…。そうした細かいところを一つ一つ試して、人によってお芝居を変えるのは初めての感覚で、楽しかったです。

■田中圭、予想外の現場の緊張感にタジタジ!?

田中:そもそものストーリーが二転三転どころではなく何転もしていて、それぞれのキャラクターが個性豊か。それでいていろいろな面を持っているので、丸子に相対する役を演じた方たちは「どう演じるか」と悩んだのではと思います。分かりやすく言うと、普段は今みたいなトーンで話しているけど、“実は悪い人だった”となったときに急に声を低くして言葉遣いも悪くなったり、声のトーン一つ取っても選択肢が無数にありました。

また、演じるうえで僕が悩んだのは、心のベースラインをどうするか。例えば日常生活においても、いいことがあったり体調がよかったりしたら気持ちが上がって、疲れがたまっていたら下がって…と、心の状態によって相手に与える印象は変わると思います。となると、演じるうえで「普段はこれくらい」という基準値を設定する必要がある。ですが、荒川においては端的にいえば“ボケの人”なのか“ツッコミの人”なのかによっても全く変わってきて、現場に入るまで「どうしようか」と迷っていました。

そして現場に入ったら、僕が台本を読んで感じていたコメディ感は無く、思っていた以上に緊張感のある空気感でした。

高橋:ちょうど圭さんが参加されたときは、“和気あいあい!”みたいな感じではなかったですね(笑)。

田中:そう(笑)。このテンションで臨んだらおかしなことになるぞと思い、現場を見て即行で変えました。低いテンションも違うし、じゃあどうしようかな、と探っていくなかで水野監督が導いてくださりあの形に落ち着きました。

(取材・文:SYO 写真:高野広美)

 映画『あの人が消えた』は全国公開中。