「不満」は改善の種です(写真:shimi/PIXTA)

「考えるための方法」が整理されると一気に思考が活性化する――。

伊右衛門、プレモル、PlayStationといった国民的商品の広告を多く手がけてきたクリエイター・小西利行さんがあらゆる「仕事の壁」を突破するために使っているのが「考えるための方法=思考ツール」です。

小西さんの35年間の仕事の中で編み出した100の思考ツールが紹介されている『すごい思考ツール 壁を突破するための〈100の方程式〉』から一部を抜粋し、3回にわたってお届けします。

「不満ビンゴ」9つのマスですべての「不」を洗い出せ

アイデアを考えることは、不満を楽しむこと

僕に言わせれば、アイデアの源泉は「不満」である。日本では不満を言うことは美徳ではないが、アイデアを生むためには不満に着目し、不満を楽しむぐらいのほうが良いと思っている。

ちなみに僕は日頃から「不」という文字を意識しているが、それは「不」という言葉がついているものはすべてアイデアの種だからだ。不満はもちろん、不安、不潔、不快、不便、不吉、不可能、不公平……。これらに注目してみると、身の回りにいかにたくさんの解決すべき課題が隠れているかわかるだろう。

「不」はすなわち改善の種。そのすべてにアイデアが必要となる。さらに言うと、「不」は人の心をマイナスに揺さぶっているものだから、解決されれば大きなプラスの心の動きが生まれ、人に言いたい!という衝動も生まれるので、「売れる」「流行る」ことにつながっていくわけだ。

だから皆さんにも楽しんで「不」を探してほしいのだけれど、いざ探そうとしても見つけづらかったりする。そこでまずは「不」の一部である「不満」だけに注目して、身の回り半径5mの不満を見つけるのをおすすめしたい。それだけでも十分にアイデアの種は見つかると思う。

以前、連続起業家で友人でもある孫泰蔵さんに話を聞いたとき、兄である孫正義さんの日頃のルーティンを教えてもらった。それは、毎日不満をノートに書き込み、その解決アイデアを発明すること。

孫正義さんといえば、音声付き電子翻訳機を思いつき、それをシャープに売ったことで最初のビジネスの原資を得た話は有名だが、それがこの不満を起点にした「発明ルーティン」から生まれたのだと思うと嬉しくなった。

しかも、あれだけのビジネスを経営している今になってもなおその習慣を続けているという。ビジネスの巨人になってすら不満を見つける感度を研ぎ澄ませておくのは大切だということだ。

条件のいい時ほど、不満ビンゴで検証

僕は、仕事にとりかかる前にいつも不満と向き合うことにしている。あるスキーリゾートのブランディングを依頼された時もそうだった。今、ニセコに代表されるように日本のスキーリゾートは活況だし、世界中から投資のお金が集まるから前途洋々だ。ただそうなると打ち合わせの話もみんな前向きの意見が多くなり、浮足立ったアイデアばかりになって本質的な解決ができなくなってしまう。

正直、金、モノ、人をただ集めるだけでは10年で飽きられてしまう可能性がある。もっと本質的な観点で人(命)の欲求に近い開発をすべきだし、そうするためには今、人が心の底で思っている(思っていなくても存在する)不満を解決するように動くべきだ。

だから上記の仕事の時も、僕は9つの不満から考え始めた。「不満ビンゴ」と名づけたその9つのマス目は、アイデア開発の準備運動としてよく使うもので、人の心に眠っている課題を掘り起こすには最適の思考ツールだからだ。原理は簡単で、図のように「私の不満、まわりの不満、社会の不満」×「機能の不満、機会の不満、気分の不満」をそれぞれ考えるだけだ。


(画像:『すごい思考ツール 壁を突破するための〈100の方程式〉』より)

例えば今のスキーリゾートにある「私の不満×機能の不満」なら「レンタルスキーウエアがださい」「家族で遊ぶところがない」といくらでも挙げられるし、「まわりの不満×機会の不満」なら「学生にはリフト券が高すぎる」「英語がスタッフに通じていない」、「社会の不満×気分の不満」となると、ニセコのように「海外の企業がメインで開発しているが日本は大丈夫か?」「地価が上がっても地域の人に還元されない」などが出る。

どれを解決すべきなのかは、開発主体が地元企業なのか外資系企業なのか自治体なのかでも変わってくるが、まずはこの「不満ビンゴ」で「不」を洗い出すと、すべての不満が見える化され、本質的に解決しなければならないアイデアの方向性がクリアに見えてくる。

不満ビンゴはアイデアの準備運動に最適。

眠っている課題を掘り起こし、俯瞰して見よう。

不満は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ

不満のフィールドワークに出よう。街には、新商品・新サービスの種が眠っている

ビジネスと不満の関係について、もう少し深掘りしてみよう。まずはいま手元にあるスマホの画面を見てほしい。僕の画面には例えばGoogle やNetflix やSuica やLINE、ニュースやお天気アプリなどが並んでいるが、それらを「不」という視点で見てみると、そのどれもが「不満」や「不便」から生まれていることがわかる。

部屋を見回しても、通勤途中の街を見回しても、「不」を解決したアイデアで溢れていることがわかるだろう。「不」というメガネをかけて街を見ると、不とビジネスの関係がいかに深いかに驚くと思うし、そんな視点で今の自分の仕事をチェックするだけでも、違う風景が見えてくるはずだ。

ある飲料メーカーにこの話をしたところ、早速やってみようということになり、チームでコンビニに出向き、飲料の棚を見ながらいろんな「不」を洗い出してみた。

すると、たった10分ぐらいで出るわ出るわ……コロナ禍だったこともあり、取っ手が不潔とか商品が少ないなどの不便から、文字が小さいから見にくい、冷蔵の棚が曇るなどの不満までさまざま。一番多いのは、欲しい商品がない、容量が大きくて重すぎるなどの機能面の不満だった。

その後チームで街を歩き、飲む場所への不便や自販機への不満を集め、さらに大きな社会の不満も拾い集め、それらを不満ビンゴ(図参照)の9つの枠で整理した。

机上で考えず、現場で不満を拾うことから始める。僕たちはこの「不満のフィールドワーク」を通じてまさに「不満は現場で起こってるんだ」と実感し、これこそがリアルに求められている開発だと認識した。

「不満」を言うときは「アイデア」をセットで

さて、ここまで話しても、不満をベースに開発するのに抵抗がある企業や人がいるのも事実。前述のように、日本は「不満」を毛嫌いする文化があり、不満を言う人を避ける傾向がある。

社外取締役をやっている友人が「世の中の不満や社内の不備をまっ先に指摘する役割なのに、それを言うと煙たがられてしまう」と嘆くほどだから、社員が「不満」を言うなどご法度な空気なわけである。


だが、不満は大切な未来の種なのだから言うほうがいい。そこでおすすめなのは「不満を言ったら同時にアイデアを言う」こと。セットにすると、意外なほど議論が前向きになりビジネスのファインディングス(気づき)も生まれやすくなる。

さらにみんな「ここが問題だけどこうすればいい」という解決話が好きだから「あの人は面白い話をする」と言われるようにもなる。これは嬉しい副産物だ。

実は中学生向けの「アイデア講座」で、「不満+アイデア」で話すようにすすめたら、みんながとても笑顔になりクリエイティブになったこともある。まさに教育にも応用できる思考ツールなのだ。

「不満+アイデア」のセットで話せば、ビジネスは加速し、「面白い人」と呼ばれる。

(小西 利行 : POOL inc.Founder、コピーライター、クリエイティブ・ディレクター)