2型糖尿病患者の「肝細胞がん」発症リスク低下、糖尿病治療薬の新たな可能性が明らかに
中国の香港大学らの研究グループは、「2型糖尿病患者における肝細胞がんの新規発症リスクに対して、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の予防効果を検討したところ、DPP-4阻害薬群と比べてSGLT2阻害薬群で肝細胞がん発症リスクが有意に低かった」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。
≫【イラスト解説】「肝細胞がん」を疑う4つの症状とは監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
研究グループが発表した内容とは?
中国の香港大学らの研究グループが発表した内容を教えてください。
中路先生
今回発表された内容は、中国の香港大学らの研究グループによるもので、研究結果は学術誌「Journal of the National Comprehensive Cancer Network」に掲載されています。
研究グループは、香港の医療データベースから2015年1月1日~2020年12月31日にSGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を1週間以上投与された18歳以上の2型糖尿病患者を対象に研究を実施しました。24万269人/年の追跡期間で、肝細胞がんの新規発症は166例でした。内訳はDPP-4阻害薬群で130例、SGLT2阻害薬群で36例でした。
この結果を解析したところ、1000人/年あたりの肝細胞がん新規発症率は、DPP-4阻害薬群で1.10、SGLT2阻害薬群で0.29でした。また、がん関連死は、DPP-4阻害薬群で5.91でしたがSGLT2阻害薬群では1.06となりました。全死亡では、DPP-4阻害薬群で23.59、SGLT2阻害薬群では4.98となりました。いずれの場合も1000人/年あたりの発生率がSGLT2阻害薬群で低いことがわかりました。
研究グループは「DPP-4阻害薬と比べてSGLT2阻害薬は、肝硬変または進行した肝線維化、B型肝炎ウイルス(HBV)感染、C型肝炎ウイルス(HCV)感染の合併有無にかかわらず2型糖尿病患者における肝細胞がんの新規発症リスクを低下させた」と結論づけています。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
中国の香港大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
中路先生
「糖尿病と肝細胞がん」の関連は、以前より指摘されていました。今回の中国のグループの研究は、「糖尿病治療薬と肝細胞がん」との関連を調べた研究として、大変興味深い研究と思われます。ただし、今回の研究は後ろ向きの研究であり、本当の因果関係は不明であることと、あくまで2剤の比較検討であるため、「SGLT2阻害薬を用いることで肝細胞がんが予防できる」「DPP-4阻害薬を用いることで肝細胞がんになりやすくなる」などの捉え方はすべきではありません。実臨床では、腎保護効果などの様々なエビデンスの蓄積によってSGLT2阻害薬が多く用いられるようになっているので、この分野での研究が今後も進んでいくことを期待します。
SGLT2阻害薬に関する別の注目研究は?
今回はDPP-4阻害薬群と比べてSGLT2阻害薬群で肝細胞がん発症リスクが有意に低かったことが示されました。SGLT2阻害薬について、ほかにも興味深い研究はあるのでしょうか?
中路先生
例えば、順天堂大学らの研究グループが学術誌「Nature Aging」に掲載した論文では、「SGLT2阻害薬の投与によって、加齢に伴い蓄積される老化細胞を除去する効果が確認できた」と発表しました。肥満状態になったマウスに対して短期間のSGLT2阻害薬の投与をおこなったところ、内臓脂肪に蓄積した老化細胞が除去されるとともに内臓脂肪の炎症も改善し、糖代謝異常やインスリン抵抗性の改善がみられました。また、SGLT2阻害薬の投与によって、加齢に伴うフレイルの改善や早老症マウスの寿命の延長なども観察することができました。
まとめ
中国の香港大学らの研究グループは、「2型糖尿病患者における肝細胞がんの新規発症リスクに対して、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の予防効果を検討したところ、DPP-4阻害薬群と比べてSGLT2阻害薬群で肝細胞がん発症リスクが有意に低かった」と発表しました。研究グループは、SGLT2阻害薬の使用と肝細胞がんのリスク低下との因果関係については、「今後、ランダム化比較試験で確認する必要がある」としています。
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