鬼龍院翔

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 ゴールデンボンバーが現在『ゴールデンボンバー「金爆はどう生きるか」~意外ともう結成20周年ツアー~』を開催している。今回、ツアー真っ只中の鬼龍院翔にインタビューをする機会を得た。

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 先日SNSでも話題を呼んだ広島・山口公演の宣伝用TVCMの狙いから岡崎体育・ヤバイTシャツ屋さんのライブ宣伝方法について、そして結成20周年を迎えて新たに思う「普通よりも“変”でいたい」という実感まで、じっくり1時間にわたって近況を語ってくれた。

■岡崎体育くんは「チケットの売れ行きがよくない」という逆境を乗り越えた

ーー現在、全国ツアー『ゴールデンボンバー「金爆はどう生きるか」~意外ともう結成20周年ツアー~』真っ只中ですが、ツアーといえば広島・山口公演の宣伝用に制作したTVCMが大きな話題になっていました。地方ローカルCM風と言っていいのでしょうか、絶妙な手作り感が印象に残る映像でした。

鬼龍院翔(以下、鬼龍院):ロックバンドのライブのCMって「全国ツアー! 熱狂のライブ! お問い合わせは〇〇へ!」みたいなものが多いじゃないですか。だから、その逆を行こうと。なので、「地方公演だからローカルCM風」という意図はなくて、ライブの告知なのに落ち着いた雰囲気の映像だったら目立つんじゃないか、という思惑でした。

ーーそうだったんですね。

鬼龍院:印象に残ってくれるのであれば、どのように受け止めてもらっても構わないと僕は思っていて。とにかく人がやらないことをやりたいので、「変だな」と思ってくれたらそれでいいんです(笑)。

ーー実際にその戦略は成功していますし、これまでもゴールデンボンバーはトリッキーな手法で宣伝をしている印象があります。また、その一方で5月11日に配信された『泥船放送室』(ニコニコ動画で配信されている鬼龍院翔個人のチャンネル)で、鬼龍院さんは「宣伝はアーティストの仕事ではない」ともおっしゃっていました。

鬼龍院:本来アーティストは(宣伝の)専門家ではありませんから。僕や、あるいは岡崎体育くんだったりヤバイTシャツ屋さんだったりは、長く活動を続けていて、おふざけというか、コミカルなことをやるというイメージを一般的にも持たれていると思うんです。こんなこと言うと失礼かもしれないけど、体育くんだったら「チケットが売れていない状況でも、きっと面白いことをしてくれそう」という気がしちゃうんですよ。

ーーこれまでの活動で培ったイメージやキャラクターがありますからね。

鬼龍院:でも、そういったキャラクターではないアーティストさんだったり、もし新人だったりすると、「突然必死になってるけど大丈夫?」と思われると思うんですよ。宣伝が得意ではないアーティストはそこに頭を使うよりも、いい音楽を作ることに時間を割いたほうがいい。場合によってはアーティストとしての魅力も失いかねないですしね。諸刃の剣でもあるので、こういったやり方は、これまでの表現のなかに笑いがあった人の特権といえるかもしれません。

ーーとはいえ、コミカルなタイプのアーティストでも、今後ツアーや大きなライブごとに「チケット買ってください!」となると?

鬼龍院:「毎年これができる」とは誰も考えてないですよ。僕はもちろん、他のアーティストさんもそう考えているはず。万が一、来年のチケットの売れ行きがよくなかったとしても、まったく同じ手は使わないと思います。有名になる人は、いろんなアイデアで逆境を乗り越える力があるんですよ。だから、体育くんは「チケットの売れ行きがよくない」という逆境を乗り越えたわけですから、もし仮に来年似た状況になったとしても、来年はまた別のやり方を編み出すと思います。

ーーゴールデンボンバーのネタは、時事ネタからネットミームまでさまざまな要素が盛り込まれています。鬼龍院さんは普段からどんな情報をチェックしているのでしょうか?

鬼龍院:X(旧Twitter)のおすすめ欄を見ることが多いですね。あそこは「世間で見られているもの」が流れてくるわけですから。今世間では何が話題になっているのか、流行っているのか、怒られているのかを見るには、今でもXは便利に使っています。あとは似たようなものなんですけど、何万回以上リポストされている投稿を紹介するBOTアカウントがあるんですよ。それもチェックしています。流行っているものには必ず理由があるので、何万回もリポストされている投稿には、そうなる背景があると思うんです。それを自分のなかで解明できるまで考える……ということをよくやります。

ーーX以外に世間の動向をチェックするものはありますか? たとえば、TikTokやYouTubeなどは。

鬼龍院:見なくはないけど、たまにですね。TikTokは自分の興味のある動画ばかりが流れてくるようにカスタマイズされてる仕組みじゃないですか。僕の場合は大体ニーハイソックスを履いている女性の動画だらけになるので、参考にならないんですよ。本当に……ニーハイを履いた女性ばかりが……流れてきて……。

ーーその話は一旦置いておきましょう(笑)。では、YouTubeはいかがですか?

鬼龍院:YouTubeの急上昇ランキングはたまにチェックしますけど、よく知らない人たちがよく知らないことで炎上して謝罪していたりするので……“世間の流行”の参考にはならないことのほうが多いかもしれません。そうだ! 最近観たYouTubeだと、VTuberのしぐれういさんの配信は面白かったです。

ーー「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」で知られる、イラストレーターとしても活動されているいわゆる“個人勢”のVTuberですね。

鬼龍院:生配信がおすすめに出てきていたので、何気なく再生してみたんですけど、これが面白くて! 9歳という設定なので、普段は子供らしいアニメ声で視聴者からのコメントに返信しているんですけど、「ういちゃんかわいいよ」みたいなコメントには「ありがとう」ってアニメ声で返すんですね。それが「ういちゃんのランドセルいい匂いがする」といった一歩踏み込んだコメントがくると、素の声で「うわきっしょ」となる(笑)。そこからまたすぐに普段のキャラクターに戻る……みたいな。

ーーたしかに、一歩踏み込んだ芸風ですね。

鬼龍院:若干ブラックな面がある方が面白いと思うんですよね。視聴者のボケとツッコミのキャッチボールが面白くて、コント番組としてもよくできているコンテンツだと思いました。

■まずは思いついたらなんでもやってみるべき

ーーちなみに、TVはご覧になることはありますか。

鬼龍院:ツアー先で地元のTVニュースをチェックするようにしています。

ーーそれはなぜですか?

鬼龍院:TVのニュースで「明日は◯◯市でお祭りが開催されます」なんてやっていれば、交通が混雑するかもしれないと想定して動くことができるし、ライブのMCで「このあとお祭りに行くんでしょ?」みたいに呼びかけたら、お客さんは「自分の街のことを知ってくれている」と嬉しく思っていただけるんじゃないかな、と。その土地のことを何も知らなくて「ここどこだっけ?」となってしまったらお客さんに失礼ですし。

ーー昨年発売された書籍『超!簡単なステージ論 舞台に上がるすべての人が使える72の大ワザ/小ワザ/反則ワザ』(リットーミュージック)でも、「地方のお客さんは、手垢がついた地元話に飽き飽きしている」という項目がありましたが、ご自身でも実践されている。

鬼龍院:ただ、僕よりすごい人はいるんですよ。氣志團の綾小路翔さんは、インターネットやTVからその土地の情報を得るのではなくて、前乗りして地元のスナックに行くんだそうです。そこで地元の人と交流して、メディアだけでは知ることのできない、リアルな情報を聞く。その結果、MCがすごい。「どうしてそんなこと知ってるの?」という話がバンバン出てくるんです。

ーーそこまで行くと、もはや取材の領域ですよ!

鬼龍院:だから、僕なんてまだまだですよ。上には上がいます。

ーー他には?

鬼龍院:チェックするのは、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)と『ゴッドタン』(テレビ東京)かなあ。

ーーどちらもバラエティ番組ですね。そして、ともに藤井健太郎さん、佐久間宣行さんという、攻めた企画で知られるプロデューサーが手掛けています。頭を使ってギリギリを攻めているという意味では、ゴールデンボンバーと近しいものがあるかなと。

鬼龍院:やっぱりギリギリを攻めているものがいちばん面白い、いちばん勉強になりますね。こういったバラエティで芸人さんが体を張ったり、精神的に追い詰められたりすることをハラスメント的だという声もありますが、むしろ「かわいそう」と言われるのがいちばんイヤなんじゃないかなとも思う。そういう時は、大いに笑うことが(バラエティにおいては)大事なので。地上波のTV番組だってここまでやってるのに、公共の電波に乗せていない我々が負けてちゃいられないなと思っています。

ーー“ただ単にタブーを破るだけ”では通用しない世のなかではあります。

鬼龍院:破るだけで面白いと思っているのは小学生くらいですよ。面白ければタブーを破っていなくてもいいわけですし。とはいえ、タブーを破っていて、かつ面白いというのが最高だと思います。

ーーなるほど。

鬼龍院:これは佐久間さんもラジオ(ニッポン放送『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』)で、「全部が全部、毎回面白くないといけないわけではなくて、3回に1回ものすごい面白い回があるくらいのほうがいい」というようなことをおっしゃっていたんです。面白くなりそうなものをとりあえず放り込んでみて、「今回はよかった」「今回はそうでもなかった」と続けていって、またその次の回で「ものすごい化学反応が起きた!」みたいなことって起こるんです。むしろ「このバンドはいつも70点だな、次のライブもどうせ70点だろうな」と思われたらよくないんです。「こっちは金払ってるんだから毎回100点を出せ」という不可能なことを言ってくる人の声は聞かなくていいとも思っています。

ーーその場にいる全員が同じように「100点だ」と感じることも不可能に近いと思いますし。人は自分の見たいものしか見ませんし。

鬼龍院:それで言うと、僕はよく思うんですけど、人は自分の信じたいようにしか信じないんです。もちろん、それで上手くいっている面もたくさんあると思います。たとえば、僕の顔がすごく怖そうだったら、今いるファンの方はいなかったかもしれない。それで勘違いも生んでしまったわけですが。

ーーどういうことですか?

鬼龍院:僕って、「一生童貞です!」みたいなことをずっと言ってる雰囲気の顔をしているんですよ。

ーーすみません。やっぱり、どういうことですか?

鬼龍院:僕は30歳頃から「モテない」とは絶対言わないようにしていたんです。むしろ「モテる」と公言していたんです。でも、“最近まで「モテない」と言い続けていたように思い込ませてしまうような顔”をしているんですよ。だから「モテなさそうな雰囲気の男性が好き」というファンの人がついた。それは“いい面”ですよね。でも、そうなると僕が「白だ」と言ってても、先入観から「鬼龍院さんは黒だと言ってた!」みたいな思い込みで決めつけてしまうことも増えたんです。これは近年学んだことのひとつですね。

ーー先入観からくる期待というものは難しいですね。言ってしまえば、このインタビュー記事だって「ゴールデンボンバーは鬼龍院さんのアイデアによる戦略でブレイクした」という先入観から、「バズってヒットを生む戦略を教えてください!」という期待があるわけですから。

鬼龍院:そうそう。期待されているという反面、それはプレッシャーにもなりますよね。「あれはたまたまなんだよなあ~」みたいな(笑)。でも、そこで「そんな方法はありません」と言ってしまったら、インタビューが終わってしまうので、なんとかひねり出すわけですけども。

ーーそこは、我々のようなメディア側が鬼龍院さんのサービス精神に甘えてしまっているところかもしれません。

鬼龍院:だた、方法論としては、「結局数を打つしかない」ということは言えると思います。あんなに大ヒットを連発してるように見える秋元康先生だって、そもそも膨大な数の作品を発表しているので、当たらなかったものだってたくさんあるとご本人がいろいろな本やインタビューでもおっしゃっていて。僕だって、くだらないことを思いつく数が多いだけで、スベっているものもたくさんあるわけです。だからあまり偉そうなことは言えないけれど、最初から「完璧にやらなきゃ!」と思って動きが鈍くなるよりも、まずは思いついたらなんでもやってみるべきだと思います。

■人と違うことをやりたい、“普通”よりは“変”でいたい

ーーこれまで戦略的なことばかりお伺いしてしまっているのですが、音楽面でのインプットはどのように行っているのでしょうか?

鬼龍院:正直、最近の音楽のことはわからないといいますか。ヒットチャートに入るような曲を聴いても「いい曲だな~」と思うものの、あんまり覚えられないんですよ。でも、それって普通のこと――「10代の頃に聴いた音楽にいちばん影響を受ける」みたいな調査や研究をもとにした記事って、いろいろなところで目にするじゃないですか。

ーー最近ですと、『GIGAZINE』の「10代で聴いていた音楽が生涯にわたって影響を与える」「新しい音楽の発見は24歳でピークを迎える」など音楽と年齢に関する調査結果が報告される」(2024年5月6日公開/※1)という記事が大きな反響を呼んでいました(※なお、出典とされているThe New York Timesの記事とDeezerの調査は2018年、アジャイ・カリア氏の記事は2015年のもの)。

鬼龍院:そうやって数字で証明されていることなら仕方ないなと(笑)。

ーー鬼龍院さんは『マイ・フェイバリット・アルバム』(NHK-FM/2024年4月22日から26日放送)では、B'zやMALICE MIZER、DIR EN GREYなど90年代J-POPやヴィジュアル系バンドの名盤を中心に紹介されていましたし、その頃の音楽がご自身の主な創作の根源になっていると。

鬼龍院:ただ、新しいものを生み出すことができなくても、今の世のなかで僕のような90年代のJ-POPやJ-ROCKをやっている人間はむしろ珍しいんじゃないでしょうか。

ーー最初の「人と違うことをやっていたら目立つ」「印象に残ってくれたらいい」につながってきますね。

鬼龍院:「あの頃の音楽よかったよね」と僕らの世代が思うのは当たり前かもしれないけど、20代くらいの若い層にも90年代J-POPが好きという人も多いですよね。だから、90年代のJ-POPやJ-ROCK的なものを再現することは、まだまだ価値があることだと考えているので、2020年代の音楽シーンがどんなに変わっていったとしても、自分の好きな90年代の音楽の素晴らしさを伝える活動をしていきたいと思っています。

ーー昨年発表された「Yeah!めっちゃストレス」はラップパートから突如ケルト音楽に切り替わる展開で、「斬新だ」という声もたくさんありました。

鬼龍院:あの曲はアプローチとしては珍しいかもしれませんが、新しい音楽を作ったとは言えないラインでもあると思っていて。ミュージシャンとして、そうは言ってはいけないことだと考えています。目新しいといっても、ケルト音楽ってロールプレイングゲーム内のBGMとか、いろいろな場所で使われていますし。つまり、みんなが好きな音楽じゃないですか。僕も好きですし、それを盛り込むことは自然な流れですよ。

ーーYouTubeのコメント欄では「無印良品のBGM」と言われてましたし、ゲームやお店のBGMとして耳に馴染んでいる曲調といえば、たしかにそうですね。

鬼龍院:だから、聴いてくれた人がいい反応をしてくれたら「やっぱそうでしょ!」って思う。それだけですね。そうやって作った曲でライブをやって、お客さんの前でメンバーと色々なことをして、それが楽しかったらそれでいいんです。“新しいかどうか”ってことや“戦略”みたいなことも、あんま考えてないですよ。ただ、何を出してくるかわからない存在でありたい。とにかく、人と違うことをやりたい、“普通”よりは“変”でいたいんですよ。

※1:https://gigazine.net/news/20240506-when-stop-finding-new-music/

(取材・文=藤谷千明)