高齢になっても何ごとも楽しめる人とそうでない人は何が違うか。医師の和田秀樹さんは「日本には高齢者に対する妙な生活規範や道徳観の押しつけがあるが、高齢になっても何ごとも楽しめる人になるか、何をしてもつまらない人になるかは、自分の『欲望』とのつき合い方にかかっている。『いい年をして』『年甲斐もなく』は高齢者を縛る『呪いの言葉』だと心得るといい。年齢より見た目年齢が若々しい人の共通点は気持ちが若く、自分の欲望に素直に従ってやりたい放題やっている」という――。

※本稿は、和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kimberrywood

■「見た目年齢」の差はあっという間に開く

現代人は総じて、見た目も肉体年齢も若返っています。

一応、WHO(世界保健機関)の定義にならって、日本でも65歳以上を「高齢者」と定めていますが、65歳になって「自分は高齢者の仲間入りをしたんだな」と実感する人はまずいないでしょう。時代とそぐわなくなってきているのは明らかです。

ただ、これは私が6000人以上の高齢者を診てきた中で気づいたことですが、60代も半ばを過ぎると、同じ年齢でも、とてもそうは思えないほど若々しい人と、ひどく老け込んで見える人の差が激しくなるのがわかります。

しかも、「見た目年齢」の差は、その後、年を重ねるにしたがって、ますます開いていきます。

つくづく、老いは個人差の激しいものだと痛感します。

では、年齢より若々しく見える人は、老け込んでしまう人と何が一番違うと思われますか?

ズバリ、「気持ちが若い」のです。

気持ちが若い高齢者は、年齢など気にしていません。自分のお気に入りの服を着て、食べたいものを食べて、好きなところへ出かけます。足腰が弱ってきても「楽しめるのはいまのうちだから」と、かえって活発になることもあります。

■「自分自身にブレーキをかける」と悪循環に陥る

一方、老け込んでいく人は、「もう年なんだから海外旅行はやめよう」「食べ物も野菜中心の健康的なものにしよう」「もう若くはないのだから目立つ格好はやめておこう」というふうに何事にも用心深くなって、自分自身にブレーキをかけるようになります。

そうなると、心の自由も行動の自由もどんどん奪われてしまい、年齢通りの高齢者になってしまうのです。

少し前のことになりますが、フランスのモンペリエ大学のヤニック・ステファン博士は、1万7000人以上もの中年と高齢者を追跡調査して、「主観年齢」つまり自分が感じている年齢が、若ければ若いほど健康度がアップし、老いていくスピードがゆるやかになる、という事実を突き止めました。

一方、主観的年齢が高い人は、無意識のうちに身体的活動に制限がかかって運動するのが面倒になり、ストレスの対応力が衰えるとともに、自分の身体への関心も消極的になって、最終的には病気と縁が切れなくなるという悪循環に陥ってしまう可能性がある、というのです。

こうなると、高齢者が実年齢を意識するのは百害あって一利なし、と言っても過言ではありません。

実年齢は、シルバーサービスを利用するときくらいに思い出すことにして、それ以外はきっぱり忘れてしまいましょう。自分が感じる年齢のほうが、実年齢よりも、いまのあなた自身を表しているのです。

■自分の「欲望」と正しくつき合う

日本には、高齢者に対する妙な生活規範や道徳観の押しつけがあります。

「年を取ったら派手なことは控えるべきだ」とか「欲はもたずに淡々と生きるべきだ」とか勝手に決めつけますが、何の根拠もありません。にもかかわらず、それに反するような行動をとろうものなら、「いい年をして」「年甲斐もなく」みっともない、と顰蹙(ひんしゅく)を買うのです。

何より問題なのは、高齢者自身も、その押しつけを自ら受け入れてしまっていることです。しかし、これは本質的に間違っています。

年とともに前頭葉の機能が落ちてきて、ただでさえ意欲が弱まってきているのですから、好き勝手にやりたいことをやったほうがいいのです。

写真=iStock.com/kumikomini
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「いい年をして恥ずかしい」などと、やりたいことをいたずらに押さえ込んでいると、何もやる気が出なくなり、何をやってもつまらないという人間になってしまいます。

高齢になっても何ごとも楽しめる人になるか、何をしてもつまらない人になるかは、自分の「欲望」とのつき合い方にかかっているのです。

■80歳を超えてエベレスト山麓など108カ国も訪ね歩く

歌人で精神科医の斎藤茂吉の妻・輝子さんは、夫亡きあと、80歳を超えても世界各国を旅行していました。

それもエベレスト山麓やアフリカなど、年齢を考えると周りがハラハラしそうな旅先です。しかしそんなことは歯牙にもかけず、好奇心のおもむくままに108カ国も訪ね歩いたそうです。

息子の北杜夫さんとの対談で、「偉大な人の妻っていうのは、みんな悪妻に決まっているんだもの」と開き直っているのが痛快でした。

まだまだ倫理観が強かった昭和の時代、道徳律や「年甲斐もなく」という世間の圧力とは無縁の生き方を貫かれたのはすばらしいと思います。

最近は、70歳を過ぎても、バイクを乗り回したり、ファッションを楽しんだりする人がめずらしくなくなってきました。髪を染めて、ジーンズをはいている高齢者がいたとしても、驚かれませんし、ましてや奇異な目で見られることもありません。

和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)

若い人たちからは、「カッコいい!」ともてはやされることさえあります。そういう時代になってきたのです。

「いい年をして」「年甲斐もなく」は高齢者を縛る「呪いの言葉」だと心得て、そんなふうに周りから言われるのを気にしたり、自分に言い聞かせたりしないで、おもしろそうだなと思ったことはやってみることです。

どうぞ、自分の欲望に素直に従って、やりたい放題、やってください。シングルなら恋愛も大いに結構。

せっかくここまで生きてきて、やっと手にした自由な人生を自ら手放してしまっては、もったいないことこの上ありません。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)