主将としてベルギーを牽引するデ・ブライネ。(C)Getty Images

写真拡大

 シュツットガルトのスタジアムに不穏な雰囲気が漂っていた。ベルギーがウクライナと引き分け、他会場ではスロバキアとルーマニアとの試合が引き分けに終わったことで、ベルギーはグループリーグを無事に突破。決勝トーナメント進出を決めていた。

 だがスタジアムには大きなブーイングが飛び交う。スタジアムにはもちろんベルギー、ウクライナのファンだけではなく、地元ドイツのファンや他国のファンも観戦に訪れている。彼らからすると、せっかくのEUROだからスリリングで、アトラクティブな試合を見たいという思いを抱くのはわかる。チケット代だってそこまで安くはない。

 だがそうしたニュートラルなファンからではなく、むしろゴール裏に陣取るベルギーファンから大きなブーイングが沸き起こっていた。僕の近くに座っていたベルギーファンの顔を見ていると怖いくらいだ。

 ベルギー代表キャプテンのケビン・デ・ブライネは試合後の記者会見で、「試合では時にリスクチャレンジをして、時に賢くプレーすることが求められる。試合終了2分前では賢くプレーすべき」と話していた。アディショナルタイムにCKをえたシーンで、コーナーフラッグ付近でボールをキープしていたシーンについての説明だった。
【PHOTO】EUROで躍動する名手たちの妻、恋人、パートナーら“WAGs”を一挙紹介!
 しかしファンのブーイングはこのシーンで起こっていたわけではない。もっと前からだ。後半まだ充分時間が残されている時間帯から、相手にプレッシャーを受けているわけでもないのにGKまでパスを戻すシーンが続いていた。前半からウクライナの守備に苦しめられ、思うように決定機を作れないという試合展開が続いていただけに、ファンからするとギアをあげて攻勢を仕掛けてほしいという願いもあったことだろう。

 結果として両試合ともに引き分けで終わったことで勝ち抜けを決めることができた。たが、もし終盤に失点して負けた場合は、4位でグループリーグ敗退となる危険とも隣り合わせだった。そしてウクライナの攻撃を問題なく跳ね返せていたというほど守備が安定していたわけではない。

 実際、終盤にウクライナにゴールチャンスはあった。第2節のルーマニア戦ではチームとしての機能性も躍動感もあっただけに、歯がゆい思いをしたファンも少なくないのだろう。

「決勝トーナメント進出を決めたのにファンにブーイングを受けたことにチームは少なからずショックを受けている。試合後のロッカールームは静まり返っていた」とデ・ブライネは話していた。
 そんな簡単ではない状況だからこそ、デ・ブライネのような経験豊富な選手の存在が極めて重要になる。ルーマニア戦後に自信の役割についてこう語っていた。

「若い選手もいる。初めて大会に参加する選手もいる。サポートをしなきゃという気持ちがあるし、責任感も持って取り組んでいる。僕はもう10年間代表にいる。これが最後になるかはわからないけど、可能な限り僕の経験をみんなに伝えていきたい」

 ドメニコ・テデスコ監督も「選手として、そして人間として素晴らしい。ポジティブな人間性がチームにどれだけの支えになっているか。こうあるべきという《マスター》がピッチにあるというのはとてもいいことだ」と全幅の信頼を寄せている。これもルーマニア戦後のコメントだ。
 
 ルーマニア戦でも、このウクライナ戦でも、デ・ブライネはチームメイトに盛んにメッセージを送っている。特にビルドアップからミスパスがあると、「焦って縦ばっかりではなく、パスを回すんだ」というジェスチャーを交えて、鋭く話しかけていたのが印象的だ。どこでパスをもらうべきか、どこへ動くべきかもことあるごとに伝えている。

「サッカーではいい日と悪い日がある。大事なのはチーム。そして勝ち残っていくこと」

 ルーマニア戦後にそう話していたデ・ブライネ。次の対戦相手はフランスだ。まだ本領発揮はされていないが、どちらも優勝候補の一つに数えられている国だ。キャプテンはチームを活性化させる活躍で、次ラウンドへ導けるか。決勝トーナメント1回戦において大注目の一戦になる。

取材・文●中野吉之伴