とにかく点が入らない試合が多い(写真はイメージです)

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あくまでも「マニア」の視点

 現在のプロ野球の「投高打低」、皆さんはどう思っているのだろうか。とにかく防御率が“優秀”過ぎる。6月20日現在は以下のようになっている。

【愕然】これじゃ見ててもつまらない? “投高打低”が一目でわかるセ・パ両リーグの打撃成績表

【セ・リーグ】
広島 2.18
阪神 2.22
巨人 2.43
DeNA 3.18
中日 2.76
ヤクルト 3.33

【パ・リーグ】
ソフトバンク 2.22
ロッテ 3.14
日本ハム 2.74
楽天 3.57
オリックス 2.69
西武 3.27

 要するに、両チームが1試合で2点〜3点しか取れないような試合が続く状態になっているのだ。試合を観ていても得点シーンを見ることはレアケース。当然、この「投高打低」状態は打撃の数字的にも影響を与えている。2024年のプロ野球が「とにかく打たない」かを見てみよう。

とにかく点が入らない試合が多い(写真はイメージです)

 なお、数字の後に持論を述べるが、正直もうプロ野球はつまらない。あまりにも点が入らなさすぎる。そして、点が入らないことを「通」ぶったプロ野球ファンは「日本のピッチャーのレベルが高いのは素晴らしい!」や「ヒリヒリするような攻防がたまらない!」などと言うが、それはあくまでも「マニア」の視点である。

ラッキーゾーン

 私のようなライトな野球ファンからすると「点が入らない試合なんてつまらんだろ」としか思えないのである。さらに言うと「打者の年俸が上がらんだろ!」とも思うのである。あまりにも「投高打低」を容認し続けると、日本のプロ野球は衰退に向かうと思う。それは2024年の高校野球センバツ大会でも見られた。

 31試合でホームランは3本。1本はランニングホームランだったため、柵越えは2本である。これは、金属バットが新たな基準となり、球が飛ばなくなったためだ。金属バット導入以降、最多は1984年の30本である。清原和博というとんでもない“怪物”がいたからとはいえ、「2本」と比較するのは今回の球児にとってはキツい。

 結局、野球というスポーツは道具によって成績が左右されるのである。或いは甲子園球場にかつてあった「ラッキーゾーン」なども。2011年と2012年は「統一球」と呼ばれる飛ばないボールが使用されたことでホームランが激減し、2013年には使われなくなった。今年についても「飛ばないボールを使っているのでは?」と各チームの強打者から疑念の声があがっている。

本当につまらない

 実際のところは分からないが、とにかく「点が入らない2024年の野球」を数字で見てみよう。具体的には、セ・リーグの2010年と今年を打率と本塁打で比較する。2024年の本塁打は、「このまま(交流戦終了時まで)のペースでシーズンを終えたら」という予想値である。

【2010年】
阪神 .290 173
ヤクルト .268 124
巨人 .266 226
広島 .263 104
中日 .259 119
横浜 .255 117

【2024年】
DeNA .250 83
広島 .240 61
ヤクルト .238 105
中日 .233 62
巨人 .232 72
阪神 .220 58

 どうだろうか……。愕然としないか? ここまで打率と本塁打数が下がっているのだ。広島と中日と阪神に至っては、日本最高記録の60本塁打を2013年に達成したヤクルトのバレンティン一人の数字しか出せていないのだ!

 私はそこまで熱心な野球ファンではない。阪神タイガースがもともと好きだったので、阪神が強い年は試合を観るし、今は「虎テレ」と契約をし、本拠地開催の試合は観るようにしている程度だ。

 だが、試合を観ていて本当につまらないのだ! なにしろ、試合のすべてが「投手がなんとかゼロ点で切り抜ける」が主眼になっている。その背景には、3割打者がいないし、30本塁打を打つ選手がいないことにある。つまり「こいつは打ちそうだ!」という選手がいないのである。

「怒られたくない」モード

 だから、阪神の攻撃の際も「この回は期待ができる!」というものがなく、「なんとかフォアボールで出てくれ」「そしてバントで送ってくれ」「犠牲フライでなんとか返してくれ」といった願いにしかならない。

 しかも、6月18日の日本ハム戦でも見られたように、3塁ランナーの森下がライトへのファールフライの際、タッチアップをしなかったのである。ライトの万波は必死に球にくらいついたため、体勢は悪かった。そこで森下はホームに駆け込んでも良かった。

 だが、打率.220のチーム。その後のヒットも期待できないため、「ここで貴重なランナーを殺すわけにはいかない……」と森下も3塁の藤本コーチも考えたのでは。森下はタッチアップをしなかった。

 だが、私はむしろ「お前! その後が打たないんだからギャンブルをしてでも走れ! しかも万波がいかに強肩だろうが、その態勢だったらまともな送球はできねぇだろ! 打てないんだったらせめて足で稼げ!」と思ったほどである。

 かくして極端な「投高打低」は実につまらない試合の展開をもたらしたわけだ。正直コレを観た瞬間「今は客が入ってるけど、日本のプロ野球は客を失うかもな」と思った。何しろ選手が「怒られたくない」モードに入っているのだ。

飛ぶボール導入といった対策を

 それは極端な「投高打低」が影響している。打者は少しのミスが年俸交渉の際にマイナス材料になると思い、積極的な攻撃ができないでいる。その一方、防御率の高い投手が続出すると投手の年俸は上がる。こうした状況が続くとますます「投高打低」が続き、つまらない試合が相次ぎ日本のプロ野球は客から見放されることになるかもしれない。

 正直私は打率.220の阪神打線に今は何も期待していない。誰が出ても打てる気がしないのである。興行として成り立たせるのであれば、「飛ぶボール導入」や「ストライクゾーンを打者にとって緩くする」といった対策をNPBはしてもいいのでは。

 さすがに「金属バットを導入しろ」とまでは言わないが、今のプロ野球は点が入らな過ぎてつまらない。私のようなライトなファンからそっぽを向かれたら、単なるマニアの趣味に落ちぶれてしまうだろう。まぁ、それでいいのであれば、1-0や2-1の試合を観たファンが「しびれる試合でした!」などと玄人的感想を述べればいい。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部