瀬尾一三と振り返る、中島みゆき「ご乱心」と言われた時代の楽曲
音楽評論家・田家秀樹が毎月一つのテーマを設定し毎週放送してきた「J-POP LEGEND FORUM」が10年目を迎えた2023年4月、「J-POP LEGEND CAFE」として生まれ変わりリスタート。1カ月1特集という従来のスタイルに捕らわれず自由な特集形式で表舞台だけでなく舞台裏や市井の存在までさまざまな日本の音楽界の伝説的な存在に迫る。
関連記事:中島みゆき『世界が違って見える日』、プロデューサー瀬尾一三と紐解く
2024年1月の特集は、「中島みゆき2024」。1988年以来、中島みゆきのすべての作品を手掛けている音楽監督・プロデューサー・アレンジャー、瀬尾一三を迎え、前半4週間は1月17日に発売になる『Singles』【リマスター】、最後の1週は同時発売のライブアルバム『歌縁(うたえにし)-中島みゆきRESPECT LIVE 2023』とアナログ盤で発売になる『世界が違って見える日』を深掘りしていく。
田家:あけましておめでとうございます。FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」マスター・田家秀樹です。今流れているのは中島みゆきさんの「やまねこ」。1986年11月に発売になったシングル。2024年最初の曲がこれです。1月17日に発売になります。アルバム『Singles』【リマスター】からお聴きいただいています。いつもは前テーマとしておかけするんですけど、今日は前テーマではなくて、今日の1曲目です。音圧、音の広がりに驚かれた方が多いでしょう。
やまねこ / 中島みゆき
今月2024年1月の特集は「中島みゆき2024」。ゲストはもちろん1988年以来、みゆきさんのすべての作品を手掛けている、音楽監督・プロデューサー・アレンジャー、瀬尾一三さん。恒例のゲスト。この番組の前タイトル「J-POP LEGEND FORUM」の時代を入れると、9回目の登場という最多ゲストであります。2024年のみゆきさんの話をいろいろ伺おうと思っております。1月19日から2020年のラストツアー「結果オーライ」以来のコンサート、「歌会 VOL.1」(*後述 歌会)が始まります。今月は5週間あるんですね。今日は1月1日ですからね。前半4週間は1月17日に発売になります『Singles』【リマスター】。そして最後の1週は同時発売のライブアルバム『歌縁』とアナログ盤で発売になる『世界が違って見える日』。このお話をしていこうと思います。あけましておめでとうございます!
瀬尾:みなさまあけましておめでとうございます。瀬尾一三です。
田家:年末はどんなふうにお過ごしになりました?
瀬尾:実は12月22日、23日までリハーサルをしてまして。
田家:歌会の?
瀬尾:歌会の。もう大詰めになってまして、最後の仕上げをやっていかなきゃいけないので、それをやっていたので次の日からほとんど廃人になってました(笑)。
田家:ははは! ライブの話はこの後お訊きしていこうと思うのですが、まずは1月17日に発売になる『Singles』【リマスター】。75年から86年までの全シングルが収められております。『Singles』(1987)はその後に『Singles2』(1994)、『Singles 2000』(2002)、『十二単〜Singles 4〜』(2013)と出ているのですが、シングルCD、コレクションシリーズの1作目。この『Singles』は瀬尾さんが関わる前の作品を集めている?
瀬尾:そうなんですよ。僕は彼女のプロジェクトに参加したのが、1988年からですので、まったく関わっておりません。でも、リマスターのプロデュースはしています。
田家:最新デジタル・リマスタリング・エンジニアがスティーブン・マーカッセンということで、彼の話はまたお訊きしようと思うんですけども、今月は全曲お届けしようということで。
瀬尾:みなさん大丈夫ですか(笑)。
田家:ともかく音が豊かだっていうことが、最大の驚きでしたね。
瀬尾:あ、やっぱり感じてくれました?
田家:はい。
瀬尾:ものすごくそれは本当に神経を使いましたね。何しろ元があるものなので、それがどこまでできるかという限りはあるのですが、一番簡単に言うと、中島さんの声の質からバック、音楽の方のクリアさと、それから中島さんとバックとの関係。あとは細かいちょっとした音楽で入ったノイズじゃないなというものをとったりとか。
田家:そういうのも入っている。
瀬尾:全部細かくやりました。
田家:それはその都度いろいろ教えていただこうと思うのですが、Disc1の2曲目です。「やまねこ」のカップリング「シーサイド・コーポラス」。
シーサイド・コーポラス / 中島みゆき
田家:1986年11月に発売になった「やまねこ」のカップリングで、アルバム『36.5℃』に収められているものなのですが、アルバムとは違いますね。
瀬尾:ここで言うのも変なのですが、僕は1988年から参加しているんですけども、それに伴ってそれまでの作品を全部届けられたんですよ。聴いてくださいと、もらったのですが、過去のいろいろな仕事の仕方とか作品にあまりとらわれたくなくって聴いてないんですよ。今回初めて聴いたんです。だからどのアルバムに入っていたかもよく知らないです(笑)。
田家:ギターの柔らかさとかみゆきさんの声のちょっとした表情、それが全然違いますもんね。
瀬尾:クリアにしようというのと、彼女のフレーズの最後までちゃんと聴かせたいというのもあって。だから、この曲のヴォーカルの扱いは特にギター一本だったので、他の楽器がない分、ある意味やりやすかったんです。だから、息遣いが聴こえるぐらいまでのところまで表現できる。昔はある意味、CD自体のクオリティもまだ低くて、息遣いのようなディティールが切れてしまったりもしていたんですけども。マーカッセンはデジタル音の処理が上手いとも言われてますが、実は生の音がすごく上手なんですよね。ふくよかに情緒をもたせるのがすごく。これは完全に彼の真骨頂だと思いますよ。
田家:最後にアルバムには入っていない、みゆきさんの独り言みたいなものがちょっと入っているんですけども、それが全然違って聴こえる。あのセリフをちゃんと聴きたかったという方はぜひお確かめくださいという。
瀬尾:はい、クリアに入ってますよ!
田家:お聴きいただくのはDisc1の3曲目「見返り美人」。
見返り美人 / 中島みゆき
田家:1986年9月に発売になったシングル。「見返り美人」は編曲、オリジナルが萩田光雄さん。
瀬尾:そう、かっこいいよね〜。
田家:でもこんなにビートの強い曲は多くないでしょう?
瀬尾:彼は天才ですよ。なんでもできます。
田家:ベースの音とかストリングスとの距離感とか、広がりがありますもんね。
瀬尾:今の技術はマスタリングの技術が進んで、スティーブンに言わせると、2トラックからヴォーカルだけを取り出して、それで細かい作業ができるんだと、いうようなことをちらっと言ってましたけどね。
田家:企業秘密みたいな(笑)。
瀬尾:彼の特許だと思うんですけど、そういうソフトを作っているみたいで、自分で。
田家:この「見返り美人」は瀬尾さんは後に1991年にシングル『トーキョー迷子』のカップリングで、瀬尾さん編曲でもおやりになっている。
瀬尾:今聴いて、あ、このメロ知ってる、と思いました(笑)。
田家:やったことあるって(笑)。
瀬尾:なんでかというと、中島さんの場合、録り直す際に前のバージョンを聴いてくれとは言わずに、デモテープを録るんです。新しくピアノと歌だけで。だから、今回の萩田さんのバージョンを聴いたのは、今作のリマスターをするためにマスターを集めた中で聴いたぐらいです。
田家:前のバージョンを聴いてくれって言わないのは、これから新しくお願いする方に対しての信頼なんでしょうね。
瀬尾:その方がこちらも自由に発想ができるし、そのやさしさなのか、前を超えろという残酷さなのか(笑)。
田家:どう違うかを判断するのは、今この番組をお聴きのあなたです。Disc1の4曲目です。「どこにいても」。
どこにいても / 中島みゆき
田家:「見返り美人」のカップリングで、アレンジが萩田光雄さん。今回のリマスター盤を聞いて、こんなにいろいろな音が入っているんだと思いました。
瀬尾:解像度がよくなかった頃のCDと比べると、本当に楽器のいろいろなものが全部聴こえてくるというか。
田家:この曲はアルバム未収録曲なのですが、瀬尾さんのアレンジで2004年の『いまのきもち』に収録されていて。
瀬尾:あ、アレンジしました。
田家:瀬尾さんプロデュースで、みゆきさんのオフィシャル・インストゥルメンタル・アルバムというのもあって、そこにも入ってました。
瀬尾:入ってますね。ちょっと好きなんじゃないですか。アルバムにも入ってなかった分、ちょっとそういうのをやってみたよと。でも、今聴くとあれですよね。萩田さんのはハリウッド・ミュージカル風な感じで風景がふわーっと出てきますよね。歌の主人公は気が落ち込んでいるんだろうけど、周りに幸せムードが漂っていて、ちょっと温かい感じがするんですけれども、アルバム『いまのきもち』(2004)で僕がアレンジしたのは町を歩いているもうちょっと落ち込んでいる主人公にしちゃってます(笑)。
田家:でもやっぱりアルバム未収録のシングルのカップリングでも気になる曲ってあったりするんでしょうね。
瀬尾:それの方が多いですよね。なぜ収録しなかったというのは、彼女の中の意見があるでしょう。流れが違うとか、アルバムを1冊の本と同じで一章、二章、三章、四章という分かれた感じで組み立てているので、作ったけれども当てはまらなかったということでシングルのB面になったという形になるのが多いと思うんです。聴いている方は、なんで収録しないんだろうと思うんでしょうけども、彼女の中ではストーリー性なり、ここに必然性がないものを、アルバムには入れないというのがあるんだと思います。
田家:こんなに未収録の曲があったんだということの発見、そういうことが『Singles』にもあります。アルバムDisc1の5曲目「あたいの夏休み」。
あたいの夏休み / 中島みゆき
田家:1986年6月に発売になったシングル。アルバムは『36.5℃』。アルバムの第一弾シングルでした。編曲が後藤次利さん。
瀬尾:はい。彼はこういうのをやらせると天才ですね。もう敵いません。すごく好きです。惜しくも途中でコンサートが中断になった「結果オーライ」(2020)の中でもこのままやっています。実際は打ち込みなんですけど、それを全部人間で再現しました。大変でしたけど(笑)。
田家:それは後藤さんがおやりになった原曲に対してのある種のリスペクトが。
瀬尾:そうです。本人からもこれはそのままの感じでやってほしいという要望があったので、なるだけミュージシャンで機械に負けてたまるか、みたいに必死でやっていました。
田家:この『Singles』はみゆきさんの歌がどう変わっていったのかを辿るアルバム、曲でもあると思うんですけど、これはロックですもんね。
瀬尾:当時のパンクとかフュージョンとかいろいろなものが上手く混ざっていて、それが中島みゆき節の中に上手く合致したものだと思います。
田家:アルバム『36.5℃』(1986)のエンジニアがラリー・アレキサンダー。パワーステーション・スタジオ。
瀬尾:ニューヨークの。
田家:ええ。これはみゆきさんが洋楽を聴きまくっていた中で、このアルバムかっこいいと思ったアルバムのエンジニアの中でこの人を彼女が指名したというのを当時のインタビューで話を聞きました。
瀬尾:すごい、珍しい。彼女が外国の方を指名するなんてなかなか珍しいことですね。
田家:そういう時期の曲が今週です。お聴きいただくのはDisc1の6曲目「噂」。
噂 / 中島みゆき
田家:「あたいの夏休み」のB面です。B面の曲でここまで凝っているんだという感じですね。
瀬尾:そうですね。こうやってあらためて後藤さんのバーションを聴くと、やっぱり後藤さんのアレンジって理論的で幾何学的ですよね。僕のは真反対で、内面の方を考えてしまう。後藤さんのやり方は内面というよりも、枠をきっちり作ってそこに本人を入れていく。僕は僕の感じている内面の彼女の作品を、彼女の方にどうやって近づけていこうかというアプローチをしていて向き合い方が極端に違うので、それで僕に無い要素に僕もとても惹かれるんだと思います。
田家:音の動かし方とか結構幾何学的ですもんね。これはアルバム未収録なんですね。でも1987年のツアー「すっぴん」の1曲目だった。1995年の「夜会」VOL.6「シャングリラ」の中でも歌われている。
瀬尾:あ! それで思い出した(笑)。聴いたメロだなと思ってた! そのときにいろいろと感じたんです。夜会は人間でやらなきゃダメなのをこういう打ち込みになっている部分をどうやってやろうかって、すごい悩んだ気がします。原型は壊さないように人でどこまでできるかという。人では表現できないところは、ちょっと自分でも変えちゃいましたけれども。ああ、そうか、なんだ、やったことがあったのか(笑)。
田家:アルバム未収録の曲でも、みゆきさんの中でもいろいろ想い入れがあるからツアーの1曲目にしたり、夜会で再度ピックアップしたりということなんでしょうね。
瀬尾:そうですね。所謂見放された子じゃないんですよね。みなさん、B面と言うと、低く感じるじゃないですけどB面のクオリティが高いときもあるんですよ(笑)。
田家:そういう『Singles』だと思っていただけると。Disc1の7曲目です、「つめたい別れ」。
つめたい別れ / 中島みゆき
田家:1985年12月に出たシングル、12インチシングルで発売になりました。ハーモニカ、スティービー・ワンダー。編曲が倉田信雄さん。スティービー・ワンダーのハーモニカが全然オリジナルと違うなと思いました。
瀬尾:響きがね。それは感じますね。このへんはマッカーセンの上手いところですよ。こういうオーケストラが入ったのもすごい上手なんですよね。弦の響きの豊かさとか。それとすべてを含めた上で倉田さん上手いなと思って。この人もすごくアカデミックなアレンジをする人で、僕にはまったくない要素なので羨ましいって人ばかりです。萩田さん、船山さん、後藤さん、倉田さんみんな羨ましい(笑)。
田家:『Singles』は瀬尾さんと出会う前にどんな人たちがみゆきさんをアレンジしてきたのかということを辿るアルバムでもありますね。スティーブン・マーカッセンさんは1942年生まれで瀬尾さんとはどこからお付き合いが?
瀬尾:昔も知ってはいたんですけど、しっかり仕事したのは2015年中島さんのアルバム『組曲(Suite)』のマスタリングからです。それからはずっとマスタリングをやってもらっています。
田家:そういう方が手掛けられたアルバムのDisc1の8曲目です。「ショウ・タイム」。
ショウ・タイム / 中島みゆき
田家:「つめたい別れ」のB面。これも編曲が後藤次利さん。80年代の音って独特なものがありますよね。
瀬尾:そうですね。やっぱり流行があって、打ち込み全盛という頃でもの珍しかったというのがあるんでしょうね。次から次へ新しいサウンドが出たり、こういう使い方をすればこんな音になって、こういうことをすればっていうのをみんなでアイディアを試し合っていた時期がありますよね。
田家:「ショウ・タイム」はそういう。
瀬尾:内容、本当にこの時代のものですか?って、言いたくなりますね。
田家:歌のメッセージは今の歌ですもんね。
瀬尾:今の曲って言われても不思議じゃないくらい。なんでこの人、常に先を見れているのか、普遍的なものの考え方を根本的に持っているのか、なんでしょうね。なんかよくわからなくなりましたよね、中島みゆきという人物が(笑)。
田家:次はDisc1の9曲目です。1985年9月に発売になりました、「孤独の肖像」。
孤独の肖像 / 中島みゆき
田家:これも編曲が後藤次利さんですね。アルバムは1985年11月の『miss M.』。当時のインタビューで「博物館をやっているか、反感を買ってでも博物館を出ていくか迷ったけど、出ていくことにした」。そういう時期ですね。
瀬尾:結局これから突入していくんですよね、そろそろね。
田家:70年代の。
瀬尾:ちゃんと宣言してるじゃないですか。
田家:変わってきますよっていうのをはっきり言いながら、それをファンの人たちは「ご乱心」だというふうに言った。
瀬尾:それはそれでいいじゃないですか。自分で宣言しているわけだから、ご乱心って言われても誰も傷つかないわけじゃないですか。その人たちがついていけるか、いけないか。ある意味聴いている方の方が試されているんだというふうな感じなのに、それを拒否してご乱心と言うのではなくて僕たち側の試験ですか?という感じで、相手がご乱心って言っちゃうのはね…… まあ、それでもいいですけどね。
田家:でも、そういう時期に関われたことが僕は幸せだと思ったんですね。その前のニュー・ミュージックのみゆきさん、来週以降そういう話になっていきますけど、そのままじゃないところに立ち会えた。それはこういう仕事冥利に尽きる。
瀬尾:でも田家さんも言ってるけど、この『Singles』ね、一番最新から一番古い方へ向かっていくでしょう?探しにくくない? 頭が混乱してきてなんかさ(笑)。バック・トゥ・ザ・フューチャーだから、なんかね、訳がわからなくなってきちゃって。
田家:ええ(笑)。今日の最後の曲、Disc1の10曲目です。「100人目の恋人」。
100人目の恋人 / 中島みゆき
田家:アレンジは後藤次利さん。「ご乱心」の時代のアルバムですけど。
瀬尾:ああ、まあそうやって言われているので、通称「ご乱心」。
田家:1984年のアルバム『はじめまして』、1985年の『miss M.』、1986年の『36.5℃』、1988年の『中島みゆき』。瀬尾さんが出る前ですね。
瀬尾:前ですね。でもコアなファン、そこの時代が好きな人いっぱいいますよ。
田家:はい。本当にいろいろな方たちがアレンジされていて、ニューヨークでトラックダウンをした『36.5℃』は後藤次利さん、久石譲さん、椎名和夫さん、船山基紀さん、萩田光雄さん。
瀬尾:なんという豪華メンバーでやっているんでしょうかね。
田家:これ以降に『Singles』が3作出ているわけですが、そういう3作と今回の『Singles』が違うのはそこでしょうね。
瀬尾:何しろデビューからを集めたものなので、彼女のある意味で前期から中期に入る形の間の変遷というか、彼女の発表するものの芯が全く変わってないというのはおわかりだと思うんですけども、そこに至る付随していくサウンドなり楽器の使い方なり、そういうのも一緒になって彼女は取り込んだ上でずっとやってきたという。だから、サウンドに負けてしまったり、時代に取り残されてしまったりする人はたくさんいるけれども、彼女はそのへんを上手く本能でちゃんとその時代、その時代にちゃんとした作品を残しているので。もう本当に僕はリスペクトです。
田家:時間を遡って過去に向かっていくというのが来週、再来週、そしてこの4週間でもあります。よろしくお願いします。
瀬尾:こちらこそ! 頑張ります(笑)。
静かな伝説 / 竹内まりや
流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
2024年元日、この番組の新年1曲目が「やまねこ」ですからね。いい始まりだなと思ったんですね。”生まれたときに落胆の声が聴こえた”。そういう始まりの歌です。女性だということで不利を被ったり、女性だということでいわれなき扱いをされたりする国がまだ地球上にはあったりするわけで、そんなことがない世界になればいいなと思ったりしながらお送りしました。
みゆきさんの1月19日から始まる「歌会 VOL.1」。2020年のラストツアーが最後まで行けずに終わってから4年ですね。「夜会」というタイトルの他には「一会」とか「縁会」。会という言葉がついているコンサートがいくつかあったわけですが、今度は歌会です。歌、真正面からという。これがタイトルになっている。どんなステージになるか、1週ごとに瀬尾さんに少しずつカーテンを開けてもらおうかなとも思ったりしております。
先駆けてこの『Singles』【リマスター】が出るんですね。1975年から1986年までの全シングル20枚、40曲。これを新しい曲から古い曲に遡っていく作業はおもしろいですね。瀬尾さんはご自分でおっしゃってましたけど、その頃は僕は関わってないんだよねという。瀬尾さんが関わってない時代の曲について、瀬尾さんに話を伺うという。これもこういう機会がなかったらできないことでしょうからね。特に今週は中島みゆきさんがファンの間で「ご乱心」と言われた時代ですからね。ここから始まって、昔のみゆきさんに会いに行く、昔の自分に会いに行く。そんな時間になったらいなと思っています。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
「J-POP LEGEND CAFE」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストにスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210
OFFICIAL WEBSITE : https://cocolo.jp/
OFFICIAL Twitter :@fmcocolo765
OFFICIAL Facebook : @FMCOCOLO
radikoなら、パソコン・スマートフォンでFM COCOLOが無料でクリアに聴けます!
→cocolo.jp/i/radiko
関連記事:中島みゆき『世界が違って見える日』、プロデューサー瀬尾一三と紐解く
2024年1月の特集は、「中島みゆき2024」。1988年以来、中島みゆきのすべての作品を手掛けている音楽監督・プロデューサー・アレンジャー、瀬尾一三を迎え、前半4週間は1月17日に発売になる『Singles』【リマスター】、最後の1週は同時発売のライブアルバム『歌縁(うたえにし)-中島みゆきRESPECT LIVE 2023』とアナログ盤で発売になる『世界が違って見える日』を深掘りしていく。
やまねこ / 中島みゆき
今月2024年1月の特集は「中島みゆき2024」。ゲストはもちろん1988年以来、みゆきさんのすべての作品を手掛けている、音楽監督・プロデューサー・アレンジャー、瀬尾一三さん。恒例のゲスト。この番組の前タイトル「J-POP LEGEND FORUM」の時代を入れると、9回目の登場という最多ゲストであります。2024年のみゆきさんの話をいろいろ伺おうと思っております。1月19日から2020年のラストツアー「結果オーライ」以来のコンサート、「歌会 VOL.1」(*後述 歌会)が始まります。今月は5週間あるんですね。今日は1月1日ですからね。前半4週間は1月17日に発売になります『Singles』【リマスター】。そして最後の1週は同時発売のライブアルバム『歌縁』とアナログ盤で発売になる『世界が違って見える日』。このお話をしていこうと思います。あけましておめでとうございます!
瀬尾:みなさまあけましておめでとうございます。瀬尾一三です。
田家:年末はどんなふうにお過ごしになりました?
瀬尾:実は12月22日、23日までリハーサルをしてまして。
田家:歌会の?
瀬尾:歌会の。もう大詰めになってまして、最後の仕上げをやっていかなきゃいけないので、それをやっていたので次の日からほとんど廃人になってました(笑)。
田家:ははは! ライブの話はこの後お訊きしていこうと思うのですが、まずは1月17日に発売になる『Singles』【リマスター】。75年から86年までの全シングルが収められております。『Singles』(1987)はその後に『Singles2』(1994)、『Singles 2000』(2002)、『十二単〜Singles 4〜』(2013)と出ているのですが、シングルCD、コレクションシリーズの1作目。この『Singles』は瀬尾さんが関わる前の作品を集めている?
瀬尾:そうなんですよ。僕は彼女のプロジェクトに参加したのが、1988年からですので、まったく関わっておりません。でも、リマスターのプロデュースはしています。
田家:最新デジタル・リマスタリング・エンジニアがスティーブン・マーカッセンということで、彼の話はまたお訊きしようと思うんですけども、今月は全曲お届けしようということで。
瀬尾:みなさん大丈夫ですか(笑)。
田家:ともかく音が豊かだっていうことが、最大の驚きでしたね。
瀬尾:あ、やっぱり感じてくれました?
田家:はい。
瀬尾:ものすごくそれは本当に神経を使いましたね。何しろ元があるものなので、それがどこまでできるかという限りはあるのですが、一番簡単に言うと、中島さんの声の質からバック、音楽の方のクリアさと、それから中島さんとバックとの関係。あとは細かいちょっとした音楽で入ったノイズじゃないなというものをとったりとか。
田家:そういうのも入っている。
瀬尾:全部細かくやりました。
田家:それはその都度いろいろ教えていただこうと思うのですが、Disc1の2曲目です。「やまねこ」のカップリング「シーサイド・コーポラス」。
シーサイド・コーポラス / 中島みゆき
田家:1986年11月に発売になった「やまねこ」のカップリングで、アルバム『36.5℃』に収められているものなのですが、アルバムとは違いますね。
瀬尾:ここで言うのも変なのですが、僕は1988年から参加しているんですけども、それに伴ってそれまでの作品を全部届けられたんですよ。聴いてくださいと、もらったのですが、過去のいろいろな仕事の仕方とか作品にあまりとらわれたくなくって聴いてないんですよ。今回初めて聴いたんです。だからどのアルバムに入っていたかもよく知らないです(笑)。
田家:ギターの柔らかさとかみゆきさんの声のちょっとした表情、それが全然違いますもんね。
瀬尾:クリアにしようというのと、彼女のフレーズの最後までちゃんと聴かせたいというのもあって。だから、この曲のヴォーカルの扱いは特にギター一本だったので、他の楽器がない分、ある意味やりやすかったんです。だから、息遣いが聴こえるぐらいまでのところまで表現できる。昔はある意味、CD自体のクオリティもまだ低くて、息遣いのようなディティールが切れてしまったりもしていたんですけども。マーカッセンはデジタル音の処理が上手いとも言われてますが、実は生の音がすごく上手なんですよね。ふくよかに情緒をもたせるのがすごく。これは完全に彼の真骨頂だと思いますよ。
田家:最後にアルバムには入っていない、みゆきさんの独り言みたいなものがちょっと入っているんですけども、それが全然違って聴こえる。あのセリフをちゃんと聴きたかったという方はぜひお確かめくださいという。
瀬尾:はい、クリアに入ってますよ!
田家:お聴きいただくのはDisc1の3曲目「見返り美人」。
見返り美人 / 中島みゆき
田家:1986年9月に発売になったシングル。「見返り美人」は編曲、オリジナルが萩田光雄さん。
瀬尾:そう、かっこいいよね〜。
田家:でもこんなにビートの強い曲は多くないでしょう?
瀬尾:彼は天才ですよ。なんでもできます。
田家:ベースの音とかストリングスとの距離感とか、広がりがありますもんね。
瀬尾:今の技術はマスタリングの技術が進んで、スティーブンに言わせると、2トラックからヴォーカルだけを取り出して、それで細かい作業ができるんだと、いうようなことをちらっと言ってましたけどね。
田家:企業秘密みたいな(笑)。
瀬尾:彼の特許だと思うんですけど、そういうソフトを作っているみたいで、自分で。
田家:この「見返り美人」は瀬尾さんは後に1991年にシングル『トーキョー迷子』のカップリングで、瀬尾さん編曲でもおやりになっている。
瀬尾:今聴いて、あ、このメロ知ってる、と思いました(笑)。
田家:やったことあるって(笑)。
瀬尾:なんでかというと、中島さんの場合、録り直す際に前のバージョンを聴いてくれとは言わずに、デモテープを録るんです。新しくピアノと歌だけで。だから、今回の萩田さんのバージョンを聴いたのは、今作のリマスターをするためにマスターを集めた中で聴いたぐらいです。
田家:前のバージョンを聴いてくれって言わないのは、これから新しくお願いする方に対しての信頼なんでしょうね。
瀬尾:その方がこちらも自由に発想ができるし、そのやさしさなのか、前を超えろという残酷さなのか(笑)。
田家:どう違うかを判断するのは、今この番組をお聴きのあなたです。Disc1の4曲目です。「どこにいても」。
どこにいても / 中島みゆき
田家:「見返り美人」のカップリングで、アレンジが萩田光雄さん。今回のリマスター盤を聞いて、こんなにいろいろな音が入っているんだと思いました。
瀬尾:解像度がよくなかった頃のCDと比べると、本当に楽器のいろいろなものが全部聴こえてくるというか。
田家:この曲はアルバム未収録曲なのですが、瀬尾さんのアレンジで2004年の『いまのきもち』に収録されていて。
瀬尾:あ、アレンジしました。
田家:瀬尾さんプロデュースで、みゆきさんのオフィシャル・インストゥルメンタル・アルバムというのもあって、そこにも入ってました。
瀬尾:入ってますね。ちょっと好きなんじゃないですか。アルバムにも入ってなかった分、ちょっとそういうのをやってみたよと。でも、今聴くとあれですよね。萩田さんのはハリウッド・ミュージカル風な感じで風景がふわーっと出てきますよね。歌の主人公は気が落ち込んでいるんだろうけど、周りに幸せムードが漂っていて、ちょっと温かい感じがするんですけれども、アルバム『いまのきもち』(2004)で僕がアレンジしたのは町を歩いているもうちょっと落ち込んでいる主人公にしちゃってます(笑)。
田家:でもやっぱりアルバム未収録のシングルのカップリングでも気になる曲ってあったりするんでしょうね。
瀬尾:それの方が多いですよね。なぜ収録しなかったというのは、彼女の中の意見があるでしょう。流れが違うとか、アルバムを1冊の本と同じで一章、二章、三章、四章という分かれた感じで組み立てているので、作ったけれども当てはまらなかったということでシングルのB面になったという形になるのが多いと思うんです。聴いている方は、なんで収録しないんだろうと思うんでしょうけども、彼女の中ではストーリー性なり、ここに必然性がないものを、アルバムには入れないというのがあるんだと思います。
田家:こんなに未収録の曲があったんだということの発見、そういうことが『Singles』にもあります。アルバムDisc1の5曲目「あたいの夏休み」。
あたいの夏休み / 中島みゆき
田家:1986年6月に発売になったシングル。アルバムは『36.5℃』。アルバムの第一弾シングルでした。編曲が後藤次利さん。
瀬尾:はい。彼はこういうのをやらせると天才ですね。もう敵いません。すごく好きです。惜しくも途中でコンサートが中断になった「結果オーライ」(2020)の中でもこのままやっています。実際は打ち込みなんですけど、それを全部人間で再現しました。大変でしたけど(笑)。
田家:それは後藤さんがおやりになった原曲に対してのある種のリスペクトが。
瀬尾:そうです。本人からもこれはそのままの感じでやってほしいという要望があったので、なるだけミュージシャンで機械に負けてたまるか、みたいに必死でやっていました。
田家:この『Singles』はみゆきさんの歌がどう変わっていったのかを辿るアルバム、曲でもあると思うんですけど、これはロックですもんね。
瀬尾:当時のパンクとかフュージョンとかいろいろなものが上手く混ざっていて、それが中島みゆき節の中に上手く合致したものだと思います。
田家:アルバム『36.5℃』(1986)のエンジニアがラリー・アレキサンダー。パワーステーション・スタジオ。
瀬尾:ニューヨークの。
田家:ええ。これはみゆきさんが洋楽を聴きまくっていた中で、このアルバムかっこいいと思ったアルバムのエンジニアの中でこの人を彼女が指名したというのを当時のインタビューで話を聞きました。
瀬尾:すごい、珍しい。彼女が外国の方を指名するなんてなかなか珍しいことですね。
田家:そういう時期の曲が今週です。お聴きいただくのはDisc1の6曲目「噂」。
噂 / 中島みゆき
田家:「あたいの夏休み」のB面です。B面の曲でここまで凝っているんだという感じですね。
瀬尾:そうですね。こうやってあらためて後藤さんのバーションを聴くと、やっぱり後藤さんのアレンジって理論的で幾何学的ですよね。僕のは真反対で、内面の方を考えてしまう。後藤さんのやり方は内面というよりも、枠をきっちり作ってそこに本人を入れていく。僕は僕の感じている内面の彼女の作品を、彼女の方にどうやって近づけていこうかというアプローチをしていて向き合い方が極端に違うので、それで僕に無い要素に僕もとても惹かれるんだと思います。
田家:音の動かし方とか結構幾何学的ですもんね。これはアルバム未収録なんですね。でも1987年のツアー「すっぴん」の1曲目だった。1995年の「夜会」VOL.6「シャングリラ」の中でも歌われている。
瀬尾:あ! それで思い出した(笑)。聴いたメロだなと思ってた! そのときにいろいろと感じたんです。夜会は人間でやらなきゃダメなのをこういう打ち込みになっている部分をどうやってやろうかって、すごい悩んだ気がします。原型は壊さないように人でどこまでできるかという。人では表現できないところは、ちょっと自分でも変えちゃいましたけれども。ああ、そうか、なんだ、やったことがあったのか(笑)。
田家:アルバム未収録の曲でも、みゆきさんの中でもいろいろ想い入れがあるからツアーの1曲目にしたり、夜会で再度ピックアップしたりということなんでしょうね。
瀬尾:そうですね。所謂見放された子じゃないんですよね。みなさん、B面と言うと、低く感じるじゃないですけどB面のクオリティが高いときもあるんですよ(笑)。
田家:そういう『Singles』だと思っていただけると。Disc1の7曲目です、「つめたい別れ」。
つめたい別れ / 中島みゆき
田家:1985年12月に出たシングル、12インチシングルで発売になりました。ハーモニカ、スティービー・ワンダー。編曲が倉田信雄さん。スティービー・ワンダーのハーモニカが全然オリジナルと違うなと思いました。
瀬尾:響きがね。それは感じますね。このへんはマッカーセンの上手いところですよ。こういうオーケストラが入ったのもすごい上手なんですよね。弦の響きの豊かさとか。それとすべてを含めた上で倉田さん上手いなと思って。この人もすごくアカデミックなアレンジをする人で、僕にはまったくない要素なので羨ましいって人ばかりです。萩田さん、船山さん、後藤さん、倉田さんみんな羨ましい(笑)。
田家:『Singles』は瀬尾さんと出会う前にどんな人たちがみゆきさんをアレンジしてきたのかということを辿るアルバムでもありますね。スティーブン・マーカッセンさんは1942年生まれで瀬尾さんとはどこからお付き合いが?
瀬尾:昔も知ってはいたんですけど、しっかり仕事したのは2015年中島さんのアルバム『組曲(Suite)』のマスタリングからです。それからはずっとマスタリングをやってもらっています。
田家:そういう方が手掛けられたアルバムのDisc1の8曲目です。「ショウ・タイム」。
ショウ・タイム / 中島みゆき
田家:「つめたい別れ」のB面。これも編曲が後藤次利さん。80年代の音って独特なものがありますよね。
瀬尾:そうですね。やっぱり流行があって、打ち込み全盛という頃でもの珍しかったというのがあるんでしょうね。次から次へ新しいサウンドが出たり、こういう使い方をすればこんな音になって、こういうことをすればっていうのをみんなでアイディアを試し合っていた時期がありますよね。
田家:「ショウ・タイム」はそういう。
瀬尾:内容、本当にこの時代のものですか?って、言いたくなりますね。
田家:歌のメッセージは今の歌ですもんね。
瀬尾:今の曲って言われても不思議じゃないくらい。なんでこの人、常に先を見れているのか、普遍的なものの考え方を根本的に持っているのか、なんでしょうね。なんかよくわからなくなりましたよね、中島みゆきという人物が(笑)。
田家:次はDisc1の9曲目です。1985年9月に発売になりました、「孤独の肖像」。
孤独の肖像 / 中島みゆき
田家:これも編曲が後藤次利さんですね。アルバムは1985年11月の『miss M.』。当時のインタビューで「博物館をやっているか、反感を買ってでも博物館を出ていくか迷ったけど、出ていくことにした」。そういう時期ですね。
瀬尾:結局これから突入していくんですよね、そろそろね。
田家:70年代の。
瀬尾:ちゃんと宣言してるじゃないですか。
田家:変わってきますよっていうのをはっきり言いながら、それをファンの人たちは「ご乱心」だというふうに言った。
瀬尾:それはそれでいいじゃないですか。自分で宣言しているわけだから、ご乱心って言われても誰も傷つかないわけじゃないですか。その人たちがついていけるか、いけないか。ある意味聴いている方の方が試されているんだというふうな感じなのに、それを拒否してご乱心と言うのではなくて僕たち側の試験ですか?という感じで、相手がご乱心って言っちゃうのはね…… まあ、それでもいいですけどね。
田家:でも、そういう時期に関われたことが僕は幸せだと思ったんですね。その前のニュー・ミュージックのみゆきさん、来週以降そういう話になっていきますけど、そのままじゃないところに立ち会えた。それはこういう仕事冥利に尽きる。
瀬尾:でも田家さんも言ってるけど、この『Singles』ね、一番最新から一番古い方へ向かっていくでしょう?探しにくくない? 頭が混乱してきてなんかさ(笑)。バック・トゥ・ザ・フューチャーだから、なんかね、訳がわからなくなってきちゃって。
田家:ええ(笑)。今日の最後の曲、Disc1の10曲目です。「100人目の恋人」。
100人目の恋人 / 中島みゆき
田家:アレンジは後藤次利さん。「ご乱心」の時代のアルバムですけど。
瀬尾:ああ、まあそうやって言われているので、通称「ご乱心」。
田家:1984年のアルバム『はじめまして』、1985年の『miss M.』、1986年の『36.5℃』、1988年の『中島みゆき』。瀬尾さんが出る前ですね。
瀬尾:前ですね。でもコアなファン、そこの時代が好きな人いっぱいいますよ。
田家:はい。本当にいろいろな方たちがアレンジされていて、ニューヨークでトラックダウンをした『36.5℃』は後藤次利さん、久石譲さん、椎名和夫さん、船山基紀さん、萩田光雄さん。
瀬尾:なんという豪華メンバーでやっているんでしょうかね。
田家:これ以降に『Singles』が3作出ているわけですが、そういう3作と今回の『Singles』が違うのはそこでしょうね。
瀬尾:何しろデビューからを集めたものなので、彼女のある意味で前期から中期に入る形の間の変遷というか、彼女の発表するものの芯が全く変わってないというのはおわかりだと思うんですけども、そこに至る付随していくサウンドなり楽器の使い方なり、そういうのも一緒になって彼女は取り込んだ上でずっとやってきたという。だから、サウンドに負けてしまったり、時代に取り残されてしまったりする人はたくさんいるけれども、彼女はそのへんを上手く本能でちゃんとその時代、その時代にちゃんとした作品を残しているので。もう本当に僕はリスペクトです。
田家:時間を遡って過去に向かっていくというのが来週、再来週、そしてこの4週間でもあります。よろしくお願いします。
瀬尾:こちらこそ! 頑張ります(笑)。
静かな伝説 / 竹内まりや
流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
2024年元日、この番組の新年1曲目が「やまねこ」ですからね。いい始まりだなと思ったんですね。”生まれたときに落胆の声が聴こえた”。そういう始まりの歌です。女性だということで不利を被ったり、女性だということでいわれなき扱いをされたりする国がまだ地球上にはあったりするわけで、そんなことがない世界になればいいなと思ったりしながらお送りしました。
みゆきさんの1月19日から始まる「歌会 VOL.1」。2020年のラストツアーが最後まで行けずに終わってから4年ですね。「夜会」というタイトルの他には「一会」とか「縁会」。会という言葉がついているコンサートがいくつかあったわけですが、今度は歌会です。歌、真正面からという。これがタイトルになっている。どんなステージになるか、1週ごとに瀬尾さんに少しずつカーテンを開けてもらおうかなとも思ったりしております。
先駆けてこの『Singles』【リマスター】が出るんですね。1975年から1986年までの全シングル20枚、40曲。これを新しい曲から古い曲に遡っていく作業はおもしろいですね。瀬尾さんはご自分でおっしゃってましたけど、その頃は僕は関わってないんだよねという。瀬尾さんが関わってない時代の曲について、瀬尾さんに話を伺うという。これもこういう機会がなかったらできないことでしょうからね。特に今週は中島みゆきさんがファンの間で「ご乱心」と言われた時代ですからね。ここから始まって、昔のみゆきさんに会いに行く、昔の自分に会いに行く。そんな時間になったらいなと思っています。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
「J-POP LEGEND CAFE」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストにスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210
OFFICIAL WEBSITE : https://cocolo.jp/
OFFICIAL Twitter :@fmcocolo765
OFFICIAL Facebook : @FMCOCOLO
radikoなら、パソコン・スマートフォンでFM COCOLOが無料でクリアに聴けます!
→cocolo.jp/i/radiko