井上尚弥のネリ撃破を識者はどう見た?初ダウン→6回TKOの要因を井上の第二の師匠が分析「ジャブから突く”いつもの戦い方”ができた」
1回のダウンで冷静さを取り戻した井上は、徐々に本来の自分のボクシングにフォーカスしていった(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
ヒヤッとさせられたものの、終わってみれば完勝だった。
5月6日、ボクシング世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が、WBC世界同級1位のルイス・ネリ(メキシコ)との防衛戦に臨み、6回1分22秒TKO勝ち。タイトル防衛に成功したこの試合は、識者の目にどう映ったのか。ロンドン五輪ボクシング・フライ級日本代表であり、井上が「第二の師匠」として慕う、須佐勝明氏に話を聞いた。
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1ラウンド目のダウンはドキドキしましたね。井上尚弥選手はもちろん仕上げてくると思ったんですが、より驚いたのはルイス・ネリ選手です。しっかり駆け引きができて、あそこまで戦えた。この試合に懸ける想いが出ていました。
井上選手は入場からかなり気合が入っていました。初めての東京ドームというプレッシャーも少なからずあったんだと思います。1ラウンドは少し力んでいましたね。いつもなら、まずはしっかり距離を把握してからパンチを当てていくことが多いんですが、今回は”倒してやろう”という気持ちが強すぎたのか、まずは一発当てて”ビビらせよう”というところがあったように見えました。それでパンチが大振りになり、相手のパンチをもらってしまったところがあると思います。
いつもより力が入っていたのは、パンチが”当たらなかった”ことからも見て取れました。普段だったら井上選手のスピードと正確性があれば、相手の身体のどこかに当たるんです。しかし、ネリ選手はしっかり距離を計って、もらわないように井上選手の出方を見ていた。そうした流れからあのダウンが生まれました。
ただ、2ラウンドからは完全に井上選手のペースでした。1ラウンドでのダウンから盛り返せた要因としては、逆に吹っ切れた、ではないですが、自分がやるべきことを再確認できたんだと思います。ジャブからしっかり突いて距離を計り、右ストレートを当てて主導権を握るという”いつもの戦い方”ができるようになったので、ラウンドを重ねる毎に井上選手の優勢は色濃くなりました。
中間距離でパンチをもらい始めたネリ選手は、井上選手の打ち終わりに距離を詰めようとしていたんですが、そこで井上選手が上手く細かいバックステップを入れて距離をズラしながら相手にリズムを作らせませんでした。
2ラウンドから井上選手は、ポイントうんぬんよりも自分のボクシングにフォーカスしていたように感じます。ネリ選手がガードを下げてやりずらそうにしていましたし、特に井上選手の左ジャブが上手かった。本来であればサウスポーの選手に左ジャブは当てづらいのですが、しっかり当ててから右のアッパー気味のボディにつないで上に返したり、サウスポーに対しての戦い方をきっちりできていました。
反対に、ネリ選手はパンチが当たらないから前に出るしかなくなった。ジリ貧になってダメージだけが蓄積していってしまうので、突破口を開くために距離を詰めるしかなくなったんです。こうなると、井上選手とすればやりやすい。勝ちパターンになったという感じです。
試合後のリングインタビューで「1ラウンド目のサプライズ、いかがでしたでしょうか」と言っていましたが、いつも以上にハイテンションでしたね。それだけ興奮していたんだと思います。
リング上でも交渉を始めると言っていましたが、次戦で対戦予定のサム・グッドマン選手はオーソドックスなタイプで井上選手とは噛み合うと思います。身長は相手の方が高いですが、撃ち合いになったら井上選手に分があるでしょう。
井上選手は充実の一途を辿っていますし、これからもコンスタントに試合をして、どこまでも突き進んでほしいですね。今年は残り2試合するようなので、いずれもKOで勝ち、日本はもちろん、サウジアラビアやアメリカでも名を轟かせてくれると思います。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
【解説】須佐勝明(すさ・かつあき)
1984年、福島県生まれ。会津工業高校から東洋大学へ。2012年、自衛隊体育学校所属時にロンドン五輪に出場。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太は東洋大学の1学年後輩にあたる。株式会社AYUA代表取締役。日本ボクシング連盟理事。日本オリンピック委員会ハイパフォーマンスディレクター。SUSAGYM会長。アジアコーチ委員会委員長。共同通信社ボクシング評論担当。会津若松市観光大使。ほか。