中日・盒狭斗(左) (C)Kyodo News

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◆ 「野球をやってきてこれほど悔しいことはありませんでした」 

 ヒーローは遅れてやってくる。中日の近未来エース郄橋宏斗投手が、4月28日の広島戦(バンテリン)でシーズン初登板初先発した。

 チーム25試合目での登板。初回一死で野間。2ボールでスタート。追い込んで中前へ弾き返された。2回は先頭の坂倉へ四球を出す。宇草を二ゴロ併殺に、矢野を遊ゴロに片付けた。4回からは3イニング連続3人斬り。7回も二塁を踏ませず108球、被安打3、無失点で降板。最速156キロだった。

「すごい歓声でした。頑張らなきゃいけないと思いましたし、緊張しました。マウンドに上がったときは足が震えていました」

 緊張の理由は計算外の開幕2軍に詰まっている。春季キャンプから調子が上がらない。フォームを見直しているうちに時間は経過する。オープン戦でも結果がマッチしない。2軍降格は3月16日、阪神とのオープン戦(バンテリン)後。3イニングで73球。初回に中軸への2連続与四球など精彩を欠いた。

「野球をやってきてこれほど悔しいことはありませんでした。ボクは2軍で野球するためにプロ野球選手をやっているわけではありません。ですが、現実は2軍でした」

 ウエスタン・リーグ4試合登板で3勝1敗、防御率0.93。圧倒的成績を残して今季初めての1軍マウンドへ向かった。

 再起のプロセスは踏んだ。直近3年間の投球動画を見比べた。もちろん、1軍デビューイヤーで6勝(7敗)した2022年、WBC世界一で始まった翌23年シーズンも含まれる。

 現実を受け止めて、理論を追及し、最後は根性。4月中旬には1週間で両翼のポール間走を120本こなした。通常なら週に10本。

「すぐに1軍とはならないと思って、もう1度下半身を鍛えました」

 やるだけやった自負がある。4月20日のオリックス戦(ナゴヤ)で7イニングを投げて被安打3、失点3。昇格を待った。

 シーズン初登板を終えた感想は「まず点を取られなくてよかったです。自分のバントミスで勝てなかったと思っているので、9人目の野手としてまた練習します」。3回無死一塁での犠打失敗を振り返った。

 日常だった外食は控えている。今季から独り暮らしをスタートさせている。開幕2軍決定後、約1カ月外食していない。自宅へ届くのはカットしている食材。炒めたり焼いたり。「料理とは言わないですけど、栄養も考えられています」。

 ドジャース・山本由伸の食事をオリックス時代に担当していた栄養士のアドバイスを受けて、メニューは決まるという。

 2軍では腹圧を意識してボールの勢いを取り戻した。

「回転数を含めたデータもよくなりました。リリースの位置が高くなったのは、分かりやすい変化です」

 シーズンはまだ始まったばかり。郄橋宏の快投は立浪竜を盛り上げ、上位進出の原動力となる。

文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)