ヒューゴー賞は世界で最も歴史の古いSF・ファンタジー文学賞であり、世界のどこかで毎年開催される世界SF大会(ワールドコン)で受賞作が発表されます。2023年のワールドコンは中国の成都で開催されましたが、審査委員会がヒューゴー賞の最終選考作から「中国で問題になりかねない」として複数の作品や作家を除外していたことが判明しました。

The 2023 Hugo Awards: A Report on Censorship and Exclusion - File 770

https://file770.com/the-2023-hugo-awards-a-report-on-censorship-and-exclusion/



Authors ‘excluded from Hugo awards over China concerns’ | Hugo awards | The Guardian

https://www.theguardian.com/books/2024/feb/15/authors-excluded-from-hugo-awards-over-china-concerns

Science fiction authors were excluded from awards for fear of offending China

https://www.nbcnews.com/news/world/science-fiction-authors-excluded-hugo-awards-china-rcna139134

ヒューゴー賞は前年に発表されたSFおよびファンタジー作品の中で優れたものに授与される、SF分野で最も権威のある賞です。長編小説部門や短編小説部門などさまざまな部門があり、特に有名な長編小説部門の受賞作にはフィリップ・K・ディックの「高い城の男」、ロバート・A・ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王」、ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」、劉慈欣の「三体」などがあります。

そんなヒューゴー賞の最終選考作は、ワールドコンの運営母体である世界SF協会の会員投票で絞り込まれます。ところが、中国の成都で開催された2023年のワールドコンについて主催者が公開した情報から、一部の作品または作家が最終選考作にノミネートされるのに十分な得票数を集めたにもかかわらず、なぜか審査委員会から「適格ではない」と見なされて最終選考作から外されていたことが判明しました。

最終選考作から漏れた作品にはR・F・クァン氏の「Babel, or the Necessity of Violence(バベル、あるいは暴力の必要性)」や、Netflixオリジナルドラマ「サンドマン」の原作者であるニール・ゲイマン氏、シーラン・ジェイ・ジャオ氏の「鋼鉄紅女」などが含まれます。これらの作品は中国と関連していたり、作家自身が過去に中国を批判していたりしたため、「ヒューゴー賞の審査プロセスにおいて中国当局に配慮がなされたのではないか」という疑惑が生じていました。



そして2月14日、ジャーナリストでもあるSF作家のクリス・バークリー氏とジェイソン・サンフォード氏の報告書で、2023年のヒューゴー賞審査委員会が「中国当局に不快感を与える可能性がある」として、一部の作品を検閲したことを示すメールがリークされました。

2023年のヒューゴー賞審査委員長だったデイヴ・マッカーティ氏は6月5日付のメールで、「今回は中国で開催されるため、私たちを取り巻く『法律』が異なります」「作品の中で政治的な性質に敏感なものを示す必要があります。すべてを読む必要はありませんが、もし作品が中国・台湾・チベット・その他中国国内で問題になりそうなトピックに焦点を当てているのであればそれを示し、投票用紙に載せても安全か、あるいは法律による行政的な判断が必要かを判断できるようにしなくてはなりません」と述べ、中国当局に目を付けられそうな作品を除外することを示唆していました。

メールをリークしたのは、自らも2023年のヒューゴー賞審査委員だったダイアン・レイシー氏です。レイシー氏はバークリー氏らに宛てた声明で、「私たちは中国・台湾・チベット・その他中国で問題になりそうなトピックに焦点を当てた作品を調べるように指示され、恥ずかしながら私はそれに従ってしまいました」と述べています。また、レイシー氏はジャオ氏の「鋼鉄紅女」について、武則天(則天武后)の台頭をメカで再構築した作品であると指摘したそうですが、それが中国当局にとってマイナスなものかはわからなかったとのことです。

1月にヒューゴー賞審査委員長を辞職したマッカーティ氏は、メディアによるコメントの要請に応じませんでした。イギリスのグラスゴーで開催予定の2024年度ワールドコンの審査委員長を務めるエスター・マッカラム・スチュワート氏は、「私はコミュニティの深い悲しみと怒りを理解しており、同じ苦悩を共有します」と述べ、審査委員会は今後、賞の透明性を確保して信頼を回復させるための措置を講じると述べました。