カワサキモータースジャパンより、2023年7月に発売されたスーパースポーツモデル「Ninja ZX-4RR KRT EDITION」。価格は115万5000円(税込み)(写真:三木宏章)

カワサキのバイクが面白い!

昨年10月に東京ビッグサイトで開催された「ジャパンモビリティーショー2023」でも、現主力製品のスポーツモデルZXシリーズへのNinja誕生40周年記念グラフィックモデルの導入や、伝統のメグロブランドをモチーフにした最新型ネオクラシックモデル「MEGURO S1(メグロS1)」のリリース、そしてファン待望のカワサキ初の公道走行可能なEVスポーツモデル「Ninja e-1」の発売(2024年1月13日発売)など、カワサキは過去・現在・未来を想うコンシューマーへのアプローチに余念がない。

また2019年には、バイクマニア垂涎とも言えるイタリア・ビモータ社との共同ビジネスの展開をスタート。カワサキがパワーユニットを供給し、ビモータ社からプレミアムモデル「KB4」が販売されるなど、活躍の場を拡大している。

久々の400cc・4気筒モデル登場


ZX-4RRのスタイリング(写真:三木宏章)

そんな中、同社は国内マーケットの主力クラスとも言える普通自動二輪車免許セグメントへ、久々の400cc・4気筒を導入したことで話題となっている。かつてのバイクブーム時代に各メーカーがしのぎを削り、最新技術でパワー競争に突入したスポーツバイクの代名詞「ニンジャ」のブランニューモデルだ。今回試乗したNinja ZX4-RR(正式名称は「Ninja ZX-4RR KRT EDITION」、以下ZX-4RR)の発売は昨年7月で、発売されるやいなや、バックオーダーが最長6カ月待ちというほどの人気になっている。

このZX-4Rシリーズには、今回試乗したNinja ZX-4RR KRT EDITIONのほか、同時発売された「Ninja ZX-4R SE」(112万2000円/税込み)、さらに2023年12月23日に発売された特別仕様車「Ninja ZX-4R 40th Anniversary Edition」(117万7000円/税込み)がある。

今回試乗したZX-4RRはボディーカラーがライムグリーンで、リアサスペンションにはSHOWA製フルアジャスタブルサスペンションを導入。もう1機種のZX-4R SEは、ボディーカラーにブラック基調のモデルとメタリックブルーの2タイプがあり、リアサスペンションに関してトップグレードではないものの、USB電源ポートやスモークウインドスクリーンにフレームスライダー等の装備が充実しているユーティリティーモデルといえる。特別仕様車のNinja ZX-4R 40th Anniversary Editionは、ZRXシリーズをイメージした3色カラーリングとサイドカウル「KAWASAKI」ロゴが特徴となっている。


ZX-4RRのリアビュー(写真:三木宏章)

ZX4-RRの昨年実績で言うと、7月発売以降から昨年末までの販売実績で2モデル(ZX-4RR KRT EDTIONおよびZX-4R SE)合算2387台。このセグメントにおいてはホンダ「GB350」など、シンプルで購入しやすい価格帯の車両が上位を占めるが、販売価格110万円を超える価格にもかかわらず、スタートの良さが印象的といえる。

軽量コンパクトなZX-4RRの車体に驚く


ZX-4RRに跨がった筆者(写真:三木宏章)

実際に目の前にたたずむZX-4RRは、あまりにもコンパクトだ。それもそのはずで、ベースは2020年に発売された250ccモデル「ZX-25R」となる。ZX-25Rは、250ccクラスに4気筒エンジンを搭載し、アジア地区で人気が高く、話題をさらったマシン。その車体をベースに400ccまで排気量を拡大した専用エンジンを搭載したというわけだ。

基本的なシャーシデザインやサイズ感、カウルデザインなども共有し、このクラスでのアピアランス向上を狙ったものだろう。

跨がってみると、その印象はよりリアルで、足つき性やタンクホールド時に4気筒エンジン搭載とは思えないスリム感があり、ハンドル・シート・ステップの位置が見事に調和している。ハンドルは低すぎず高すぎずで、タンクに対して前後にハンドルが遠くないのが安心材料といえる。

アイドリングや低回転域では従順さが際立つ


アクセルや前輪ブレーキレバー、セルなどのスイッチまわり(写真:三木宏章)

メインキーをまわしてセルスイッチを引き下げると、どちらかと言えばか細い音でセルがまわり静かにエンジンに火が入る。これなら住宅地やマンション地下駐車場でも気兼ねせずに早朝の出発も可能だろう。とても、このあとに77PSを発生し、1万5000回転までまわるとは思えない印象だ。


クラッチレバーとスイッチまわり(写真:三木宏章)

アシスト付きクラッチのレバーは軽い。アイドリングは少々高めで、その回転数付近から少しアクセルを開けながらギアを1速に入れる。節度感のあるミッションの手応えを感じながら右手のスロットルを開けてやると、ここでも拍子抜けするほどにフレンドリーで、仕上げのよいクラッチがスムーズにZX4-RRをスタートさせた。


走り出せばクラッチ不要のクイックシフターの作動感は上位クラス以上とも言える精度の高さで、ライダーの意思に答えてくれる(写真:三木宏章)

直後、矢継ぎ早にシフトアップを行い、ミッションフィーリングを確認しながら時速30km/hでの回転数を見てみると、3速3000回転でも心地よく走れた。同じ速度のまま6速まで入れると2000回転を切ってしまい、さすがにドライバビリティーが一気に悪くなる。まぁ、実際にこの速度で6速ギアを選ぶことはないが、低速回転の仕上がりは上々といえるだろう。

しかし、このエンジンが本領を発揮するのは「そこ」ではない。実際、5000回転を超えてからのサウンドは加速度を増して官能的になっていく。とくに各ギアでの7000〜9000回転あたりのスロットルレスポンスは秀逸で、見やすいフルカラーTFT液晶メーターのお陰で、そのエンジンのライブ感が楽しめる。


総排気量399cc水冷4ストローク並列4気筒エンジン。最高出力は57kW(77PS)/14,500rpm、ラムエア加圧時に59kW(80PS)/14,500rpmを発生する(写真:三木宏章)

しかし、それでも、エンジン性能のわずかしか引き出しておらず、さらにアクセルを開き、1万回転オーバーまで上昇させていくと、メーターに目を配る余裕をライダーに与えないほどの加速感を味わえる。1速ギアで一気に最高回転数の1万5000回転までまわすと、時速80km/hをあたりまで速度が上昇する。もちろん、最新のSuperSport1000ccクラスでは、1速で軽く180km/hオーバーなんていうマシンも多いが、それらは現代の交通環境を考えると、あまりにも現実的ではないだろう。

ZX4-RRは、そのあたりのユーザビリティーに関しては決定的にフレンドリーで現実的なマシンだ。

扱い切れる楽しさが詰まったメイキング


視認性に優れたフルカラーTFT液晶メーター(写真:三木宏章)

コンパクトに仕上げられた車体まわりのお陰で、乗り手としては「乗せられている」と言うよりも「乗っている」感が強く、操る楽しみが十分に味わえる。400ccの奏でるエンジンサウンドと、軽快だが落ち着いたフロントまわりのハンドリングに市販車最高峰レースでの圧倒的な強さを持つカワサキのエンジニアリングも感じずにはいられない。

高いエンジン性能とハンドリング性能の基本ベースをしっかりと構築したうえで、上位機種からフィードバックを受け、さらにライダーとの一体感を高めている。


筆者による試乗シーン(写真:三木宏章)

パワーモードの切り替えは「フルパワーモード」と「ローパワーモード」の2種類で、ダイナミックな加速感が持ち味のフルパワーモードに対して、ローパワーモードはスリッピーな路面コンディションやツーリング時に最適化された穏やかなエンジン特性を演出しているので、走行環境に合わせて選べるところも嬉しい。近年は多くのライディングモードを用意しているモデルも多いが、2モードしかない選択も乗り手を迷わせない潔さがある。

KTRC(カワサキトラクションコントロール)は、3段階もしくはOFFの選択が可能。システムはさまざまなパラメーターを監視し、最も効果的に作動するように作られている。単に滑ったからアクセル開度を戻すといった制御ではなく、さまざまな走行条件を瞬時に演算し最良の状態を作るあたり、上位機種からのフィードバックも多いと感じたポイントだ。


最大トルクは39N・m(4.0kgf・m)/13,000rpmとなる(写真:三木宏章)

インテグレーテッドライディングモードは、「スポーツ」「ロード」「レイン」から選ぶことができ、フルパワーとローパワーのパワーデリバリーとトラクションコントロールが各モードにデフォルトでセットされている。さらにライダーモードにすれば、パワーデリバリーとトラクションコントロールを任意でセットできるので、サーキット等で走りを追求するライダーには嬉しい装備となっている。

日常使いに適したトルク感とギア設定


市街地でも扱いやすいギア比も魅力のひとつ(写真:三木宏章)

それにしても、乗ると素晴らしいエンジン特性だ。実際、日常で使う有効回転数は実質2500〜1万回転で、通常走行ではトルクの落ち込みを感じることもなかった。

市街地走行の速度を6速ギアの場合で見てみると、40km/h時に2500回転、50km/h時に3100回転、60km/h時に3800回転、80km/h時に5000回転、100km/h時に6200回転(すべて筆者メーター目視)といった具合だ。交通量の多い市街地から高速巡航まで、最新エンジンらしくトルクをうまく使う、ギアレシオ設定にも好感が持てる。

1980年代の400cc戦国時代を知るライダーにとっては、「高回転高出力」は合言葉のように唱えられ、乗りにくさも美学であったようにも思い出される。

しかし、現代技術の粋を集めたZX-4RRは、インジェクションにフライバイワイヤー技術、ラムエアシステム等の高性能吸気システムに、徹底的に効率化が図られた排気システムなど、さまざまなテクノロジーがガソリンの1滴も無駄にしない完全燃焼を目指すことで、性能と環境問題を乗り越え、最高技術故に乗りやすいマシンに仕上がっていることをZX-4RRが教えてくれたようだ。

乗り手を選ばないスーパースポーツ


400ccのミドルクラスとしては、久々の4気筒モデルということもあり、大きな注目を集めているZX-4RR(写真:三木宏章)

1995年の免許改正以降、大型自動二輪免許は教習所での取得が可能になり、多くのライダーは最高峰を求めてリッターバイクへ移行してきた。一世を風靡した400ccミドルのスーパースポーツは、コスト高のマシンとしてメーカーラインナップからはずれ、いつしかその人気は最大排気量へ移行していたのだ。しかし今回、ZX-4RRをリリースしたカワサキは、本当のバイク好きがバイク好きに向けたマシンをしっかりと作り込んできたと改めて感じずにはいられない。


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ZX-4RRは、取りまわしの良い軽量コンパクトなマシンでビギナーライダーでも十分に操れるだろう。一方、仕上がりの良さが、名車を乗り継いできたベテランライダーをも唸らせることは間違いないはずだ。現代の最新技術が400ccミドルクラスのマシンに新しい息を吹き込んだ。

スーパースポーツ・ニュージェネレーションがカワサキZX-4RRだ。

(宮城 光 : モータージャーナリスト)