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家事や育児、介護などの分担をめぐって、家族間で言い争いが増えて、いつのまにか一緒にいて心地よい存在だったはずの家族が「つかれる存在」になってしまった……そんな話を聞くことがよくあります。

どうして自分の不満が家族に伝わらないの? どうしたら「つかれない家族」になれるの? そんなふうに「つかれる家族」と「つかれない家族」を考察するこの連載。

数回に分けて「妻の海外赴任に夫が帯同する」という形を経験したご家庭の話を紹介しています。その夫であり、ジャーナリストである小西一禎さんは、その形を「駐夫(ちゅうおっと)」と名づけ、発信活動を続けている方です。前々回は「駐夫になった経緯と、その生活のジレンマ」(記事はこちら)、前回は「駐夫家庭の家事育児分担の変遷」(記事はこちら)、そして今回は「マッチョイズムとのジレンマ」を紹介します。

根が「昭和の男」な夫


妻に「完璧な家事」を求めがちだった


稼いでいないと、妻より立場が下な気がする


バリバリ働く仲間がうらやましい


アメリカ人と話すと、自分の決断に誇りを持てた


駐夫について執筆活動を始めた


退職を決意、フリーのジャーナリストに


妻にビシッと言われることに抵抗なし


落ち込んだときは妻に気持ちを打ち明けて


妻といると、素の自分でいられる!


いろんな色のパパがいていい



アメリカ滞在中、家族旅行でモニュメントバレーを訪れたときの一枚。撮影は真美子さん。悩んだこともあったが、海外での家族の楽しい思い出もたくさん作れたそう(写真提供:一禎さん)

24時間365日、ご機嫌ではいられないから

いろんなご家族を取材してきた私は、「抱えている悩みやストレスの情報をパートナーに共有する」というのは、つかれない家族を作るうえで大事なことだと思うようになりました。なぜかというと、理由も言わず、ただイライラしたり、不機嫌になったり、疲れていたりすると、パートナーはどう対処していいかがわからず、そのストレスは家族に連鎖し、家庭によくない空気が生まれるからです。


たとえば、どちらかの家事育児が手抜きになっていたときも、その背景に「仕事でこういうトラブルやストレスがあって疲れている」とか理由がわかってそうなっているのと、何の説明もなくそうなっているのでは、パートナーの感じ方がかなり変わります。もちろん、言いたくないこともあるのは当然なので、何もかも話さなくてもいいのですが、ある程度の共有は必要です。

ですが「人に弱みを見せるのはよくないこと、かっこ悪いこと」と無意識に思い込んでいる人がかなりの割合でいて、特に男性に多いような気がしているのです。でも、その思い込みは、時にパートナーシップの歪みを作り、個人の生きづらさを作り出してしまいます。

人は誰しも、24時間365日、ご機嫌でいることはできません。長い結婚生活なら、なおさらそうです。「いつも笑顔のお母さん」「いつもかっこいいお父さん」が理想像として語られることもありますが、それを目指しすぎると、必ずどこかでストレスがたまり、悪循環が生まれます。グチを延々と垂れ流しすぎたりイライラをパートナーにぶつけるのは論外ですが、ある程度は「かっこ悪い自分」「弱い自分」を相手に見せて、弱音を吐けるのは、家庭のいいところだと私は思っているのです。

今回のご夫婦は、共に華やかなキャリアを持ち、行動力にあふれ、前例が少ない働き方に挑戦してきたおふたりです。そういうパワーカップルが、悩んだりケンカしたりぶつかったりメンタルダウンしてきたことを告白するのは、社会にとってとても意味のあることのように私は感じました。そして、真美子さんいわく「私はポジティブ思考でこの人はネガティブ思考」というおふたりは、なんだかんだでバランスがいいご夫婦だとも感じたのです。

今後も、一禎さんは、真美子さんにビシバシ突っ込まれながら、そして惑いながら、自分の働き方を模索していくのでしょう。そして、その惑いは、いい意味でとても人間らしく、現代を表しているな、と感じました。

この連載にはサブ・コミュニティ「バル・ハラユキ」があります。ハラユキさんと夫婦の問題について語り合ってみませんか? 詳細はこちらから。

(ハラユキ : イラストレーター、コミックエッセイスト)