関連画像

写真拡大

東京に転勤したばかりの会社員シホさん(30代)はお酒を飲むのが趣味で、新たな店を開拓することに余念がありません。

この日も、ビールや日本酒など一通り飲み、最後にカラオケでも…と雑居ビルのスナックに行きました。一見の客に対してママも優しく、居心地がよかったそうです。

そこに居合わせた中年のおじさんとも意気投合し、デュエットしたり一緒に写真を撮ったり。名刺や電話番号を交換し「また飲みましょう!」と約束して、帰路につきました。

翌日、名刺の会社を調べてみると暴力団関連だとの情報が…。同僚にも聞いたところ、「あのスナックはヤクザだよ」といいます。シホさんは、「暴力団と関係のある者」とされないか不安になってきました。

知らなかったとしても、問題になるのでしょうか。民事介入暴力対策にくわしい徳山佳祐弁護士に聞きました。

●自治体が条例で定める「関係者」

ーー各自治体が制定する暴力団排除条例では、暴力団暴力団員だけでなく、「暴力団関係者」も規制されています。どのような場合に、「暴力団関係者」にあたるのでしょうか。

自治体によって具体的な内容は少しずつ異なりますが、たとえば東京都暴力団排除条例では、暴力団暴力団員に加えて、暴力団関係者等が規制対象とされていて(同条例2条4号)、規制対象になると、各種の契約・取引から排除されたり、不動産の取得、利用にあたって制限を受けたりすることとなります(同条例18条、19条)。

このうちの「暴力団関係者」とは、暴力団員または暴力団もしくは暴力団員と密接な関係を有する者と定められています(同条例2条4号)。この「暴力団もしくは暴力団員と密接な関係を有する者」とは、たとえば、暴力団または暴力団員が実質的に経営を支配する法人等に所属する者や暴力団員を雇用している者、暴力団または暴力団員を不当に利用していると認められる者、暴力団または暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる者等がこれにあたるとされています。

・警視庁HP「東京都暴力団排除条例Q&A」(以下、「警視庁Q&A」Q6)
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/anzen/tsuiho/haijo_seitei/haijo_q_a.html

ーーヤクザと一緒にゴルフをしたり、飲み食いしたり場合も、「暴力団関係者」にあたるのでしょうか? シホさんのように知らずにたまたま居合わせた場合はどうでしょうか。

裁判例(※1)や「警視庁Q&A」Q6によれば、「暴力団関係者」の該当性判断にあたっては、

(1) 暴力団員とはじめから知っていて交際したのか
(2) 暴力団員と知ってからの対応はどうだったか
(3) 交際として深い関わり合いがあったのか
(4) 交際は家族ぐるみであったのか
(5) 仕事上の付き合いがあったのか
(6) 暴力団から何かしら利益を得る関係にあったか

などが考慮されるとされています。

これらの要素から考えると、たまたま立ち寄った店が暴力団と関係を持っていて、そこで常連客の暴力団員と意気投合し、一緒にデュエットや写真撮影をしたとしても、それをもって直ちにシホさんが暴力団関係者であると認定されることにはならないといえるでしょう(「警視庁Q&A」Q6にも、暴力団員と一緒に写真に写ったことがあるというだけで、暴力団関係者とみなされることはないと記載されています)。

ただし、その店や常連客の属性をわかったうえでなお、その店を度々訪問して、常連客らと頻繁に飲食したり、仕事や取引上の関係を持つに至ったりした場合には、「暴力団関係者」として暴排条例の規制対象となるリスクがあります(「警視庁Q&A」Q7参照)。

※1: 東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会編『企業による暴力団排除の実践』(2013年・商事法務26頁)、大阪地裁平成22年8月4日決定、大阪高裁平成23年4月28日決定(いずれも公刊物未搭載)

●優先すべきは「身の安全」、専門家に相談を

ーー連絡先も交換してしまったシホさんは、今後、どのように対応すればよいでしょうか。

そのスナックは行かないようにするとともに、「中年のおじさん」やスナックからの連絡には応じず、関係を遮断することが重要です。また、名刺も渡しているとのことですので、会社にも報告し、万が一、「中年のおじさん」が会社を訪問してくるようなことがあれば、直ちに引き取るよう伝え、それでも居座る場合には、不退去罪を理由として、警察への連絡も辞さない毅然とした対応をとるべきです。

そして、何よりも優先すべきは、シホさんやその周辺の方(家族、同僚等)の身の安全ですので、これらの対応にあたっては、警察や弁護士等の専門家にも相談してください。

ーー飲食店を経営している場合、お客さんとして迎えることも違反になるのでしょうか。

飲食店についても、上記(1)〜(6)を考慮しながら、「暴力団関係者」にあたるかどうかが判断されることになります。

たとえば、ヤクザであることを知りながら、常連客の誕生会、還暦祝い等多数の暴力団員や暴力団関係者が集まるようなイベントを店で開催したり、困った客への対応や売掛金の回収等をその常連客に依頼したりした場合には、利益供与や利用関係のある「暴力団関係者」と判断されることになるでしょう(「警視庁Q&A」Q7参照)。

飲食店としても、暴力団員であることがわかった段階で、関係遮断・解消に向けて対処することが求められますが、一方、飲食店はオープンスペースであることが多く、関係遮断・解消が難しい側面があります。ここでも、従業員等の身の安全を最優先とし、警察や弁護士等とも連携しながら対応することを心がけましょう。

【取材協力弁護士
徳山 佳祐(とくやま・けいすけ)弁護士
約12年間の明治安田生命での企業内弁護士としての経験(法務部8年、人事部4年)を活かし、企業のリスクマネジメントや反社・マネロン・クレーム対応のほか、人事労務に関する総合的なサポートに取り組む。日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会幹事、第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会副委員長(2024年2月時点)。
事務所名:プロアクト法律事務所
事務所URL:https://proactlaw.jp/