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青森県内にあるスーパーマーケットが今年から、従業員の「頭髪・アクセサリー」に関するルールを大幅に緩めた。これによって、髪色やピアス・ネイルが、原則として「自由」となる。

このスーパーのX公式アカウントが投稿したところ、おおむね好意的に受けとめられたが、店長は「実際に何か問題が起きるとすればこれからでしょう。お客さんからクレームがあれば、正直に説明するつもりです」と話す。

これまで業界の常識では、頭髪やアクセサリーに関するルールは厳しく運用されてきた。しかし、さまざまな分野で人手不足が叫ばれる中、この常識を破らなければ「採用が厳しい」とこぼす。

今回の「見た目自由化」の背景や、従業員の反応について、店長に語ってもらった。

●アクセサリーも結婚指輪以外はNGとされていた

頭髪やアクセサリーの社内基準について大幅な緩和を発表したのは、青森県十和田市にあるスーパー「ヤマヨ十和田店」だ。ちなみに、ヤマヨ十和田店は「十和田店」とついているが、ほかに店舗があるわけではなく、そのまま社名にもなっている。

ヤマヨ十和田店の投稿は1月18日にあった。

<ヤマヨは従業員の頭髪・アクセサリー等の社内基準を大幅に緩和しました。今後すごく明るい髪色や、ピアスをつけた従業員がウロウロするかもしれません。ネイルをしているかもしれません。小売業・接客業の常識とはかけ離れていますが、社内外共に賛否あるのは重々承知の上で決定いたしました。

見た目と仕事の質は100%関係ないだとか、風紀も全く乱れないとは言い切れません。ただ、スーパーで働いてるからといって、あれもこれも我慢しろというのも少し乱暴だった気がします。誠に勝手ではありますが、皆様のご理解を頂ければ幸いです。尚、様々なご指摘は個人ではなく店長にお聞かせ下さい。>

取材に応じた店長によると、昨年まで、売り場の担当は頭髪を染めるなら茶系など、控えめな色に限られ、アクセサリーも結婚指輪を除いては許可されていなかったという。

今回の緩和によって、髪色やアクセサリーは原則として「自由」となった。もちろん例外もある。

「どれくらいの髪色、髪型ならOKとか、こんなピアスであれば何個までならOKといった規定をガチガチに作ったわけではなくて、完全自由ではないけど、ほぼ自由です。頭髪なら極端な例だと、アフロやドレッドヘアなど、衛生帽をかぶれないような髪型はさすがにNGです。薄い手袋をつけられないほど長いネイルやデコもダメですね」

●レジ打ちの「採用」が難しい時代になった

今回の大幅緩和は、同社の社長の提案を受けて、店長ら幹部も賛同して今年1月から始まった。取り組みの最大の理由は「採用数を拡大するため」だ。

「今の御時世、人を集めるのは正直大変です。他店でも働き手がいないために、スーパーを新規出店しようとしても、レジの人が足りないことがあります。

我々の業種であれば、売り場に出ない製造などバックヤードの採用より、レジ打ち・陳列・接客など表に立つ人の採用が難しい。昔は逆でした。

表に立つ仕事が敬遠されるのは、お客さんから直接何か言われたくないし、クレーマーの対応もしなければいけないからです。SNSに写真などを晒されるリスクもあります。言われなきことを書かれたりもするかもしれません」

だからといって、レジの仕事だけ時給を少し高くしても集まらない。応募者は20代、50代〜60代が多く、30代〜40代の世代からは少ないという。

「採用がお金で済むなら手っ取り早いです。お金はもっと少なくてもいいから、とにかく楽に働きたい人もいるので、お金だけの問題ではない気がしています。この業種や職種自体に何か問題があるんじゃないかと考えていました。

時給を上げるとか、従業員の望む曜日を休みにするとか、どの企業もすでに"マイナーチェンジ"には手を尽くしていて、そうした企業や経営者の努力による変化には従業員や同業者は気づいてるんですけど、もっと振り幅を大きくしないと、ちょっとした変化なら働き手にもなりえるお客さんが気付いてないんですよ」

そこで「振り幅」を大きくするためとして、「見た目の自由化」を取り入れることにした。

「髪色NGとかピアス・ネイルNGとか、そうした業界の常識が採用募集において敬遠されてきた部分もあります。そうした中で、なぜこんなに厳しくいけないのかという自問自答もありました」

そのような中で、頭髪や服装自由に踏み切った同業者も現れるなど、業界の動きをみて、背中を押されたという。

「それに、SNSでは、みんなが厳しくなったと同時に、おおらかになったところもありますし、公表してみました」

SNSでは好意的な反応が目立ち、ホッとしたそうだが、心配されるのは来店した客の反応だ。

●「取りつくろってもしょうがないので、ありのままを説明する」

「始めたばかりなので、まだ何も起きていませんが、お客さんとのトラブルの心配は当然ありますよ。言い方は乱暴ですが、クレームが起きやすい、届けやすい職種・業種です。ECと違って、人が見える、言える、電話もつながる。人が見えやすいがゆえに、必ず何かしらのことが起こるとは思っています」

もしもクレームがあったときには、「取りつくろってもしょうがないので、ありのまま『採用が厳しい。納得しにくいと思うけど、そういう時代ですよ』と説明します。こちらの弁を届けつつ、基本的にはずっと聞いて、溜飲を下げてもらうしかないかなと思っています」

クレームは想定しつつも、頭髪やアクセサリー類を原因とした事故の発生には気を付けているという。

「あってはならないことですが、ピアスを食品に落とすとか、1つでも事故があれば、付け込まれてしまうので、その対策はしっかりしておく必要があります。食中毒が発生したら、因果関係がなくても『茶髪でたらたらしてるんだ』と言われますから。

かと言って、ピアスを付けた人のほうが、おそらく事故には気を付けると思います。これまであった規則をかたくなに守り続けてきた人のほうが、逆に緊張が緩む可能性もあります。慢心を生むかもしれない」

●従業員側の反応は「綺麗なグラデーションです」

締め付けではなく、緩和ということもあり、従業員には事後説明したという。女性がほとんどを占める従業員たちの反応は一様ではなかった。

「両手をあげて喜ぶ人もいれば、懸念する人もいました。従業員も一歩外に出ればお客さんですから、安全面・衛生面の懸念を示す人はいます。面白いことに、年齢で綺麗なグラデーションとなっていました。

若い子ほど受け入れて、ベテランほど複雑な感じです。漠然と『いいとは思うけどいいのかな』『良くないんじゃないの?』という反応でした。10代、20代の従業員の中には、次の日にはピアスを付けてきた子もいました。早い(笑)。若い子は、ダメだと言われた決まりごとは絶対に守ります」

●「私たちがしてきた我慢」の美学を刺激する可能性?

従業員が見せた反応からしても、クレームを入れてくる客層もまた「一定の年齢より上の女性ではないか」と予想している。

全体的に女性客のほうが多く、男性客のクレーム件数は少ない。ただし、男性のクレームの場合は、事件性も感じられるほど、大事になりやすいという。

女性客のクレームは商品や従業員、接客、駐車場が危ない、お客さんが多すぎるなど、多岐にわたっている。

「ある年代を超えた女性には、我慢することについての『美学』があるような気がしています。従業員でも今回の変化を一気に飲み干せないくらいなので、女性のお客さんも『私のときには我慢して続けてきたんだよ』というプライドを刺激する可能性が高いのではないかと思っています」

いずれにせよ、もし見た目についてクレームがあれば、丁寧に説明していく考えだという。