刑事弁護のレジェンド「裁判は公開が原則だ」大型モニター切る運用批判 裁判員裁判、傍聴席から証拠見えず
1月25日、東京地裁立川支部で開かれた裁判員裁判の初公判で、法廷壁面の大型モニター電源を切ったまま証拠調べを進めた検察官に対し、弁護人を務める高野隆弁護士が「裁判は公開が原則」として、傍聴席からも見えるよう意見する一幕があった。
裁判員裁判の法廷では、裁判官や裁判員、検察官や弁護人らが座る机にモニターが置かれている。採用された証拠書類などをモニターに示しながら、検察官や弁護人が説明するためだ。同様に法廷の左右壁面にも大型のモニター(以下大型モニター)が備え付けられており、裁判官らが見ている内容とおおむね同じものが映し出される。
ところが近年、裁判員裁判の大型モニターの電源が終始切られていることが珍しくない。弁護人はこれに異議を唱えたものだ。(ライター・高橋ユキ)
●「傍聴人は何一つ見れない状況で傍聴している」
1月25日、東京地裁立川支部303号法廷で開かれた殺人等の裁判員裁判初公判。10時に開廷すると、被害者の氏名や住所などを秘匿すると裁判長が告げた。検察官が読み上げた起訴状で被害者は「Aさん」とされ、居住地も「小金井市」以下は伏せられた。
検察側、弁護側双方の冒頭陳述が終わり、壁面の大型モニターの電源が切られたまま、検察官請求証拠の取り調べが始まろうとしたところで、弁護人の高野隆弁護士が「大モニターの電源が切れていますが」と指摘した。
検察官はこれに対して「被害者へのプライバシーの観点から消す判断を……」と述べ、裁判長も「大モニターは使用しない」と発言。大型モニターの電源が切られたまま、約40分間、検察官請求の証拠調べが続いた。
朗読内容から、事件現場の状況や被害者の発見状況、現場の捜索差し押さえ状況や被害者の死因等についての証拠だったようだ。現場住所などが公になれば被害者のプライバシーにかかわるためだろうか。
そして12時20分、休廷に入る直前に、再び弁護人が「裁判は公開が原則」として、大モニターの電源を入れるよう申し立てた。検察官はこれに反対したところで、弁護人は続けた。
「裁判所は検察官の申し入れを受け、証拠番号1から4まで大モニターの電源を切って証拠調べを行った。傍聴人は何一つ見れない状況で傍聴している。大モニターの電源を切っていたことを公判調書に記載していただきたい」
裁判長がこの求めに応じるような返答をしたところで休廷となり、午後は再び大型モニターの電源が切られたまま、検察官請求の証拠調べが続いた。ところが午後に取り調べられた証拠の中には「逮捕直後の被告人の手」の写真があった。
「1番の写真は被告人の両手です。2番の写真は被告人の左右の手の背面、3番の写真は被告人の左手背面、4番は左の手のひら……」などと検察官が読み上げながら手元のパソコンを操作していた。モニターには数字に対応した被告人の手の写真が表示されているのだろうと想像する。
「被害者のプライバシーの観点」という検察官の理由とは無関係の証拠であることは明らかだが、ここで大型モニターの電源が入ることはなかった。
対する弁護側請求の証拠調べでは大型モニターの電源が入れられ、差し支えのある部分のみマスキング、または大型モニターの電源を適宜切るなどして進められていた。
●何を調べているのかよく分からない
裁判員裁判の法廷では、殺人事件であれば、被害者のご遺体に関わる証拠については大型モニターの電源が切られるが、その証拠の取り調べが終われば、また大型モニターの電源が入るといった運用がなされることが慣例となっている。
ところが近年、裁判員裁判の大型モニターの電源が終始切られていることが珍しくない。裁判官や裁判員、検察官や弁護人らが、机の上のモニターを眺めながら証拠調べが進められるが、傍聴席ではそれらを見ることができない状態となる。
これについて説明がなされない場合も多く、理由が不明のまま裁判が進む。裁判員らに対して分かりやすい刑事裁判を目指しているようだが、傍聴席にいる者たちにとっては何を調べているのかよく分からない。
別の傍聴人も高野弁護士が大型モニターをつけるよう求める場面を目撃している。2022年1月28日、いわゆる東名あおり事故の差し戻し審、第二回公判でのこと。今回と同様に証拠調べの際に検察官が大型モニターの電源を切ったままでいると、高野弁護士が「公開裁判を受ける権利がある」「公開できないようなものはない」等意見し、裁判長は「秘匿すべきところはする」として大型モニターの電源が入れられたという。
「モニターには、中井パーキングエリアの見取り図や事故車の写真、被害者の車と被告人の車がどう走ったかを図にしたものなどが映されました。事故当時に通った他車のドラレコ映像や、衝突したトラックのドラレコ映像、事故後の車の状態がわかる写真も映っていました」(傍聴人)
検察側の請求する証拠では「被害者のプライバシー」を理由としながら、秘匿の範囲がそれとは無関係なものにまで拡大しつつある。高野弁護士の意見は、こうした現状を変えることになるのか。今後も注視していきたい。