転売禁止の図書館「除籍本」がメルカリに大量出品、「税金で買った本」なのにいいの?
図書館を訪れると、「ご自由にお持ちください」「リサイクル本」といった張り紙のあるコーナーに、利用者が持ち帰ることのできる本が並んでいることがある。
これらの本は「除籍本」と呼ばれ、傷んでしまったり、情報が古くなったりした場合、図書館が蔵書から定期的に外すもので、しばしば利用者に無償で提供されている。
しかし、一部の利用者は除籍本を転売し、中にはメルカリやヤフオクなどで高額で販売している人もいる。図書館によっては利用者に除籍本の転売禁止を求めており、対応に苦慮している。
除籍本はもともと、税金で購入されたものであり、除籍後にどのように扱うべきなのか、図書館関係者の間でも議論は分かれる。「税金で買った本」の行方は--。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
⚫️転売見つけたらメルカリに取り下げ要請も
「除籍本は、けっこうメルカリで販売されており、見つけたときはメルカリに連絡して、取り下げてもらってます」
そう話すのは都内の公立図書館の司書だ。この図書館では定期的に除籍本を利用者に無償で譲渡しているが、図書館の要項では、除籍本を古書店などに転売することを禁じている。ところが、持ち帰った除籍本をメルカリに出品する利用者が絶えないのだという。
「無料でもらった本なのに、定価に近い金額で売られていたケースもありました」と対応に困っているという。
また、除籍本転売を禁止している関西地方の公立図書館に勤める司書は「昔から、除籍本を古書店へ売却する人はいました」と話す。ただ、地域の図書館が除籍本の転売を禁止している場合などは、古書店では買い取りはしない姿勢があったという。
「でも、ネットのフリマやオークションだとそういった意識は働きません。絶版で流通していない除籍本ならメルカリで高額販売しよう、という気持ちもわからなくもないです。
ただ、そうしたケースが増えると、転売を禁止している図書館としては、除籍本を提供せず、裁断して処分するという流れになるかもしれません。できることなら、やめていただきたいと思います」(関西地方の公立図書館司書)
⚫︎ブックオフは買い取りせず、メルカリは出品禁止物ではない
古書を買い取る側は、除籍本をどのように扱っているのだろうか。
中古品販売大手「ブックオフ」を展開するブックオフグループホールディングスは、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、次のように回答している。
「除籍本の買取はブックオフチェーン(店舗および公式ECサイト)では、蔵書印等のスタンプが捺されている本はお売りいただくことができません」(広報担当者)
買い取りできないもの基準の一つに「書き込みがあるもの」とあり、除籍本はこの対象となるという。
また、除籍本が多く出品されているメルカリは、「図書館の除籍本につきましては、現状出品禁止物ではございません。メルカリでは、自治体と組み『メルカリShops』で図書館から除籍された本やバスの発券機などの販売をおこなっている事例もございます」(広報担当者)とコメントしている。
⚫︎転売禁止を定めるも根拠となる法令はなし
図書館が除籍本の転売を禁止する理由の一つには、もともと市民の税金で購入された本であり、営利目的で再利用されることは馴染まないという考え方がある。
地方自治体の公立図書館の中でトップクラスの蔵書数を誇る大阪市立図書館も、除籍本の転売を禁止している。大阪市立図書館は「除籍図書等の無償譲渡に関する実施要領」を定めており、除籍本を譲渡する個人や団体に対し、次のように求めている。
「譲渡を受けた除籍図書等は、売却するなど営利目的に利用しないこと」
「譲渡を受けた個人にあっては、自己の読書以外の目的に使用しないこと」
「譲渡を受けた団体にあっては、読書活動以外の用途に供しないこと」
もしも、これらの条件を守れなかった場合は、除籍本を図書館に返還しなければならないとも書かれているが、どこまで「実効力」があるのだろうか。
大阪市立図書館の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「この実施要領は、図書館で定めたものであり、根拠法令等があるものではありません」と説明する。
法的な効力はない中で、どのように利用者に守ってもらうのか。大阪市立図書館では、利用者が除籍本を譲渡してもらうとき、申込書兼受領書の提出も求められる。
「申込書兼受領書に『譲渡を受けた図書等は、売却するなどの営利目的には使用しません』という文言を記載しており、確認したうえで記名いただいておりますので、すべての受領者にご承知いただいていると考えております」(大阪市立図書館担当者)
⚫️「除籍本は必要な人のところへ届くことに価値」
図書館によっては、除籍本の転売禁止ルールを設けていないところもある。その一つである、東北地方のある公立図書館で働く司書はこう話す。
「除籍本の転売は、公的な備品を利用して特定の個人が利益を出すことへの嫌悪感、また、転売者に大量の本が渡ることで市民に本が渡らなくなってしまうという不公平感が市民に生じる可能性があることは理解できるものの、蔵書を保存しきれず除籍して廃棄せざるを得ない立場としては、除籍本が必要な人に届き役立つことが一番価値のあることではないかと考えています」
除籍本をどうしたらよいのか。図書館界でも意見が分かれるところだ。
九州地方のある公立図書館も、除籍本の転売を禁止していない。「禁止しても法的に罰則がないので、市民のモラルに委ねるしかない」(館長)というのが理由だという。
「税金で買った本」の行方は、最終的には地域の人たちに託されている。